女王陛下の007
<ON HER MAJESTY'S SECRET SERVICE>
69年 イギリス映画 130分

監督:ピーター・ハント
音楽:ジョン・バリー
出演:ジョージ・レーゼンビー(ジェームズ・ボンド)
   ダイアナ・リグ(テレサ)
   テリー・サバラス(ブロフェルド)
   ガブリエル・フェルゼッティ(ドラコ)
   バーナード・リー(M)
   ロイス・マクスウェル(マネーペニー)
   デズモンド・リュウェリン(Q)

(ストーリー)
海岸沿いをドライブ中のボンドは、入水自殺を図ろうとしている女性を見つけ、救助する。だが、急に敵が襲ってきて格闘戦になり、気付いたら女は消えているのだった。
その後、カジノにやってきたボンドは、あの時の女と出くわす。得意のおとしのテクニックでもって、部屋に誘われるという所まで持っていくが、部屋に行ったら黒人のマッチョに襲われるのだった。
そして、チェックアウトの際に、銃を持った連中にどこぞかへ連れていかれてしまう。着いた先は、ある犯罪組織のボス、ドラコの待っている部屋だった。そしてそこで、あの女が実はドラコの一人娘なのだと聞かされる。ドラコは放蕩者の娘をもてあまし気味で、「結婚でもすればおとなしくなるに違いない」と思い、ボンドに娘と結婚するよう頼むのだった。
見返りに、英国諜報部が総力をあげて追っている、犯罪組織スペクターのボス、ブロフェルドに通じる情報を与えるというのだ。
元々彼女に惹かれつつあったボンドはそれを了承し、ドラコの情報から、スイスの山奥で行われているアレルギー治療の施設にブロフェルドがいるらしい事を突き止める。そこでは、ブロフェルドが世界各地から集めてきた「何らかのアレルギーを持っている美女」に対して、催眠療法を行っていたのだが、実は、テロ行為を行うように洗脳もしているのだった。
身分を偽って、客としてその施設にやってきたボンドは、美女達を口説いたりしつつ、ブロフェルドの陰謀の調査をするのだった。

(感想)
ボンド役が初代コネリーから初の変更となり、新たにジョージ・レーゼンビーがボンド役に就く事となったんですが、コネリーからクレイグまでの6人のボンド俳優の中で、唯一、一回限りで終わってしまいました。
でも、今見ると、別にイメージと合わないという事もないですし、「何で不評だったんだろう?」と思うぐらいなんですよね。コネリーのワイルドさとロジャー・ムーアの洒落た雰囲気を共に合わせ持ち、ついでにダルトンに匹敵する立派なケツアゴを持っているという、歴代のボンド俳優の中にあっても、特に劣っているとも思えない存在感を出していたんですけどね。もう1作か2作ぐらいは、この人のボンドを見てみたかったなと思います。

ボンドの配役はいいんですが、肝心のストーリーはどうもイマイチでした。いや、ストーリー自体はいいんですけど、中盤が思いっきりダレてまして。
上のストーリーにも書いたように、スイスの山上にある施設で潜入捜査をするんですけど、そこでメインになるのが、「美女との逢引」とかそんな感じの展開なんですよねぇ。まあ、スパイ活動中にこういう事をするというのはボンドならではとも言えるんですけど、そこで出てくる美女軍団共が、まあ、頭の悪そうな連中ばっかりでして。「女なら誰でもいいのかよ」と、ボンドの節操の無さに呆れてしまいます。
あと、今回、ボンドが初めて結婚をするという、シリーズでも珍しい展開を見せるんですが、そのお相手となるのが、今作のボンドガールです(ちなみに、スイスの施設の場面では一切姿を現しません)。
ブロフェルドに通じる情報を持っている犯罪組織のボスから、娘との結婚を頼まれた、という背景はあるんですけど(この、本来敵同士でもおかしくないような立場の奴から、「お前の魅力を持ってすれば娘も落ちるだろう」的な感じで結婚を頼まれるというのは面白い展開だと思います・笑)、そういう頼みも関係無く、ボンド自身がホレて結婚に踏み切ったようなんですよね。
でも、ボンドがいきなり結婚をする事に関する説得力というのがあんまり感じられないんです。と言うのも、この2人が心を通わせる描写なんてほとんどなく(せいぜい、いつものボンドガールとの絡み程度のもので)、しかも中盤は頭の軽い美女軍団に手を出していたんですからね。
終盤の、一緒に敵の追ってから逃げる辺りにそれっぽい描写はあったんですけど、「こんな程度のものは、いつもボンドガール相手にしてるだろう」と思うぐらいのものでしかなかったですからね。
もっと、お互いの心の動きを描写していたらラストはかなり衝撃的になったと思うんですよね。こういうラストが来るストーリーなんですから、いっそ、ラブストーリーに方足突っ込んでるぐらいの内容にしても良かったんじゃないかと、今更ながら思ってしまいます。

と、ストーリー面には少々不満がありましたが、一番肝心のアクションシーンに関してはかなり力が入っていて満足でした。
まず、今回、ボンド役が若返ったという事を活かしたかったのか、格闘戦が多いんです。そこで、レーゼンビーもかなりハッスルした動きを見せていて、運動量と動きの早さで敵を圧倒みたいな、見応えのある格闘アクションシーンでした。
そして、この映画の顔とも言える、見せ場のアクションシーンである、後半のスキーチェイスは、映像のダイナミックさといいスピード感といい、大作映画の見せ場として申し分無い迫力がありました。時々、思いっきり二重映しになりますけど、今となっては、こういう映像はむしろ味があるように思えますしね。
さらに、クライマックスでは、世にも珍しい、ボブスレーチェイスなんてのも出てきました。こちらは、『魔宮の伝説』のトロッコチェイスを彷彿とさせるようなスピード感とワクワク感のあるアクションで、見てて非常に楽しかったです。

あと、今作は珍しく、オープニングのクレジットの背景で流れるのが、主題歌じゃないんですよね。ジョン・バリー作曲のインストゥルメンタルになってるんですけど、これがまたカッコいいんですよねぇ。
『007』のオープニングは主題歌が出てきてナンボと思っていたんですが、音楽だけというのもアリなんですね。ただ、この後は曲のみというパターンは出なくなりましたけど。レーゼンビーのボンド役と同様、一回きりだったんですね(初期2作もオープニングに主題歌無しのパターンでしたけど、まだそういうのが定着してない時期なので例外という事で)。