監督:トニー・スコット
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:ロバート・レッドフォード(ネイサン・ミュアー)
ブラッド・ピット(トム・ビショップ)
キャサリン・マコーマック(エリザベス・ハドレー)
ラリー・ブリッグマン(トロイ・フォルガー)
マリアンヌ・ジャン=バプティスト(グラディス・ジェニップ)
(感想)
ロバート・レッドフォードとブラッド・ピット、新旧2枚目スターが顔を合わせたスパイ・サスペンス映画です。
内容は、ブラッド・ピット演じる若きスパイ、トム・ビショップが中国で逮捕され、24時間後には処刑されるという情報を聞いたレッドフォード演じるベテランスパイのミュアーが、どうにかして助けてやろうとする、というものです。
ビショップは、かつてミュアー自身がスカウトし、そして育てあげた大切な弟子とも言える存在です。そのビショップを助ける為、ミュアーは「24時間以内に」「CIA本部内で」「誰にも怪しまれずに」という条件下の元、救出作戦を練り上げていくんです。
このように、スパイ映画といっても、これまで見て来た「どこかに潜入する」だとか「数々の怪しいグッズを使って敵を倒す」だとかいった娯楽アクション的な内容とは一線を画した、頭脳プレーメインの作りとなっています。
この、ミュアーがいかにしてあの過酷な条件の下でビショップの救出作戦を練り上げ、実行していくのかの過程が実にスリリングです。
そして、このサスペンス・ストーリー部分だけでなく、「なぜそうまでして助けようとするのか」という、この二人の関係を描いたドラマ面も面白いですね。
もちろん、弟子だから助けたいというのはあるんでしょうが、ミュアーは任務の為なら犠牲も厭わないという冷酷な面も併せ持った人物です。ビショップが捕まったのは言ってみれば自業自得である、独断の行動だったのに加え、外交的にもここでアメリカが介入して大規模な救出作戦を実行するのには問題があるわけです。本来なら、ミュアーも上層部と同様「ビショップを見捨てる」という選択肢をとってもおかしくないはずなんですよね。これまでにもこのような苦渋の決断を幾度となくしてきた男ですし。
それが何故、こうまでしてビショップを助けようとするのか。この点については具体的に言及される部分は無いので、劇中に散見されるヒントから想像するしかありません。
まず、何故ビショップがこの中国の作戦を行ったのかの原因に、ミュアーの作戦ミスがあった、というのが原因の一つとしてありそうです。ビショップは、ミュアーとの最後の任務で知り合ったエリザベスという女性を救出する為にこの作戦を実行したわけですが、エリザベスをこの中国の刑務所に送ったのがミュアーだったんですよね。それ自体は作戦ミスというわけではありませんが、ビショップがエリザベスに本気で惚れていた、というのを見抜けなかったのはミュアーのミスと言ってもいい所ですからね。もし気付いていれば、ビショップの性格上、こういう事態が起こる事は予測出来たはずなんですから。
そして、そのビショップとミュアーの最後の作戦の時、ビショップはミュアーの冷酷なやり方についていけず、ミュアーとの決別を宣言しました。手塩にかけて育てた自慢の弟子であったビショップから面と向かって「失望した」とまで言われた事は、ミュアーにとってはショックだったのかもしれません。
そして、ミュアーにとって本日がCIA最後の日であり、24時間後にはもう任務に縛られなくてもいいという状況です。
これらを総合して、ミュアーはビショップの救出を決断したんじゃないかと思うんですよね。最後ぐらいは今までのやり方を曲げて人道的な事をしてもいいんじゃないかと。あと、ビショップの“信頼”を取り戻したかったというのもあったかもしれません。
さて。ストーリー面はもちろんですが、それにも増して「これがこの映画の見どころだ!」と言えるのは、もちろんレッドフォードとブラッド・ピットが共演している、という点でしょうね。
実は、レッドフォードの若い時とブラッド・ピットって結構似てるんですよね。演技とか生き方とかではなく、単純に顔の造りが(笑)。以前、レッドフォードの若い時の主演映画を見た時(『大統領の陰謀』だったか)、「あれ、何でブラッド・ピットがこんな時代の映画に出てるんだ!?」と驚いたぐらいでした。
と言う訳で、この二人が共演したら面白いだろうなとか前々から思っていたのですが(レッドフォードの監督した映画に出たという事はありましたが)、それがついに実現したわけですよ。しかも、監督はトニー・スコットで!
で、劇場公開時は喜び勇んで映画館に駆けつけたものですが、私はてっきり「レッドフォードが捕らわれたブラッド・ピットを救出にいくアクション映画」だと思っていたので、こういう頭脳戦メインのサスペンス映画だった事に、初見時は戸惑ってしまいましたね。
もちろん、面白い映画だとは思いましたが、この映画の「本当の面白さ」に気付いたのは、2回目以降の、どういう内容の映画なのかを分かったうえでの鑑賞の時でしたね。正直言うと、今でも、「当初、私が思っていたような内容のアクション映画」だったらもっと面白かったんじゃないかという気はするんですが(笑)、まあそんな事を今更言ってもしょうがないですし、そもそも、レッドフォードがアクションをやれるのかと言う問題もありますからねぇ。
それに、この映画のような、スパイ活動をリアルに描写しながら、地味な所が無いという映画も案外貴重ですからね。