ザ・グリード
<DEEP RISING>
98年 アメリカ映画 107分

監督・脚本:スティーブン・ソマーズ
クリーチャー・デザイン:ロブ・ボッティン
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:トリート・ウィリアムズ(フィネガン)
   ファムケ・ヤンセン(トリリアン)
   ケビン・J・オコナー(パントゥーチ)
   ウナ・デーモン(レイラ)
   アンソニー・ヒールド(キャントン)
   ウェス・ステュディ(ハノーバー)
   デリック・オコナー(船長)
   ジェイソン・フレミング(モリガン)
   クリフ・カーティス(マムーリ)
   クリフトン・パウエル(メイソン)
   トレバー・ゴダード(T−レイ)
   ジャイモン・フンスー(ヴィーヴォ)

(あらすじ)
密輸船の船長フィネガンは、謎の一味をある海域に運んでいた。連中はテロリストグループで、指定の海域を航行中の豪華客船を、持ち込んだ魚雷で沈没させる手はずだった。そうとは知らなかったフィネガンだが、結局事態に巻き込まれる事となってしまうのだった。
だが、船に着いてみると、乗客の姿が一人も見当たらないどころか、そこらじゅうに血の跡が残っていた。
実は、深海から上がってきた謎の巨大生物に襲われてしまったのだ。その巨大生物は、フィネガンやテロリストグループにも襲い掛かってくるのだった!

(感想)
豪華客船を舞台としたモンスターアクション映画です。
モンスターアクションは数あれど、その中でもまさに最高傑作と呼ぶに相応しい映画ですね。アクション度の高さにモンスターの迫力&凶暴さ、魅力的な登場キャラクター達、イカしたセリフ、ストーリー運びの上手さ、ノリノリのスコアと、もうどこを見てもまるで欠点が見当たりません。初めてこの映画を見た時は、そのあまりの面白さにぶったまげたものでした。
悔しいのは、初見がビデオだった所ですね。てっきり、『レリック』みたいな感じの地味目なモンスターホラーかと思って、うっかりビデオ待ちを選択してしまったんですよね。この決断は今でも後悔してますねぇ。

監督と脚本は、『ハムナプトラ』シリーズでお馴染みのステーブン・ソマーズです。この人はきっと、娯楽アクション映画を撮る為に生まれてきた人なんでしょうね。この人の作るアクション映画には、私がアクション映画に求めるものがほぼ入ってますからね。ハリウッドにソマーズが一人しか存在しないのが悔しく思えるほどです。あと2,3人ぐらいいてくれれば、こんなハイ・レベルな映画が毎年見られるかもしれないのに(笑)。
「豪華客船を乗っ取りに(正確には爆破しに)来た武装テロリスト軍団が巨大モンスターに襲われる」というストーリーも素晴らしいです。限定された舞台でテロリストと主人公が戦うという、以前は人気があったけど当時下火になっていたジャンルにモンスター・パニックの要素を合わせてみた脚本ですが、本来なら主人公の敵になるはずの武装テロリスト集団が、結果的には仲間となり、一緒にモンスターと戦うという展開は面白いです。
この武装テロ軍団も、一人一人にきちんとキャラ設定がなされてるのも嬉しいところです。たいがい、中盤までに死ぬようなザコキャラなんかは、おざなりな設定にされてる事が多いんですが(名前すら無かったり・笑)、序盤に会話シーンなどを入れて、それぞれがどういう性格で何て名前なのかもきちんと描いてるんですよね。テロリストが出て来るアクション映画の中でも、これが出来てたのは『ダイハード』ぐらいでしたからね。
そして何よりも凄いのは、主人公となるヒーローの、あまりに見事なヒーローっぷりですよ。演じてるのは、トリート・ウィリアムズという、当時は見た事も無い人でしたが(実は『ゾンピコップ』や『デビル』なんかで見てたんですが、気付きませんでした・笑)、意外なぐらいにヒーロー役が似合うんです。
そんなにヒーローっぽい顔立ちでもないので、見る前はこの映画にここまで頼もしいキャラがいるとは思ってもみませんでしたね。なので、最初にトリートがマッチョな所を見せ付けるシーンを見た時は驚いたものでした。
と言うか、女スリ役のファムケ・ヤンセンが主役だと思ってましたからね。この手の映画ではこの手のヒロインが主役になるのがパターンですし(『レリック』もそうでしたからね)。それが、私好みの頼もしいヒーローが主役であり、アクションも予想以上の派手っぷりと、とにかく、この映画の全てが当初の予想を大きく越えるもので、私が上で「あまりの面白さにぶったまげた」と書いたのも理解してもらえる事でしょう(笑)。

トリート演じるフィネガンは、テロリストグループと不本意ながら(本来は関わりたくも無かったが)共闘する事となります。本来、こういう状況では頼りになりそうな感じの武装テロ集団ですが、それよりもフィネガン一人の方がよっぽど頼りになりそうなぐらいなんですよね。
モンスターを軽々あしらったりするような、セガール系の強さじゃなくて、モンスターの存在に明らかに驚いたりビビったりしながらも、冷静に、そして時にジョークを飛ばしながら危機を潜り抜けていく様は痛快な事この上無いですね。
また、フィネガンの相棒パントゥーチや、当初は主役なのかと思ってたヒロインのトリリアンもまたユニークなキャラでしたね。パントゥーチは、いわゆるコメディリリーフという立場のキャラですが、ソマーズはこの手のキャラの劇中での扱いが上手いんですよね。恋人を殺されて涙するという湿っぽいシーンも一瞬入れてたりと、ただのおふざけキャラに終わってないところがいいですね。最後に死んだと思ってた所を生きて現われた辺りは、見てる私も「ああ、良かった・・・!」とか思いましたからね。
ヒロインのトリリアンも、本来なら銃をバリバリぶっ放してモンスターに止めを刺すぐらいの事はやりかねない存在なんですけど、あくまでも「事件に巻き込まれた普通の人」という、観客と同じ目線の人物として描かれてるのが好印象でした。ゴツい銃をぶっ放して、反動で後ろに吹っ飛ぶという、この手のヒロインキャラはまずやらないような事をやってましたけど、普通ならこうなるものですよね。
パントゥーチも、せっかくの手榴弾みたいな爆破系の兵器を、作動スイッチを入れずに放るというポカをやらかす場面がありましたけど、この辺のミス的な行動を見ても、アクションの流れが止まったり、見ててイラつかされたりとかしないんですよね。むしろ、これによりアクションシーンの緊迫感が増して感じられるんですから凄いです。これは、やっぱりソマーズのキャラクター造形力と演出力の凄さなんでしょうね(あと、演じてる人の力もあるでしょう)。

敵のモンスターはオールCG製で、タコを巨大にしたような生物です。当初はヘビがでかくなったようなモンスターがいっぱいいるのかと思わせて、実はそれは一体のモンスターの触手だったというのは驚きです。
ただ、CGの質はあんまりいいとは言えないような感じですね。妙にツルツルした質感は、何か「見るからにCG」という感じで、ちょっと迫力に欠けるかなと思います。
でも、「巨大タコモンスター」というネタ自体は珍しくて面白いですし、何よりもアクション演出がとっても快調なので、モンスターが襲って来ているシーンは凄い迫力あるんですよね。CGのモンスターを“ただ出してるだけ”で終わってないんです。
まず、モンスターの攻撃スピードが速いんですよね。まさに「考える間も無い」という感じで、見てて「見るからにCGだけど、逃げなきゃ!」とか思ってしまいます(笑)。
あと、襲われてる連中のリアクションも、「狭い船内の通路を必死に走って逃げる」とか「強力な銃をアホみたいにバリバリ撃って反撃するという」視覚的に熱いもので、迫力がありました。

あと、この映画を語る上で忘れてはいけないのが、背景で流れる、御大ジェリー・ゴールドスミスによる超カッコいいスコアですね。とても、ベテラン系の人が書いたとは思えないようなノリノリな曲でした。
印象的なテーマが数種類用意されてて、それがそれぞれの場面でうまく使われてましたね。それらを順に並べて鳴らしたエンドクレジットで流れる曲は、まさにこの映画の締めに相応しいものでした。最初にこの映画を見た時、巻き戻してエンドクレジットの曲をもう一度聞き直したぐらいでしたからね。素晴らしい名曲です(サントラにこの“エンドクレジット用アレンジ編曲”が入ってないのが残念)。