監督:スティーブン・ケイ
出演:シルベスター・スタローン(ジャック・カーター)
ミッキー・ローク(サイラス)
レイチェル・リー・クック(ドリーン)
マイケル・ケイン(クリフ)
アラン・カミング(キニア)
ミランダ・リチャードソン(グロリア)
(感想)
スタローンが、借金の取立て屋というマフィアな雰囲気の男を演じる、ハードボイルドな復讐物映画です。
ですが、映画を見ると、「ハードボイルドな復讐物」という雰囲気があんまり無いんですよね。だいたい、私もハードボイルドというのが具体的にどういうものなのかよく分からないんですが、私のイメージでは、この手の映画の主役というのは、自分の人生というものに対して、達観と言うのか諦めというのか、どこか斜に構えたような感じを持ってるような気がするんです。
でも、この映画の主人公ジャックは、自分の今までの人生に対して疑問を持ち、まっとうな生き方を模索しているような、ドラマ映画の主人公のような面が垣間見られるんですよね。
人間の性格や生き方なんて、ある程度の年齢に達したらもう簡単には変えられないものだと思います。私も、かつては今の自分と違う生き方を想像していましたが、もう諦めました(爆)。でも、ジャックは50を過ぎたヤクザだというのに、まだ違う人生、多分、ジャックが過去にこうありたいと望んでいた人生、というのを諦めていないように思えるんですよね。
多分、本来はもっと復讐がメインになるような内容の映画になったはずだと思うんですよ。聞くところによると、オリジナルの『狙撃者』はそういう映画らしいですからね。でも、そういうバイオレンスな内容ではなく、人間ドラマの面の強い内容にした、というのは個人的には面白い点だと思いますね。それに、スタローンにはこういう映画の方が合ってると思います。単なる復讐者ではなく、もっと人間味のあるキャラクターですね。
とは言え、身内に手を出してきた奴らには容赦なくオトシマエをつけさせるという、ヤクザな所もしっかり見せてきます。この、“危険な男”の香り漂うスタローンのクールな演技は最高ですね。実にカッコいいです。そして、その外見のクールさタフさだけでなく、内面の葛藤が滲み出てる辺りが素晴らしいんですよね。最初にこの映画を見た時は、「こういうタイプの映画の主人公をここまで自然に演じられるとは、つくづく底の知れない男だ」と思ったものでした。
監督の演出や映像感覚もかなり良くて、所々に「おおっ!」と唸らされるシーンが出てきます。たまに出て来るアクションシーンもとってもクールに撮られてて見応えがあります。
映像も音楽もいいですしキャスティングも豪華です。個人的には特に欠点の無いような映画に思えるんですが、世間の評判はそれは酷い物らしいです。しかも、どうやら製作した人達の中にもこれは失敗だったみたいな思いがあるらしいんですよね。自分達がどういう映画を作ってるのか分かってなかったんでしょうか。
「これはきっと、数年後になってから評価されるタイプの映画に違いない」と思って、「『追撃者』再評価」の時が来るのを密かに待っているんですが、未だにその気配すらありません(笑)。
まあ、確かにストーリーに分かり辛い所もありますし、説明不足に思える所も無いわけではないですからね。私も、一回目に見た時はどういうストーリーの映画なのかよく分かりませんでしたから(爆)。
でも、また見てみたいと思わせるような光るものは感じられたんですよね。それで、その後に2回、3回と見ていく内に「これは凄い映画だ。傑作だ」と思うようになったのです。
あと、私は説明不足の映画を必ずしも失敗とは思いません。まあ、映画にもよるんですが、そういう、「大事なのに説明されなかった部分」というのを想像するのもまた面白いと思うからです。これが、全く想像がつかないようなら私もダメなストーリーだと思う所ですが、この映画は考えれば答えが見つかりそうに思えるんですよね。
例えば、ジャックが何故ずっと離れて暮らしていた弟の死に疑問を抱いて、あんなに熱心に真相を探ろうとしたのかについて、劇中でははっきりした言及が無いんです。そこで私はこの部分を勝手に想像してみたわけですが、多分、弟は、ジャックが過去に望んでいた人生というのを送っていたんだと思うんですよね。まあ、実際はそうでもなかったみたいなんですが。で、そんな弟が不審死を遂げた事にショックを受けたわけですよ。もしかしたら、弟も自分の進んでいる道に入ってきてしまっていたのかもしれない。それで責任のようなものを感じたんじゃないかと思うんです。
それで、弟の死に関わった奴らへの復讐と、そして、そういう世界から足を洗う為に、根城にしていたベガスを離れたんだと思うんですよね。
「あれだけ人を殺しといて、足を洗うもないだろう」という意見もあるかと思いますが、ジャックは基本的には不器用な生き方しか出来ない人間だと思うんです。最後にヒゲを剃って心機一転な所を見せてきましたが、最後までヤクザな生き方を変えられない可能性も充分あると思うんですよね。でも、可能性を信じて葛藤を続ける、というのは人間的だと思うんですよ。
この映画では手が血で汚れた人生を送った男を描いてはいますが、「今の自分の人生は不満だが、もしかしたらそれを変える事が出来やしないだろうか」というテーマや考え方は見る人それぞれが自分を重ね合わせて見られるものですからね。ジャックがどうのこうのではなく、じゃあ自分はどうなんだ、という所も考えてみると、もっと奥が深いストーリーのように思えるのではないのだろうかと。
最後に、どうでもいい事ですが、マイケル・ケインが劇中で『沈黙の要塞』の時と同じ過ちをしている所に笑ってしまいました。アクションスターに背を向けて立ち去ってはいけません(笑)。