監督:リンゴ・ラム
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム(レプリカント/トーチ)
マイケル・ルーカー(ジェイク・ライリー)
キャサリン・デント(アンジー)
(感想)
“一人二役”“開脚”“回し蹴り”という、俗に言う「ヴァン・ダム3種の神器」が登場する、現時点最後の映画という意味で貴重な一作です(注・実際には俗にも言われてません)。
この頃、主演作がビデオスルーにされるという事態が起こってきた事で、今後の進路の模索を始めだしたのか、これ以降、意味も無く開脚をし、敵を回し蹴ったりするような映画にあまり積極的に出ないようになってしまいました。
そういう映画が好きだった私としては非常に残念ですが、この後の作品群も、アクション俳優が生き残る為に演技の幅を広げようと頑張っているというのが感じ取れて、それなりに魅力的ではありましたからね。しょうがない所です。
さて。この映画でヴァン・ダムが演じる2つのキャラクターは、「30代の赤ん坊」として登場する、無垢なレプリカントと、サイコな連続殺人鬼トーチという、アクションヒーローとはほど遠いようなキャラクターです。
トーチの方は、性格設定等は、そのままサイコサスペンスにも出れそうなぐらいのサイコっぷりなんですけど、サスペンス映画に出てくるような連中と違って、「接近戦が超強い」という、愉快なキャラクターとなっています。
この、ヴァン・ダム久々の悪役っぷりも中々良かったんですけど、「サイコ殺人鬼なのに、武闘派」という設定自体が個人的にはかなりツボでしたねぇ。
そして、主人公となるレプリカントですが、こちらは何とも複雑で、感情移入しづらいキャラクターでした。やっぱり、普通の人間ではなく、“クローン人間”という、現実離れしたキャラクターなせいか、まず、その設定を掴む所から始めないとならないのが厄介です。
例えば、これまでの映画で出てきたクローンは、性格も記憶も、オリジナルと全く一緒の完全なコピーというタイプが多かったんですけど、レプリカントは、どちらかと言うと「双子の片割れ」みたいな感じのようなんですよね。でも、オリジナルの記憶はどうも脳内に眠っているようで、オリジナルが過去にやった行動を、きっかけがあれば思い出す事が出来るようなんです。
また、レプリカントは、普通の人間と比べても、学習速度が異常に早いようなんです。体は大人として生まれたものの、脳は赤ん坊みたいな状態だったにも関わらず、わずか数日で基本的な動作はもちろん、テレビで見ただけで器械体操をも習得し、言葉も早々に話せるようになってしまいます。
これは、オリジナルの記憶が脳内にあるから、完全に一から学習するよりも飲み込みが早いという事なのかもしれないんですけど、それなら、普通の人よりも悪の道に走るスピードも早いはずなんですよね。
多分、凶悪サイコ犯のクローンであるレプリカントの人格が殺人鬼ではない、という所から、「人は環境で変わる」というのを表現しているんだと思うんですけど、でも、レプリカントの境遇も、決していい環境ではないんですよね。何しろ、マイケル・ルーカーに虐待されまくってましたからね。なので、「レプリカントが悪に走らないのは何故なのか?」と思ってしまいます。
これは、もしかしたら、オリジナルの方も、元々はちょっとやそっとの虐待では悪に走らないような、性根のいい人間だったからという事なのかもしれないですね。それが、長い年月に渡る肉体的・精神的虐待によって、殺人をなんとも思わないような悪魔に変えられてしまったのではと。そうなると、この悪役に悲劇性のようなものが感じられてきます。
それにしても、マイケル・ルーカーのレプリカントに対する仕打ちは酷いものでしたね。見るに耐えないぐらいの虐待っぷりでした。
「殺人鬼の逮捕に執念を見せる熱血刑事」というキャラクターはカッコいいと思いますし、冒頭で火事の中から赤ん坊を救出する姿はまさにヒーローだったんですけど、いくら外見が憎き犯人のものとはいえ、自分に対して敵意を持ってない人間をあそこまで痛めつけられるものなのかと。これのお陰で、映画自体の印象もちょっと悪く感じられるぐらいです。
あと、マイケル・ルーカーの捜査も、「それで逮捕しても、起訴に持ち込めるのか」と思うような強引極まりないもので、何か、もうちょっとスマートに出来なかったものかと思ってしまいます。これは、ジェイクというキャラクターに対してと言うより、映画そのものに対しての要望みたいなものですけど。娼婦のキャラクターも何かご都合主義っぽいですし、ストーリー面に所々乱暴、と言うか、乱雑な点が見受けられるんですよね。
アクションシーンは全般迫力がありましたし、主演俳優の魅力もしっかり出ていたんで、何か、「惜しい映画」という思いが出てきてしまいますね。