エネミー・オブ・アメリカ
<ENEMY OF THE STATE>
98年 アメリカ映画 132分

監督:トニー・スコット
製作:ジェリー・ブラッカイマー
音楽:トレバー・ラビン
出演:ウィル・スミス(ロバート・ディーン)
   ジーン・ハックマン(ブリル)
   ジョン・ボイト(レイノルズ)
   レジーナ・キング(カーラ・ディーン)
   ローレン・ディーン(ヒックス)
   ジェイク・ビジー(クルーグ)
   ジャック・ブラック(フィードラー)
   バリー・ペッパー(プラット)
   ジェイミー・ケネディ(ジェイミー・ウィリアムズ)
   スコット・カーン(ジョーンズ)
   ガブリエル・バーン(偽ブリル)
   トム・サイズモア(ピンテーロ)
   リサ・ボネット(レイチェル)

(あらすじ)
弁護士のディーンは、知らない間にNSA(国家安全保障局)の行政官が関わっている議員暗殺事件の証拠を手に入れていた。そのせいでディーンはNSAの標的とされてしまう。家や衣類に盗聴器をしかけられ、行動は逐一監視され、全ての個人情報を盗まれ、クレジットカードが使用不能となる。さらに犯罪者の濡れ衣を着せられ、妻の信頼と職業上の成功をも失わされてしまう。
謎の集団に訳が分からないまま追い詰められるディーンは、これまでに元恋人を仲介役として担当事件の証拠を提供してもらっていた、謎の男ブリルと接触を図るのだった。

(感想)
「国家によるプライバシーの侵害」をテーマとしたサスペンス・アクションの傑作です。テーマが描けているかは別として、そのエンターテイメント映画としての完成度がとんでもなく高いです。幅広い層が見ても楽しめると思われる、まさに娯楽映画の決定版!といった内容でした。
映画の冒頭、静かな湖畔での殺人事件から始まるんですが、全体的におとなしめな演出で描かれた殺人の描写が終わると急に超ハイテンションなトレバー・ラビンのスコアと共にオープニングクレジットが始まる様は、最初に劇場で見た時は興奮しましたねぇ。一気に映画の世界に引き込まれたような感覚で、最高の掴みでした。

その後の展開も非常にテンポが良くて面白いです。前半部分で、敵であるNSAが、標的をいかにして追い詰めていくかをしっかりと描写してくるんですが、この、超ハイテクを駆使して追跡してくる敵側の行動はもう凄いの一言でしたね。そして、事件に訳も分からずに巻き込まれる形の主人公は、家を荒らされるわ、買い物が出来なくなるわ、シャツのボタンから愛用のペンにと全身に盗聴器をしかけられるわとエラい目に遭わされます。この辺、「国家に狙われたら大変なんだな」と恐ろしく思うと同時に、次々主人公に襲い掛かる不幸が見てて楽しかったりもします(笑)。
ちなみに、ウィル・スミスの前に敵から追われる事となる人が、盗んだ自転車で必死で逃げるという場面があるんですが、ここのチャリチェイスシーンも凄い迫力でした。もう、ちょっとでもペダルを漕ぐ力を緩めたら即捕まりそうなギリギリ感があって、結果は分かってるのに見る度に緊張と興奮でドキドキするシーンです。思えば、この後も、これ以上のチャリチェイスが出てくる映画は見てないかもしれないですね(チャリチェイス自体が中々映画で出てこないというのもあるんですが)。

映画は中盤になるまで、主人公が「自分がどんな事件に関わっているのかも分からない」という状況です。ですが、観客には初めから知らされる事なので、見ていて「訳が分からない!」とイラつかされる事もありません。
前半部分は、主人公がいかに追い詰められていくかが描写され、次はその敵からいかに逃げおおせるかという追跡劇が始まります。それが終わると、主要キャラ、ブリルがようやく登場し、今度はこの状況からいかに脱していくかという、“逃げ”から“反撃”へと展開が変化します。
そして、この一連の流れが実にスムーズです。時折挿入される大迫力追跡アクションシーンも、唐突に挿入されるわけではなく、まずサスペンス度を段々高めるという準備段階を経てからアクションシーンが始まります。こういった、映画全体の“流れ”というのがほんとに見事で、緊張感のあるストーリーながら、見終わった後に変に疲れたりしないんですよね。

とにかく、敵側があまりに強大な組織なので、「いったい、どうやって決着をつけるんだろう」というのが見てて全く予測出来ませんでしたね。ですが、ラストは、序盤の伏線を見事に活かしてキレイに収束。これは最初に見た時はたまげましたね。確かに、力技による解決ではあるんですが、相手の規模を考えるとこれぐらい強引且つ運を必要とするような戦法を使わないと勝てないでしょうからね。

主演は、当時『ID4』『メン・イン・ブラック』の大ヒットにより、大スターの地位に上りつめたウィル・スミスです。まさにノリに乗ってる時期なので、存在自体に勢いが感じられますね(ただ、残念ながら、この後『ワイルド・ワイルド・ウエスト』で失速・笑)。
謎の男ブリル役には、ブラッカイマー製作&トニー・スコット監督作連続出演のジーン・ハックマン。登場しただけで映画の展開が変わるという重要人物ですが、当たり前のように見事に演じていました。何か、初登場シーンからして「こいつは、きっと凄い男だ」と思わせるようなものがありましたからね。
元NSAの職員で、ハイテク機器のエキスパートなんですが、ハックマン本人はパソコンも触れないぐらい機械音痴なんだそうですね。でも、ブリルはエキスパートにしか見えなかったんですから、大したものです。
あと、敵NSA職員達に「どこかで見たような顔」が揃ってるのも嬉しいところです。大ボスがジョン・ボイドだったり、トム・サイズモアがマフィアの役で顔を見せていたりと、なかなか細部までこだわった配役ですね。さらに、“ニセ・ブリル”役でガブリエル・バーンも出てきたりします。これがまた、見終わった後に「ガブリエル・バーンなんて出てたっけ?」と思うぐらいのチョイ役です(しかもクレジットに名前が出るので、カメオ出演というわけでもないらしい)。どういう経緯でこの映画に出る事になったのか興味深いところですね。