逃亡者
<THE FUGITIVE>
93年 アメリカ映画 131分

監督:アンドリュー・デイビス
製作:アーノルド・コペルソン
脚本:ジェブ・スチュアート
   デビッド・トゥーヒー
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ハリソン・フォード(リチャード・キンブル医師)
   トミー・リー・ジョーンズ(サミュエル・ジェラード連邦保安官補)
   ジョー・パントリアーノ(レンフロ)
   ダニエル・ローバック(ビッグス)
   L・スコット・カードウェル(プール)
   トム・ウッド(ニューマン)
   アンドレアス・カツラス(サイクス"片腕の男")
   ジェローン・クラップ(チャールズ・ニコルズ医師)
   シーラ・ウォード(ヘレン・キンブル)
   ジュリアン・ムーア(アン・イーストマン医師)

(あらすじ)
妻を殺した罪で有罪を宣告されてしまった医師リチャード。だがリチャードは無実なのだ。彼は真犯人である、謎の義手の男を見ているし、家で格闘もしたというのに、警察はその義手の男を探し出す事が出来なかったのだ。
刑務所に連行される護送車内で、他の囚人が病気を装い、近寄って来た護送官の一人を襲うというアクシデントが発生。他の護送官による銃撃、囚人との格闘で護送車内は大パニックに。ついには護送車は道から外れ、激しく横転してしまう。しかも、横転した場所が線路の上。さらにちょうどそこに貨物列車が突っ込んで来たのだ!
このドサクサに紛れてまんまと逃走したリチャードは、単身、真犯人を探すのだった。
だが、そんなリチャードの前に腕利き連邦捜査官のジェラードが立ちふさがる。リチャードとジェラードの知力を尽くした壮絶な追走劇が始まるのだった。

(感想)
まったく、素晴らしい映画です。名優二人による演技、娯楽の要素が凝縮された練りに練られた脚本、見事な監督の演出、サスペンスフルな音楽、全てが最上の形でブレンドされた、まさに究極の映画と言っても過言では無いでしょう。

まず、主演のハリソン・フォードですが、持論の「役者はあくまでストーリー・テラー」という、観客の感情移入を最優先とした抑えた演技が光りまくってます。共演で、この映画でオスカーを受賞したトミー・リー・ジョーンズに食われてるなんて意見をたまに聞きますが、これは、ハリソンの「追い詰められた表情」に感情移入できるからこそ、トミー・リーの「追い詰める男」の演技が余計に凄く感じられるんです。言ってみれば、ハリソンに引き立たされているという面があると言えるわけです。

この映画で大ブレイクをしたトミー・リーですが、十八番の「見事なリーダーシップ演技」をスクリーン上に思いっきりぶつけています。後の『ボルケーノ』『追跡者』を見ても分かるように、この人はこういうリーダー役をやらせるととてつもない迫力と説得力が出ますね。ほんと素晴らしいです。

この映画、脚本がとにかく優れまくってます。俳優の演技以前に、ストーリーが面白いんです。一度見始めたら最後、終わりまで息つく暇も無く、一気に見てしまいます。それだけストーリーが面白い映画なんですから、そのノベライズ版もかなり面白いです。映画では語りきれなかった細かい部分まで描写されてて、こちらも一度読み始めたら、もう途中で止める事が出来ないぐらいでした。
ストーリーだけを見た場合、細かく書かれてる分、ノベライズ版の方が面白いんですが、映画版には先にも挙げた、二大名優の演技合戦や、かっこいい音楽など、映画ならではの見所があって、どっちが面白いかは一概には言えないですね。
おおまかなストーリーの面白さもさることながら、主役二人のキャラクターがしっかり描かれてるところも、この映画の脚本の優れた点です。
さらに、ジェラードの部下の捜査官達にもそれぞれ名前と個性があるところもいいです。部下の捜査官なんて、完全な脇役で、特にスポットを当てる必要も無い存在と言ってもいいぐらいなのに、ちゃんとそれぞれの個性が描かれているんです。この点も、この映画のストーリーが面白い理由の一つでしょうね。番外編的続編の『追跡者』でも、同じ面子が同じキャストで再結集したのも面白いです。
『ダイハード』なんかも、敵がテロリストの他の映画と違い、テロリストそれぞれに名前と見せ場が用意されていました。優れた脚本の映画というのは、このように脇役にも手が行き届いてるんですね。

監督は『沈黙の戦艦』のアンドリュー・デイビスです。どうやらこの映画、この人のベストワークになりそうですね。この最上の脚本を見事に活かしきりました。きっと、この人は『逃亡者』を撮る為に生まれてきたんでしょう(大袈裟)。果たして他の監督だったらここまで面白く出来たかどうか。まさに奇跡的です。
まあ、他の監督作も面白いものが多い、もともと実力のある人ではあるんですけどね。キアヌ・リーブスの『チェーン・リアクション』でも、見応えのある逃亡劇を描いていました。

また、この映画、撮影も非常に見事です。所々に積雪の見られる、冬の寒々しい感じが画面によく現れています。それが、キンブルのこれからの苦難を象徴してるようでもありますね。また、時折挿入される、シカゴの町の空撮もいいアクセントになってます。
そんな寒い中、コートのポケットに手を突っ込みながら歩くハリソン・フォードの姿がまた画になってるんですよね。キンブルは劇中、何度か衣装を変えるんですが、どれも男のダンディズム溢れる、いい服を着てるんですよね。病院に清掃員の格好で紛れ込むシーンでも、その清掃員スタイルが非常にダンディに見えるから凄い。まあ、そのせいで医者から不信がられる一因になるんですけどね。
しかし、キンブルは大した金を持っていないはずなのに、どこでスーツを調達したんでしょう?ユニクロみたいな、安い店でもあったんでしょうか(笑)。あるいは、どこかからか失敬したのか。まあ、その辺は見てる人が好きに想像すればいいところですね。

あと、シーンやストーリーを彩る音楽がまたイイ!特に、キンブルとジェラードの追っかけっこの場面で使われる曲がかっこいいです。そういうシーンは劇中2回出てくるんですが、どちらも曲の出だしが同じなんですよね。「さあ、ここから息詰まる逃亡&追跡劇が始まるぞ」とワクワクするようなイントロです。
さらに中盤の、ジェラードと部下が、キンブル事件を洗い直す場面に流れる音楽も、サスペンスチックでいいです。

視覚的にも、聴覚的にも、感覚的にも優れた映画なんてそうないですよね。この手の娯楽映画にしては珍しく、アカデミー作品賞にもノミネートされました。他にも、撮影賞、作曲賞、音響効果編集賞、編集賞、録音賞などにもノミネートされたようです。どうやら、アカデミー会員が見ても面白い映画だったようです(私と意見が合うとは珍しい!)。
・・・でも結局、受賞はトミー・リーの助演男優賞のみだったんですけどね。