監督:ロバート・ハーモン
出演:C・トーマス・ハウエル(ジム・ハルジー)
ルトガー・ハウアー(ジョン・ライダー)
ジェニファー・ジェイソン・リー(ナッシュ)
ジェフリー・デマン(エストリッジ警部)
(感想)
怖い映画だという噂は聞いていましたが、いやぁ、ここまで怖いとは思いませんでしたね。まあ、恐怖感があるのは前半の30分ぐらいまでなんですが、もう映画を見ながら本気でビビッてしまいましたね。
何がそんなに恐ろしいのかというと、ルトガー・ハウアーですよ。この人の演じるジョン・ライダーがメチャクチャ怖かったですね。
まず、「ヒッチハイクで拾った人が異常者だった」というだけでも怖いシチュエーションですが、コイツはただの異常者じゃないんですよね。自分のやってる行動が分かってないタイプの狂人ではなく、ちゃんとした自分の意思で行動してると思われるタイプの狂人です。そして、見るからに色々な面で強そうな感じのする、狂ってなければアクションヒーローにもなれそうな雰囲気があるんです。でも殺す相手は犯罪者ではなくて善良な市民です。
話し合いも通じなさそうですし、戦っても勝てなさそうです。そして、追跡能力とかも凄く高そうで、“逃げてもダメそう感”がバリバリ発せられてます。
そして、一番恐ろしいのは、その表情ですね。うまく言葉に出来ないですが、人に心理的な恐怖感を与えるような表情をしてるんです。「一見普通の人なんだけど、内面の狂気が顔に出てる」という感じで、あの『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターの表情と同種の恐怖感がありましたね。
主人公はそんな奴に付け狙われてしまうわけですが、途中、何とか車から落っことす事に成功します。
でも、その後に平和そうな一家の乗った車が追い抜いていくんですが、ふと見るとこいつが乗ってるんですよ。ここは怖かったですねぇ。後部座席で子供が遊んでいるという、本来なら狂人が乗ってるなんて思いもしない車内にしっかり乗ってるんですからね。これは、「写るはずの無い所に人の顔が!」という心霊写真的な怖さもちょっとありましたね。そして、その一家の行く末を思うとまた恐ろしいです。子供がいるからといって、殺しを躊躇するような奴には見えませんでしたからね。
前半は、主人公はこの狂ったヒッチハイカーことジョン・ライダーに追いかけられる展開なんですが、そのジョン・ライダー(と言うかルトガー・ハウアー)の発するプレッシャーがあまりに強烈で、出てないシーンでも、一瞬後には姿を現すんじゃないかと常にビクビクしながら見てましたね。
ですが、中盤からは主人公は「警察に追われる」という展開になります。それまでは『激突』や、“移動する『フォーン・ブース』”といった感じのスリラー的恐怖感が漲っていたんですが、ここからはアクション映画的な雰囲気になって、“恐怖感”はほとんど無くなってしまいました。この展開の仕方は、何か『ジーパーズ・クリーパーズ』を思い出してしまいましたね(笑)。
それにしても、いくら連続殺人犯だと思われてるとはいえ、ショットガンでバリバリ攻撃してくる警察達は、違う意味でジョン・ライダーより怖いですね。挙句に、ヘリによる上空からの攻撃まで仕掛けてきましたし。
で、ショットガン・ポリスに襲われて絶体絶命の主人公の窮地を救うのが、なんとジョン・ライダーなんですよね。颯爽と現れて、銃でヘリを撃ち落す様はまさにアクションヒーローです。
実は、ジョン・ライダーは、自分の行動を誰かに止めてもらいたがってるようなんですよね。そして、主人公のジムがその役に選ばれてしまったようです。ゲーム感覚でジムを追い詰め、キレさせて自分を撃たせようと、そんな目論見があるような雰囲気です。
「なぜ殺すのか」「なぜ止めてもらいたいのか」「なぜジムが選ばれたのか」。こういった事が全て謎のまま映画は終わってしまいます。でも、『激突』や『フォーン・ブース』といった傑作スリラーは、必ず犯人の正体に謎の部分を残しているんですよね(『激突』なんて全部謎だし・笑)。その2作と比べて、犯人が堂々と姿を見せてくる『ヒッチャー』ですが、ちゃんと謎の部分を残してるところがいいですね。