スコーピオン
<3000 MILES TO GRACELAND>
01年 アメリカ映画 120分

監督・製作・脚本:デミリアン・リヒテンスタイン
出演:カート・ラッセル(マイケル・ゼイン)
   ケビン・コスナー(トーマス・J・マーフィ)
   コートニー・コックス(シビル・ウィングロー)
   デビッド・ケイ(ジェシー・ウィングロー)
   ハウィー・ロング(ジャック)
   クリスチャン・スレーター(ハンソン)
   デビッド・アークエット(ガス)
   アイス・T(ハミルトン)
   ボキーム・ウッドバイン(フランクリン)
   ケビン・ポラック(ダミトリー捜査官)
   ジョン・ロビッツ(ジェイ・ピーターソン)
   トーマス・ヘイデン・チャーチ(クィグリー)

(あらすじ)
ラスベガスのカジノで開催される“エルビスそっくりさんショー”。この開場にある一団が殴り込みをかけてきた。色とりどりのエルビス扮装をした5人の男達、通称エルビス5(ファイヴ)だ!
だが、エルビス5の目的はそっくりさんショーへの出場ではなかった。その目的は何と、カジノ強盗だったのだ!
強盗は成功し、300万ドルもの大金を奪い、まんまと屋上から仲間のヘリで脱出する。だが、銃撃戦でエルビスイエローことフランクリンが死んでしまう。
そして、仲間が一人減った事で、その分け前に関して仲間うちでいざこざが起こってしまう。トサカに来たリーダーのエルビスブラックことマーフィは仲間全員を射殺してしまう。だがマーフィはその帰り、運転中、突然飛び出してきたコヨーテにビックリして事故ってしまうのだった。

一方、マーフィに撃たれたエルビスホワイトことマイケルは、防弾チョッキを着ていたおかげで命拾いをする。そして、泊まっていたモーテルの近くに住む女シビル・ウィングローとその息子と共に、事故って気絶中のマーフィを出し抜いて金を持ち逃げする。
そんなマイケルも、油断した隙にシビルに、奪った金と車、さらに財布まで持ち逃げされてしまうのだった。一文無しになったマイケルに残されたのは、一緒に置いてきぼりにされたシビルの息子で、母親譲りの盗みグセのあるジェシーだけだった。

一方、目を覚ましたマーフィは、行く先々で人殺しをしながら金の後を追って来るのだった。
(注・劇中には一切“エルビス5”とか“エルビスブラック”といった単語は出てきません)

(感想)
元“アメリカの良心”ことケビン・コスナーが冷酷な悪役にチャレンジした問題作です。
これまで、“大スターが悪役に挑戦”という映画は何本かありましたが、やっぱり、普通の俳優がやる悪役とスターがやる悪役はちょっと違うものがあるんですよね。大概、スターのやる悪役は「悪に徹しきれてない」という印象が出てきたり、そのまんま「似合ってない」といった印象があったものでした。
ですが、この映画のケビン・コスナーはまさに本物の悪役といった感じの、冷酷でイヤな狂ったサイコ野郎でした。そして、そんな悪党に見事になりきってましたね。初めてこの映画を見た時は、「よくこんな役を引き受けたものだ」と驚いたものでした。
しかも、その登場シーンからして、「頭頂部を映す」という衝撃的カットでした。その気合の入ったモミアゲといい、まさにケビン・コスナー、やる気120%といった感じです。

主人公はカート・ラッセルで、こちらはカジノ強盗仲間という、“犯罪者”である事には悪役ケビンと変わらない役ですが、強盗の際の銃撃戦でも、銃を人に向けて撃ってなかったりと、芯まで腐ったワルとは違う人物です。
ジャンル的にはアクションに含まれると思うのですが、メインとなるのは登場人物が車である地点を目指して移動するという、ロードムービー的描写です。中でもストーリーの重要な位置を占めるのが、カート演じるマイケルとジェシー少年との交流ですね。
このストーリー部分は割りと面白いんですが、一つ気になる点があります。それは、コートニー・コックス演じるシビルのキャラクターですね。コイツは、マイケルを騙して金を持ち逃げしたり(しかも息子を置いて)する奴なんですが、何故かその理由が「マイケルへの愛の為」とか、よく意味の分からない展開を見せるんです。
こいつの行動から心理描写まで、全てが意味不明でしたね。なので、コイツが関わるシーンはほんとつまらなかったです。登場シーンが悪役のケビンほど多くないのが不幸中の幸いでしょうか。

映画の序盤とラストには派手な銃撃戦があるんですが、これがまた、結構な迫力のある、いいアクションシーンになってるんです。
序盤のカジノ強盗での銃撃戦では、二挺拳銃のコスナーがエルビスの扮装で撃ちまくるという愉快なシーンが出てきますが、終盤のアクションシーンではもっと凄い事が起こります。
そう。我らがアイス・Tが登場するんです(笑)。このシーンのアイスはほんと凄いです。ほんの一瞬しか出ないんですが、その一瞬で映画史に残るようなとんでもない必殺技を披露してくれました。
どんな技かと言いますと、天井の滑車みたいなのに足をロープか何かで結び付けて、逆さまの状態でクルクル回りながら現れ、両手に持ったマシンガンを乱射するんです。文章で書くと何が凄いのかよく分からないですが(私の文章力のせいもあって正確な描写が出来て無いですし)、これが映像で見ると凄いんですよ。しかも、この行動の準備をしてるシーンとか無く、突然この状態で現れるんですからね。そして何よりも凄いのが、回転しながら適当に弾をバラまいてるだけなんで、命中率が悪くてほとんど敵を倒してないうえに、敵の攻撃の回避も出来ないんで速攻でハチの巣にされてる所ですよ。ほとんど意味無いじゃねぇか。
いやぁ、このシーンを初めて劇場で見た時は驚きましたね。マジで幻かと思ってしまうぐらいの衝撃的シーンでした。こんなの今まで見たことも無かったですからね(今後も見る事は無いだろうと思っていたら『パニッシャー ウォー・ゾーン』で似たような技をパニッシャーが使っててビックリ。ただ、こっちはちゃんと意味のある技として演出されてました)。

ちなみに、クリスチャン・スレーターとかデビッド・アークエットなど、配役はそれなりに豪華なんですが、この2人が序盤であっさり死ぬとは、またとんでもないキャストの無駄使いっぷりでしたね。
そもそも、他の主要キャスト達も、「何でこんな映画に出る気になったんだろう?」とつい思ってしまうような内容ですしね。それとも、ストーリー自体は悪くないのに、製作してる最中でどこかが狂ったんでしょうか(例えば、序盤の“エルビス5”のビジュアルとか・笑)。

この映画、2002年のラジー賞では5部門でノミネートを受けましたが、まあ、それも仕方ないなと思えるぐらいクセのある内容ですね。それぐらい個性的な映画です。
でも、こういう映画を評価できない人ってのは、普段どんな映画を見てるんでしょうね?(私みたいなのに言われたくないでしょうが・笑)
コスナーの悪役っぷりとアイス・Tの勇姿だけでも充分評価に値する映画なのに。