監督・脚本:ブライアン・トレンチャード=スミス
出演:アントニオ・サバトJr.(ポール・トーマス・ブレイク)
キンバリー・デイビス(ロンダ・ニューカム)
ジェローム・イーラーズ(エメット・ラーキン)
ニック・テイト(ハガティ司令官)
ケイト・ビーハン(イブ・ランバート)
アリーサ・ジェーン・クック(クリスティン)
アレックス・ピーターソンズ(ラズロビック)
ジャレッド・ロビンセン(ボブ・デンバーズ)
トッド・レヴィ(ジャック・ガードナー)
シャルロット・グレッグ(ベアトリス・ガードナー)
ビクター・パラスコス(トニー・モラン)
クリストファー・モリス(ブラニアン)
だが、その列車にはマッチョヒーローのポール・ブレイクが乗り込んでいた。テログループのリーダー、イブの現在の相棒であるラーキンに因縁があり、後を追っていたのだ。
(感想)
テロリストが列車を占拠して、マッチョヒーローが孤軍奮闘する、という暴走特急物のB級未公開映画ですが、驚くほど出来のいい映画でしたね。同じジャンルの映画である『ヴァン・ダムINディレイルド』よりも全然レベルが高いです。ヴァン・ダムも、どうせ列車アクションに出るんなら、こっちに出てくれれば良かったのにとか思ってしまうぐらいです。
アクションよりもストーリーの方がメインになってるような作りで、中盤、主人公がほとんど姿を現さないなんて箇所もあるぐらいです(そうなると、ヴァン・ダム主演だと寂しいか・笑)。
とにかく、登場キャラクターの人物描写がよく出来てるんですよね。まるで、アクション映画よりもドラマ映画を見ているかのような気分になってくるぐらいです。
未公開アクション映画では、たいてい「何でそんな行動をするんだ?」と見てて思うような妙な言動をとる奴が混じってるものです。ですが、この映画では、敵グループも乗客も政府の役人も、きちんと人間らしい行動をとってるんです。「脚本の都合上で動かされてるように感じる」というのはほとんどなく、みんな、自分の意志で動いているように見えるんですよね。なので、ストーリー展開を見ていて「醒める瞬間」いうのが無いんです。ずっと集中して見ていられましたね。
そのストーリー展開自体も、特に劇的な事が起こるというわけでもないんですが、うまい具合にサスペンスと緊張が高まっていくような、見てて先が気になるというものになってるんです。
また、他のこの手の映画でよく見るような、ありがちな展開が出てくる場合もありますが、必ずそこに何か一ドラマが加えられてるんです。
列車を占拠したテログループは、人殺しが趣味の極悪集団ではなく、環境保護を訴えるのが目的の、「人殺しをしない」テログループです。少なくともリーダーのイブという女はそういう思想の元で行動しているんですが、現在の相棒のラーキンという男が悪い奴なんですよね。こちらは、この手の映画の悪役そのままという感じの冷酷な奴で、人殺しをする事に何の躊躇もありません。
なんでこの二人が組む事になったのかは詳しくは語られませんでしたが、多分、お互いに「政府の事を悪く思ってる」という共通点があった為に、どこかで出会う事となってしまったんでしょうね。
とにかく、悪役グループが一枚岩ではない、というのは割と珍しい設定のような気がします。
ラーキンも最初はイブに従っているような素振りを見せていたんですが、次第に本性を表していきます。一方、イブの方はしっかりとした決意をもってこの作戦に当たったんですが、次第に指揮権を奪われていく事となります。この辺のイブの戸惑いとか「こんななハズではなかったのに」という思いを、しつこくない、サスペンスを少し盛り上げる程度で描かれていきます。
また、最初の頃はどちらかと言うと頭が悪そうに見えたヒロインも、だんだんと勇敢で心の強い所を見せていきます。もちろん、「突如マッチョ化してテロリストを撃ち殺し始める」なんて突飛な展開にはなりません(笑)。もっとリアルで人間的な活躍をする事となるんです。
他の乗客の中にも、勇敢な奴や臆病な奴などがいるんですが、ただ単にそういう性格の人が乗客の中にいるだけで終わってなく、「そういう性格の乗客が、この局面でどういう行動に出るのか」というサスペンスシーンに関わってくる事となるんです。
列車内と並行して、政府の作戦本部の様子も出て来ます。ここでメインに出てくるのは、作戦の指揮をとるハガティ司令官と、部下のクリスティという女性の二人です。そして、現場で作戦を遂行する軍人達のトップが、クリスティの夫だったりします。
何でこんな設定が作られているのかと言うと、「列車に乗り込もうとする特殊部隊の精鋭の乗ったヘリが撃ち落とされる」という、この手の映画でありがちなシーンにおいて、「そこで死んだ兵士の一人が、メインキャラの夫だ」という、感傷的なドラマを盛り込む為なんでしょうね。このシーンまでの時点で、敵以外にほとんど犠牲が出て無かったという展開だっただけに、悲しみも大きいです。
敵が極悪テロ集団じゃないせいか、乗客が意味も無く撃ち殺されるという事が無いんですよね。「命の重み」というのを表現しようとしているかのようです。ただ、その一方で主人公は次々と敵を殺していってるんですけどね(笑)。
このようにストーリー面においては暴走特急物の映画としては屈指の出来です。下手したら、本家より良くできた脚本なんじゃないかと思ってしまうぐらいです(笑)。ですが、その分、アクションが少なめになってしまってるんですよね。
この点は残念と言えば残念ではあるんですが、映画のバランスを考えると、アクションシーンはこの程度で充分なような気もします。主人公の活躍する場面が少ないんですが、その少ない活躍場面のほとんどが、「待ってましたとばかりに登場して、敵を見事にやっつける」という、大活躍シーンなんですよね。「出番は少ないが、出れば目の覚めるような大活躍」というのは、ウルトラマンの出演シーンと似た印象があるかもしれないですね(笑)。
全体的に、列車という限られた場所で起こるアクションやドラマを、かなりうまく見せてくれてましたね。ただのジャンル映画というだけでなく、この舞台設定を無駄無く、そして面白くなるように見事に使いこなしていました。いやぁ、ハイレベルな映画でしたね。