ダイ・ハード
<DIE HARD>
88年 アメリカ映画 131分

監督:ジョン・マクティアナン
製作:ローレンス・ゴードン
   ジョエル・シルバー
脚本:ジェブ・スチュアート
   スティーブン・E・デ・スーザ
撮影:ヤン・デ・ボン
音楽:マイケル・ケイメン
出演:ブルース・ウィリス(ジョン・マクレーン)
   アラン・リックマン(ハンス・グルーバー)
   ボニー・ベデリア(ホリー・ジェネロ)
   アレクサンダー・ゴドノフ(カール)
   レジナルド・ベルジョンソン(アル・パウエル)
   ウィリアム・アザートン(リチャード・ソーンバーグ)
   ポール・グリーソン(ロビンソン副本部長)
   クラレンス・ギルヤード・Jr.(セオ)
   ハート・ボックナー(エリス)
   ジェームズ繁田(タカギ社長)
   デニス・ヘイデン(エディ)
   アル・レオン(ユーリ)
   デブロー・ホワイト(アーガイル)
   ロバート・ダビ(ジョンソン捜査官A)
   グランド・L・ブッシュ(ジョンソン捜査官B)

(ストーリー)
ロスに聳える日系企業ナカトミの高層ビルに、武装集団が押し入って来た。
この、武装テロ集団によるビル占拠事件に、たまたま居合わせていたNYの刑事、ジョン・マクレーンがたった一人で立ち向かう事となるのだった。

(感想)
もはや言わずと知れた、アクション映画の最高傑作です。生憎、公開当時はまだ私に映画館に行く習慣が無かったので、この映画の存在自体を、テレビ放映直前ぐらいまで知りませんでした。
と言う訳で、初鑑賞が日曜洋画劇場での放映時だったのですが、最初に見た時はそのアクションの迫力に圧倒されましたね。現代アクションの神髄に触れた瞬間でした。

まず、やはり“高層ビル”という、限定された場所を舞台としている所が見てて面白いんですよね。主人公の行動に制限が出てくるわけですが、限られた“動ける範囲内”で、どう逃げ、どう反撃するか、というのが興味深かったです。
エレベーターのシャフトに潜んだり、ダクトを這い進んだりと、「ビルが舞台の映画ならでは」という展開とかアクションが出てくるというのは新鮮な感覚でした。
この映画以降も、ある特定の場所を舞台としたアクション映画が作られていきましたが、その地形をここまでうまく使っていたのは他にあまりなかったと思います。
また、事件が始まってからの時間の流れがリアルタイムに近いのも、緊張感が出て良かったです。事件発生から解決まで、ほぼ一晩のみの出来事ですからね。
あと、刑事が主人公ながら、普通の刑事アクションでは収まらない、規模のデカい話になっているのも最高です。アクション映画というより、パニック映画に近いような大作感があるんですよね。テロリストを“人災”という事にすれば、ジャンルをパニック映画と言い張っても通用するんじゃないかと思うぐらいです(それはちょっと厳しいか・笑)。
ちなみに、一作目が高層ビル、二作目が空港、三作目が町、という舞台設定は、それぞれパニック映画の代表作『タワーリング・インフェルノ』『大空港』『大地震』を連想してしまいますね。やっぱり、パニック映画とは親戚筋に当たるような映画なんじゃないだろうか。こうなると、4作目は豪華客船を舞台にしてもらいたかったですね(『3』の最初の案は豪華客船が舞台だったらしいですけど)。

「パニック映画を思わせる大作感を持った刑事アクション」というコンセプトも素晴らしいですけど、何と言っても、主人公のジョン・マクレーンのキャラクターがいいんですよね。企画が良くても、主人公に魅力が無かったら全部台なしですよ。
演じるブルース・ウィリスも、この映画がアクション初挑戦みたいな状況でしたけど、やっぱり、元々才能があったんでしょうね。マクレーンという後に映画史に残るアクションヒーローとなるキャラクターを見事に演じきっていました(本当に映画史に残ってるのかどうかは分かりませんが・笑)。
斜に構えたような、格好つけた言動をする所とか、愚痴を言いまくる所、敵に対して挑発的なセリフを吐く強気な所とか、あんまり「正義のヒーロー」という感じがしないんですよね。かと言ってアンチヒーローというわけでもないという。
まあ、とにかく“アクションヒーロー”ではあるわけです。一介の刑事が、たった一人で武装集団相手に戦い抜く事にも説得力が感じられる“強さ”があるんですよね。それも、敵を力でねじ伏せる的な強さではなく、“粘り強さ”に近いタイプの強さです。なので、普通のアクションヒーローよりも等身大な感じがありますね。見ていて「もしかしたら、自分も粘っていたらこういう事が出来るのでは」と思えるんです。ランボーやコマンドーにはなれないけど、マクレーンにはなれるかもしれないみたいな。
そして、そんなマクレーンが立ち向かう事となるテロリスト集団(しかし、その正体は強盗団・笑)もイカした連中でした。
まず、リーダーのハンスが最高ですね。あの圧倒的なまでの冷酷さと紳士的な雰囲気の同居する様。そして物腰や話し方から滲み出る知的な雰囲気とか、ほんといいですよね。演じるアラン・リックマンの力によるものなのか、非常に魅力的な悪役でした。
知能犯であるハンスは、今回、見事なプランを立ててビルに乗り込んできました。対するロス市警やFBIが通常よりもアホとして描かれているとはいえ、もしマクレーンがいなかったら成功間違いなしだったと思うような作戦ですよ。この、映画全体を通して描かれる「ハンスVSマクレーン」の攻防は実に見応えあります。
あと、部下の連中もそれぞれに名前や役割、見せ場が用意されてるというのも面白い点です。全員に名前がついてるわけじゃないですけど、「ただ、殺される為だけに出て来てるザコ」というのがいないんですよね。もしかしたら、セリフ無しで死んだ奴って一人もいないんじゃないですかね(一人ぐらいいるかな・笑)。これは、後に作られる他のこの手の映画でもほとんど見られなかった要素ですよ。
個人的に、この手のアクション映画で、敵側の描写が多く出て来るとテンションが下がる事があります。「敵よりも、主人公の活躍シーンをもっと見せてくれ」と。でも、この映画は敵側のシーンも見てて面白いんですよね。
例えば、敵一味が見事金庫を開ける事に成功し、大金をかっさらうというシーンの演出が、「悪人側の作戦が成功してしまったシーン」とはとても思えないようなものになってるんですよね。思わず「おめでとう!」とか言いたくなってくるぐらいです。

脚本面にかなりの緻密さが感じられる所もこの映画の凄い点ですね。序盤で出てくる色んな伏線が、後にきっちり話の展開に絡んできたりするんです。
ビルを舞台に展開されるマクレーンと敵グループとの攻防には、スリルやサスペンス、アクションの興奮、そしてお互い“どういう作戦で臨むか”という辺りから感じられる知的な雰囲気など、ありとあらゆる面白さが詰まっています。
そして、外でマクレーンを支援しようとするアル・パウエル巡査部長との交流も実にいいお話しでした。地下駐車場に一人取り残された、リムジン運転手のアーガイルの存在も良かったですね。まさにコメディリリーフ(笑)。
もはや欠点が何一つ無いというぐらい完璧な映画なんですが、監督のジョン・マクティアナンはよくこんな映画を撮る事が出来ましたね(フィルモグラフィーにはパッとしない映画も多いですし・笑)。もしかしたら、撮影中に“アクション映画の神”が降臨していたのかもしれないですな。