スパイダーマン
<SPIDER-MAN>
02年 アメリカ映画 121分

監督:サム・ライミ
音楽:ダニー・エルフマン
出演:トビー・マグワイア(ピーター・パーカー/スパイダーマン)
   ウィレム・デフォー(ノーマン・オズボーン/グリーン・ゴブリン)
   キルステイン・ダンスト(メリー・ジェーン・ワトソン)
   ジェームズ・フランコ(ハリー・オズボーン)
   J・K・シモンズ(デイリー・ビューグル紙編集長)
   クリフ・ロバートソン(ベン・パーカー)
   ローズマリー・ハリス(メイ・パーカー)

(あらすじ)
気弱な高校生のピーター・パーカーは、幼い頃からずっと想い続けてる、隣に住んでる同級生のMJに、告白も出来ず、ただ遠くから見ている事しか出来ずにいた。
ある日。ピーターが学校の課外授業で研究所を見学に行った時、その研究所にいた遺伝子組み換えで作られたクモ、スーパースパイダーに手を噛まれてしまった。そのクモの毒なのか、その晩は激しいめまいにより、意識を失うように倒れてしまう。
だが次の日。ピーターの体に異変が起きていた。

一方、巨大軍需企業オズコープ社の科学者で、ピーターの親友ハリーの父親であるノーマン・オズボーンは、ある新薬の研究を進めていた。だが、その研究にストップがかけられそうになる。急いで結果を出さなければならなくなったノーマンは、自分の体を使って人体実験を始める。
だが、その薬の副作用により、ノーマンの中に邪悪な感情が芽生え始める・・・。

(感想)
有名なアメリカン・コミックの映画化です。コミック原作の映画はこれまでにも何本も作られてきましたが、中でも最強に面白い映画です。

まず、主人公がもとは気弱な学生である点が珍しくも面白いですね。他のヒーロー達よりも親近感がもてます。もともと、原作コミックの人気の秘密もこの部分にあるようですしね。
私は、基本的に「強いヒーロー」というものが好きで、ピンチの時も、ハラハラさせる事無くあっさり切り抜けるぐらいのヒーローを求めてたりします。最後のボスとの戦いでも、あまりやられまくってると、見ててイライラするぐらいです。
この映画も、主人公がピンチに陥ったり、ボスとの戦いでボロボロにされたりするんですが、この「親近感の持てるヒーロー像」のおかげで、イライラするどころか、思わず心の中で応援しながら見てしまいました。

主人公の設定もいいんですが、主役のピーターを演じたトビー・マグワイアが役にモロにハマってたというのも大きいですね。映画は、アクションシーンよりも、ピーターとMJの関係とかのドラマ部分にわりと時間を割いてるんですが、トビー演じるピーターのキャラクターがあまりに完璧なので、ストーリーを進ませる為のシーンとかも見ててつまらなく感じないんですよね。
最初の頃は、MJに話し掛けるのもやっとだったピーターが、終盤の病院の場面ではMJの目を見て、ほぼ愛の告白に近いような事を言ってたりするところなんか、見てて思わずドキドキしてしまいます。
普通、アクション映画にこういうシーンが入ってると「邪魔だな」とか思うんですが、それが全然邪魔に感じられないというのは凄いです。私にとっては奇跡に近いかもしれません(笑)。やっぱり、主人公が「ヒーローとしても人間としても成長してきた」と感じられる所がいいんでしょうか。
そうそう、ヒーローの誕生の部分からストーリーをしっかり描いたというのも、この映画の話が面白い原因の一つですよね。

また、主役だけでなく、敵役のキャスティングがもう絶妙過ぎるぐらい見事でしたね。悪役グリーン・ゴブリンを演じるウィレム・デフォーの、まるで「演じているのが楽しくて仕方がない」と見てて思ってしまうぐらいのノリノリ演技はほんと素晴らしいです。
コミック原作の映画の悪役をやる人は、よく、悪ノリをしてるかのようなやり過ぎ演技をしている事が90年代までは多かったですが(それが“悪い”というわけではないです)、この映画のデフォーはそれとはちょっと感じが違うんですよね。
グリーン・ゴブリンの時は確かにそういう演技なんですが、ノーマンの時が凄く落ち着いた演技になってるからそう思うんでしょうか。
で、この対比が見てて面白いんですよね。特に、鏡の前でノーマンとゴブリンが会話をするという、一人二役的なシーンは凄かったですね。

ちなみに、ヒロインのMJ役のキルステン・ダンストが不細工という意見をよく聞きますね。確かに、アップになるとちょっとツラいものがあるような気がします(笑)。
そのせいで、なぜピーターがこんなツラの女(しかも尻軽)に惚れてるのか分からない人もいるかもしれません。そんな人は、キルステンが子役の時の映画、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や『ジュマンジ』あたりを見てみてください。そして、ピーターが子供の頃に隣に越してきたMJにほぼ一目惚れ状態だったという事を思い出していただければ、納得出来るのではないでしょうか。もう、何年も一途に想い続けてるわけですから、歳とって顔がちょっと変わったぐらい、ピーターはどうとも思ってないのでしょう。
ただ、MJが嫌われてるのは顔よりも、どちらかと言うと態度の方が要因かもしれないですね。こちらの方は、家庭環境の悪さが原因という面もあるんですけど、コミック映画のヒロインにしては内面が複雑過ぎるというのはあるかもしれないですね。外見はしょうがないとして、性格はもっと可愛げがあっても良かったかなとも思います。

さて、この映画を語るうえで外せないのが、賭けレスリングのシーンで司会役で出てるブルース・キャンベル・・・・・・ではなくて、スパイダーマンがスパイダーウェブでニューヨークの町を飛び回るという、見てて気持ちいいことこの上ないVFXシーンです。
このシーンの映像とか浮遊感覚はほんと素晴らしいですね。まるで、見てる自分も飛んでるかのような錯覚を覚えるほどですから。
もともと、あまりVFXを使う気がなかった監督のサム・ライミは、「カメラを吊るしてビルの間で振り回す」みたいな撮影方法を考えていたとか(笑)。さすが、『死霊のはらわた』で「地を這うカメラ」をやった男です。

それにしても、サム・ライミがこんなビッグバジェットの大ヒット超大作映画の監督になるとは、『ダークマン』の頃は想像もつかなかったですね。
オープニングクレジットで、ダニー・エルフマンの「いかにも大作!」といった感じの派手なスコアに乗せて、画面に「Directed by SAM RAIMI」とか出たの見た時は、何か妙に嬉しかったものです。別に、ライミの監督作をずっと追ってるファンというわけではないんですが(笑)。
でもこの人、やっぱり、『シンプル・プラン』以降、自分のカラーを抑え目にした演出をするようになったのが効いたんでしょうね。
この『スパイダーマン』も、ほんと作りが堅実な感じがしますよね。やたらと見せ場を出しまくる昨今の大作映画とはまた違う、最初はゆっくり始まって、見せ場を定期的に入れつつ、中盤で大盛り上がりのシーンが入って、それから静かなシーンが入って、クライマックスで最高潮に盛り上げると。
まるで教科書通りな感じですが、でも今見ると、こういう展開が結構新鮮な感じもしますね。序盤や中盤に力を入れすぎて尻すぼみになるよりは全然いいです。
最近、そういうアクション映画が割と多い気がしますが、その点、この映画はクライマックスのアクションシーンの盛り上がりは最高でしたからね。最初に見た時は、もう手に汗握って、心の中でスパイダーマンに声援を送りながら見てましたから(今でもそんな感じで見てますが・笑)。
ロープウェーのロープを持ってぶら下がってるところに、ゴブリンが突っ込んでくるという絶体絶命のシーンで、橋の上のニューヨーク市民の援護で助かるという展開もいいですね。さすが「親愛なる隣人、スパイダーマン」です。
上の方でも書きましたが、その後のゴブリンとの一対一の戦いでボロボロにされるところも、普通ならこういうシーンでは「ヒーローなんだから、そんなにやられてんなよ!」とか思ってしまうんですが、もう、思わず「頑張れ、スパイダーマン!」と叫びたくなるぐらい燃えながら見てましたからねぇ。こんなこと、初めてかもしれません。

で、この後の余韻の残るラストも最高ですね。やっぱり、ラストはキレイに締めてくれた方が、見終わった後の充実感が違いますからね(ハッピーエンドにしろ、アンハッピーエンドにしろ)。
ついに、何年も想い続けていた人の愛を得られたというのに、それを拒絶しなければならないピーターの苦悩と決断がもう、カッコいい!さすがヒーローです。ここで「僕も君の事がずっと好きだったんだ」とか言ってるようじゃヒーロー失格ですからね。「次からはアクション映画ではなく、恋愛映画に出てください」とか思ってしまうところです(まあ、結局『2』以降そっち方面に進むんですが)。
その後の、トビーの「アイム、スパイダーマン!」の後に入る、スパイダーマンのデモンストレーションみたいな映像が、もう最高!テレビスポットでも使われてましたが、ほんと見事過ぎるぐらいキレイに締まったラストシーンでした。
また、エンドクレジットで流れる曲がメチャメチャカッコいいというのも素晴らしいですね。DVDの映像特典で歌ってる人を見たら、ニコラス・ケイジみたいな顔をしてたのでちょっとビックリしましたが(どうでもいい話)。
オープニングのダニー・エルフマンのスコアも最高でしたが、このエンディングの歌3曲もとっても良かったですね。しかも、最後の1曲は、昔のアニメ版『スパイダーマン』のテーマ曲というのも嬉しい演出でした。