スナイパー
<LIBERTY STANDS STILL>
02年 カナダ・ドイツ合作 96分

監督・脚本:カリ・スコグランド
出演:ウェズリー・スナイプス(ジョー)
   リンダ・フィオレンティーノ(リバティ・ウォーレス)
   オリバー・プラット(ビクター・ウォーレス)
   マーティン・カミンズ(ラッセル・ウィリアムズ)
   ハート・ボックナー(ハンク・ウィルフォード)

(あらすじ)
銃製造業者の妻で会社の副社長であるリバティは、舞台俳優の愛人が出る劇を見に劇場にやって来た。だが、その前にちょろっと公園のホットドッグ売りの屋台に向かった。実は、ここで時々ヤクを買っているのだ。
野暮用も済み、劇場に向かおうと思ったところ、ケータイが鳴り出した。出てみると、男の声で「お前を銃で狙っている」と言われ、実際、持っていたバッグを狙撃される。男はさらに、そこの屋台には爆弾がしかけてあり、ケータイを切ったり電池が切れたりしたら爆発すると言ってきた。ちなみに、屋台にいたホットドッグ売りのブラザーはいつの間にか姿を消していた。
男はジョーと名乗り、高校で起きた銃乱射事件で娘を失い、その復讐の為に、銃を売った会社の副社長であるリバティを人質に選んだのだった。
ケータイのバッテリーは残り約80分。リバティはこの危機を脱する事が出来るのか。そして、ジョーの復讐は達成されるのか!?

(感想)
謎の狙撃者にライフルで狙われ、その場から動く事の出来ない人質。というシチュエーションは『フォーン・ブース』とかなり似ていますね。あちらは電話ボックスでしたが、こっちはケータイで犯人とのやりとりをする事となります。
一瞬、B級映画にありがちなパクりネタと思ってしまいますが、いくらなんでも、スナイプスクラスの人が出る映画になると、ここまであからさまなパクリはしてきません。そう、実は製作はこっちの方が『フォーン・ブース』よりも早いんです。

ただ、似てる事は似てますが、内容や映画の雰囲気には大きな違いがあります。まず、『フォーン・ブース』は、特にテーマ性というもののない、純然たるスリラーでした。その分、緊迫感はこの『スナイパー』の比ではないぐらいにありました。
一方、『スナイパー』にはテーマ性というのを持っていて、緊迫感よりもテーマを語る事の方に力が向けられています。なので、普通のサスペンス・アクションだと思って何も考えないで見てるとあんまり面白くない映画かもしれませんね。
という訳で、似たシチュエーションの映画ながら、「どっちが面白いか」は人によって差が出そうです。

この映画で触れられるテーマとは、「銃規制」です。スナイプス演じるスナイパー(←シャレじゃないですよ)の娘が、少年による銃乱射事件で死亡している、という背景があります。明らかにコロンバイン高校の事件をモデルにしていますね。
その事件で怒ったスナイプスは、銃メーカーの社長夫妻を脅して一大事件を巻き起こし、世間に論争の火種を投げ込んでやろうと企むわけです。
ですが、この映画、社会派サスペンスではあるものの、その語り口はあんまり重くないです。基本はあくまでも娯楽映画で、「サスペンス・アクションのストーリーに社会派問題を絡めてみました」、といった感じのものです。他の映画で言えば、『ピースメーカー』とか『エネミー・オブ・アメリカ』辺りと同じですかね。
そう言えば、この映画のスナイプスの悪役としての存在は、ちょっと、『ピースメーカー』の悪役のテロリストと似てる気がしますね。まあ、さすがに罪も無い人々を巻き添えで殺そうなんて計画は立ててなかったですけどね。同じカタカナ5文字でも、“テロリスト”ではなくて“スナイプス”ですし(笑)。

そんなスナイプス=ジョーですが、その真の目的は復讐なのか、銃規制に向けての第一歩を歩みたかったのか。という事を見終わって思ったんですが、多分、ジョーの一番の目的は復讐ではなかったと思いますね。本当に復讐をしたいのなら、実行犯である少年を殺すはずですが、実際、ジョーは犯人と面会し、父親と話をしていたにも関わらず「出来れば殺してやりたい」と言うだけで、それを実行に移す事はしませんでした。一番の目的はやはり「銃規制への問題提起」だったんでしょう。ただ、2番目に「銃メーカーへの復讐」もあったようですが。
ともかく、人質となるリバティは、自分のやってる事が悪い事だとは全然思ってませんでした。要するに、この問題に関して無関心な人の代表みたいなものなんでしょうかね。ですが、今回の事件、と言うか、ジョーの説教と脅しにより、この件についてちゃんと考えを持つ事が出来るようになったようです。
復讐をするスナイパーを描いた映画ですが、それはあくまでも映画の表面のものであって、映画自体は復讐による解決を認めてるわけではなさそうですね。とにかく、この問題について考えて欲しい、というのがテーマなんでしょう。ジョーの一番の目的と同様、製作側の目的も「銃規制への問題提起」なんでしょうね。
あと、「銃規制派」と「特に考えてない派」が出ていて、「銃所持支持派」のキャラがいないのは、話をややこしくしない為なんでしょうね。基本は社会派ドラマではなく、娯楽サスペンス・アクションですし。
ところで、もう一人の主役である、人質のリバティですが、この名前の由来はリバティ島なんでしょうかね。自由の女神が立ってる島の名前ですが、劇中、ジョーが高性能ライフルでリバティを狙っている事に対して「俺にも銃を持つ自由がある」みたいな皮肉を言ってましたからね。

そんな、社会問題を扱ったこの映画ですが、テーマ性を抜いて、一本の娯楽アクションとして考えてみると、上で例に挙げた2本(『ピースメーカー』『エネミー・オブ〜』)と比べると、大分質が落ちてる印象です。かと言って、『ボウリング・フォー・コロンバイン』ほどにはこのテーマを掘り下げているわけでもありません。
という訳で、ちょっと中途半端な映画という感もあったりします。悪く言うと、問題作(もしくは野心作)への成り損ねみたいです。『フォーン・ブース』『スナイパー』『ボウリング〜』の中で、最も印象に残りづらいのが、この『スナイパー』じゃないかと思います。
そんな中、この映画で一番印象に残ったシーンは、「リバティが、自分の身に起こってる事を通りかかった警官に知らせる為、気を引かせる為にストリップを始める」シーンでしたね(そんな所かい・笑)。ちなみに、DVDの映像特典では、このシーンをマルチアングルで見れました。やはり、力を入れた見せ場のシーンだったようです。
結局、後々にこの映画に関して覚えてる内容は、銃規制云々ではなく、「リンダ・フィオレンティーノが野外ストリップをした映画」として記憶される事になりそうな気がします(笑)。