ネゴシエーター
<METRO>
97年 アメリカ映画 118分

監督:トーマス・カーター
出演:エディ・マーフィ(スコット・ローパー)
   カーメン・エジョーゴ(ロニー)
   マイケル・ラパポート(ケビン・マッコール)
   マイケル・ウィンコット(マイク・コーダ)
   ポール・ベン−ビクター(ティール)
   アート・エバンス(サム・バファート警部補)
   キム・ミヨリ(エイコ・キムラ刑事)
   ドナル・ローグ(銀行強盗アール)

(あらすじ)
サンフランシスコ警察所属の敏腕ネゴシエーターのスコットは、今日も銀行強盗事件で犯人との交渉にあたり、誰も犠牲者を出さずに解決に導いた。
そんなスコットに、新たに「新人の教育」という仕事が与えられた。SWAT部隊から転属となったケビンという若者で、中々見込みがあるともっぱらの評判だった。

その日の夜。スコットは、同僚であり友人のサムの付き合いで、宝石強盗事件の容疑者のいるアパートに向かった。「話を聞くだけなので一人でいい」と言って一人で容疑者の部屋に行ったサムだが、何とその容疑者に殺されてしまうのだった。
怒りに燃えるスコットは、この事件を担当したいとボスに直訴するも、サムの友人だったという事で撥ね付けられてしまう。仕方がないので事件の担当を諦めたスコットは、ケビンの教育の仕事を始める。
そんな折り、二人の乗る車の無線に、銀行強盗による人質事件が発生した事が告げられる。現場に急行し、早速犯人との交渉に向かうスコット。だが、この強盗人質事件の犯人は、サムを殺した犯人、マイク・コーダその人なのだった。

(感想)
エディ・マーフィが、コメディ要素無しのシリアス・アクションに挑んだ映画です。話を聞いただけでは「絶対違和感があるに違いない」と思われそうですが、これがまた意外と言うのか何と言うのか、全然違和感が無いんですよね。この、エディの「笑いの無い、普通の刑事役」が、完璧に様になってるんです。
役どころは殺人課とか麻薬課の暴走刑事とかではなく、敏腕交渉人です。しかも、それこそ、『交渉人』のサミュエル・Lの交渉人役と比べても全く遜色が無いぐらいです。シリアス・アクションなので、当然、交渉シーンにおいて、エディが得意のマシンガントークで犯人を丸め込んでしまうなんて事にはならないので、エディらしくないと言えばらしくないですが、ここまで様になってればもう文句は言えないですね。
主人公が交渉人という事で、冒頭から、人質をとって建物に立て籠もってる犯人との交渉シーンが出て来ます。で、この交渉シーンの緊迫感がもう、凄いです。サミュLの『交渉人』と違い、ネゴシエーターの仕事に関する話やテクニックの解説などが出て来ないんですが(原題が『METRO』と言うだけあって、交渉人という職業がメインの映画ではないせい)、見た感じ、ただの話し合いの中にも「プロの技を使ってそうな雰囲気」というのがビシバシ感じられるんですよね。実際の交渉人がああいう行動をとるかどうかは分からないですが、映画的には「アクションヒーローによる交渉」よりもかなりリアルに見えます。
ただ、この冒頭の事件。最終的な解決の仕方はモロ、アクションヒーロー仕様になってます。人質を抱えてる犯人を「振り向き様に射撃」ですからね。これは、本物の交渉人は絶対やらない手段だと思います(笑)。

交渉人が主役の映画ですが、実のところ、その内容は普通の刑事アクションと変わりがないです。犯人との銃撃戦シーンあり、カーチェイスシーンあり、恋人とのラブシーンありと。途中に交渉シーンがある事でかろうじて主人公の設定に珍しさが出てる程度ですね。
なので、他のアクション映画と比べて、内容自体に目新しさはほとんど無いです。「エディが笑い無しのシリアス演技をしている」というのも、あまりに自然過ぎて「見所」という感じがしないです。
でも、冒頭の交渉シーンの緊迫感は凄かったですし、中盤の暴走路面電車を使ったカーチェイスシーンの迫力も凄いと、見せ場はちゃんと定期的に出て来てくれるので、新鮮味は無いものの、良く出来た刑事アクション物として楽しむ事が出来ます。

ちなみに、主人公の刑事に、上からの命令で強制的に新人の相棒が付けさせられる、というのもありがちな展開ですが、その新人の教育を「ちゃんとやる」というのは案外珍しいような気もしますね。最初こそ嫌がる素振りを見せたスコットですが、それも最初だけで、コンビを組んだ後はちゃんと、良き先輩として指導をしていく事になるんです。この辺の爽やかさは個人的にかなりの好印象です。

ストーリー的には、「同僚が殺される」「強制的にパートナーがつけられる」といったエピソードが出て来ますが、これらは実はストーリーにおいて味付け程度のものです(ついでに言うと、主人公が交渉人であるという点も・笑)。話の目的は「同僚の敵討ち」でも「新人を立派に教育する」でもなく、「恋人との関係が次の段階に行く」という所だったりします。
これは何かもったいない気がしますねぇ。アクションシーンやサスペンスシーンは全体的によく出来てるんですが、映画を見ていて唯一テンションの下がる場面があり、それがこの「恋人との話し合いシーン」なんですよね。この映画を型作る要素の中で、一番つまらない部分をメインに持って来てしまうとは。
最終的には、恋人と二人で旅行に出掛ける、というところでエンディングですが、ストーリーの到達点がこんな所というのは、アクション映画としては正直寂しいです。まあ、ラストがそういうシーンだというのは別にいいんですが、これまでの、友人が殺された所や、新人の交渉人への教育シーンなどの要素が、「最終的なストーリーの到達点」に全然関わって無いんですよね。なので、ラストは「え、こんなんで終わっちゃうの?」という感じが無きにしもあらずです。
新味が無くてもいいから、もっとアクション映画的なストーリーにしてほしかったですね。