ピースメーカー
<THE PEACEMAKER>
97年 アメリカ映画 124分

監督:ミミ・レダー
脚本:マイケル・シーファー
音楽:ハンス・ジマー
出演:ジョージ・クルーニー(トーマス・デヴォー)
   ニコール・キッドマン(ジュリア・ケリー)
   マーセル・ユーレス(デューサン)
   アレクサンダー・バルエフ(コドロフ)
   アーミン・ミューラー=スタール(ディミトリ)

(あらすじ)
旧ソ連で廃棄予定の核弾頭を積んだ列車が衝突事故を起こし、核爆破が起こる事件が発生した。だがこれは事故ではなく、意図的に仕組まれたものだったのだ。首謀者のコドロフ将軍が核弾頭10基を盗み出し、この衝突事故に乗じて1基を爆破させ、核弾頭が紛失しているのがバレる時間稼ぎをしたのだ。
だが、アメリカの核物理学者ケリー博士と、国防総省の軍人デヴォー大佐がこの計画を見破る。

イラン国境付近でコドロフの乗る弾頭を積んだトラックを衛星で発見し、デヴォー率いる特殊部隊により、コドロフを射殺、核弾頭の奪回に成功した。
だが、奪回した核弾頭は8基しかなかったのだ。

残り1基の核弾頭はあるテロリストの手に渡っていた。
ケリーは言う「10基の核弾頭を欲しがる奴より、1基を欲しがる奴の方が危険」と。果たして、そのテロリストの目的は何なのか。ケリーとデヴォーは核爆破テロを防ぐ事が出来るのか!?

(感想)
盗まれた核弾頭を巡るサスペンス・アクション大作です。どことなく、「ジャック・ライアンシリーズ」を彷彿とさせるポリティカル・アクションでもありますね。
とにかくこの映画、サスペンスシーンとアクションシーンの緊張感が半端じゃないです。まさに息つく暇も無いぐらいの緊張と興奮!そして、テロリストとの戦い(と言うか、追撃戦)をリアルに描いたストーリーもまた凄く良く出来てるんです。
発生した核爆発事件に対して、“世界の警察”ことアメリカがどんな対応をとっていくのか、というのも興味深いところです。

主演はジョージ・クルーニーとニコール・キッドマンの二人ですが、どちらも素晴らしいですね。特にジョージ・クルーニーのアクションシーンでのカッコ良さといったら、もうたまらないです。
アクション面はクルーニー演じるデヴォーの独壇場ですが、サスペンス面ではニコール・キッドマン演じるケリーがリードしていきます。このケリーという人物、とにかく頭がいいです。そして、それを嫌味なく演じてましたね。
事件やテロの行動の裏に隠されたものなどを次々と暴いていきながらも、その中に、大きな作戦の指揮を執るのが今回が初めてという事での緊張感も感じられました。

派手なアクションシーンは劇中で3回出てきます。ウィーンでのカーチェイスとイラン国境付近の橋の上でのテロリストとの銃撃戦、そしてクライマックスのニューヨークでの追跡劇。そして、このどれもが興奮と緊張感120%の凄いシーンなんです。
カーチェイスは、この映画最初の派手なアクションシーンで、見てる人にとってもこの映画のアクションシーン初体験の場面なわけです(冒頭の銃撃シーンは“アクションシーン”には含めません)。そこに、同じく、初めてカーチェイスや銃撃戦を体験する事となるケリーが一緒にいるというのがいいですね。
友人を殺されてもはや暴走状態となったデヴォーの行動にただ悲鳴をあげるばかりなんですが、その行動は観客の代弁でもありますよね。こういうキャラがアクションシーンに関わってる事で、ただマッチョヒーローが暴れ回るだけのアクションシーンとは違うものになってるんです。

ですが、次の橋の上での対テロリスト戦は、戦闘服に身を包んだデヴォーことマッチョヒーローの独壇場となってます(まあ、クルーニーはそんなにマッチョでもないですが・笑)。何だかんだいって、アクションヒーローの独壇場シーンというのは、アクション映画の中でも最も盛り上がる場面でもありますからね。で、このシーンのクルーニーのアクションヒーローぶりがもう、見てて惚れ惚れするほどのカッコ良さです。素晴らしい。また、クルーニーのアクション以外でも、ヘリからの銃撃シーンなども大迫力ですし、なによりも空撮を駆使したこのシーンの撮影がまた凄くて、興奮度倍増です。

そしてクライマックスのニューヨークのシーンですが、核弾頭と起爆装置を持ち歩いてるテロリストがウロついてるという事で、警察からFBIから軍から、いろんな連中が集まって、もう大混乱状態になってるんです。ここも撮影がうまくて、ニューヨークが大変な事態に“なりかけてる(市民はまだ何が起こってるのか知らないので)”というのが肌で感じられるぐらいの迫力なんです。

こんな凄いアクションを撮ったのは、『ER』出身の女性監督ミミ・レダーです。思えば、『ER』も病院が舞台の医療ドラマなのに、まるでアクション映画を見てるような迫力と興奮があるドラマでした。そこで培った技量をサスペンスアクションで活かしてみたら、こんな傑作が出来上がったという訳なんですね。

また、ただアクションシーンが凄いだけじゃなく、ちゃんと主人公二人の人物描写もしっかりしているんです。それも、この二人の過去のエピソードなどが語られたりするような場面はなく、主に「この局面でどういう行動をとるような人物なのか」という所で人物描写をしているので、映画の進行の邪魔になるという事が全くないんです。しかも、映画が進行する中で小出しにしているような感じなので、映画が進む毎に主人公二人への感情移入の度合いが高まるという、まさに最高の効果を上げてました。
ちなみに、主人公が二人と言う事で、事件をコンビで解決していく、「バディムービー」的な側面もあります。その手の映画のお約束「最初は仲違いをしているが、だんだん協力し合うようになっていく」という要素もあるにはあるんですが、少し違う意見を言い合うシーンがあるぐらいで、“仲違い”という印象を持つシーンは皆無ですね。これは、この二人が刑事ではなく、もっと責任の重い立場にいる人間なのが原因なんでしょうね。どちらも、「相手の方が正しい」と思ったら、意地で自己を押し通すような事をしないんですよね。

面白い事に、人物がしっかり描かれるのが主人公だけでないんです。敵であるテロリストについても、「なぜ、こんな凶行に走るのか」というのが語られ、それも、見てる人が思わず同情を感じてしまうような事件が原因なんです。
テロリストをただの勧善懲悪の敵役ではなく、一人の人間として描いてるところが面白くもあり、怖いところでもありますね。
ちなみに、中盤で殺されるコドロフ将軍の方は、金が目的で動いてる、誰が見ても同情の余地のない悪党として描かれてます。なので、こいつを倒すシーンが、“ヒーロー大活躍!”みたいなアクションシーンに演出されてるんですね。

また、劇中には思わず感心するようなセリフが度々出てきます。『踊る大走査線ザ・ムービー』の中の有名なセリフ、「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」は、この映画の中でデヴォーがケリーに言ったセリフが元ネタというのは有名な話です(「ここはワシントンじゃない、現実の世界だ」というようなセリフ)。
中でも私が一番好きなセリフは、コドロフ将軍から核弾頭を奪回する際のヘリからの銃撃戦のシーンで、“民間人には絶対に発砲してはならない”という命令を受けた後のデヴォーが敵テロリストを指差して部下に命令したセリフ、「あいつらは撃ち殺して良ぉし!」ですね(これが“感心するセリフ”なのか?・笑)。

あらすじにも書いた「10基の核弾頭を欲しがる奴より、1基を欲しがる奴の方が危険」というのもあまり聞かない理論で面白いですし、テロリストが犯行後声明のビデオで語った、国連に対する皮肉たっぷりの演説も思わず考えさせられてしまいます。似たようなところで、捕まえたテロの一人がハーバード出であった事からデヴォーが言った「アメリカは世界中のテロリストを育ててるんだ」なんてセリフもありましたね。
この映画、監督の演出もいいんですが、脚本も凄く面白いんですよね。この辺のセリフを社会派のドラマ映画ではなく、エンターテイメントのアクション映画で使ってるというのが凄いですね。さすがハリウッドです。

さらに、場面を盛り上げる音楽がまたエラくカッコいいんです。『クリムゾン・タイド』『ザ・ロック』のハンス・ジマーが、まさにやる気満々で書いたスコアみたいな感じで、曲を聞いてるだけで燃えてくるぐらいです。