沈黙の脱獄
<TODAY YOU DIE>
05年 アメリカ映画 91分

監督:ドン・E・ファンルロイ
出演:スティーブン・セガール(ハーラン・バンクス)
   アンソニー・“トレッチ”・クリス(アイス・クール)
   サラ・バクストン(レイチェル刑事)
   マリ・モロウ(ジェイダ)
   ニック・マンキューソ(サンダース刑事)
   ロバート・ミアノ(ブルーノ)
   ケビン・タイ(マックス)

(ストーリー)
金持ちから金を盗んでは、貧しい者に分け与えているという正義の盗賊ハーランことセガールだが、予知夢を見る彼女から、「その仕事を続けていたら命を落とす」と言われ、彼女を心配させない為に盗賊から足を洗う事にする。
そして、ベガスで現金輸送車の運転手の仕事を始めるが、仕事一日目にしてハメられる事となり、輸送車強奪の片棒を担がされるのだった。

その際のどさくさに紛れて金を輸送車ごとどこかに隠すのだが、警察に逮捕され、尋問を受ける事となる。だが、「頭を打って記憶が無くなった」と言い張って金の在り処を言わず、結局、刑務所送りにされてしまうのだった。
そして、その刑務所で、セガールの隠した大金を狙って、黒人の悪党やら、元々金を強奪するつもりの奴(要するにセガールをハメた奴)などが接近してくる。
もちろん、歯向かう奴らはことごとく返り討ちにしつつ、隠している金の山分けを条件に、マブダチとなった黒人ギャングの手引きで刑務所を脱獄し、自分をハメたやつらに「いかにヤバい奴を敵に回したのか」を思い知らせてやろうと企むのだった。

(感想)
この映画、実は例の訴訟問題に関わってる映画なんですよね。“例の訴訟”とは、セガールが撮影中に遅刻と早退を繰り返したり、脚本を勝手に書き換えたり、取り巻き連中を使って撮影の妨害をしたりした為に、映画の製作会社から訴えられた、というものです。
そんな背景があった為に、見る前は「セガールの新作」という期待感と共に「もしかしたら『珍テロ』みたいなトンデモない映画になってるのでは」という“不安の入り混じった期待感”もありました。
ですが、見てみたら、とりあえずきちんと形になってる映画ではあったんで一安心でした。「セガール映画」として期待するものがちゃんと入っている、ファンなら充分満足の出来る内容になってましたね。
ですが、やっぱりストーリーの節々に「妙な点」が見受けられたりもしましたね。描写不足な所があったり、無駄としか思えない要素が入り込んでたり。何よりも、セガール達が、何の情報も得られてないはずなのに、どんどんと先に進んで行く所には「?」マークを連発せずにはいられません。
途中の肝心な所が抜けたままストーリーが進んで行くんですが、この映画にとって「本当に肝心な点」の一つである、「セガールが暴虐無人に振舞う」という所はしっかり描写してくるので、ストーリーの意味は通らないのに、何だか見てて楽しくなってきます。セガールが行く先々で頼もしいまでの豪快さを見せ付けていく所は実に爽快でした。

さて。『沈黙の脱獄』という邦題が付けられてるように、セガールがムショに入れられる事となります。砂漠の真ん中に建てられた、見るからに凶悪犯な連中がウヨウヨいる危険極まりない刑務所なんですが、そんな場所を、もう涼しい顔でウロつくセガールの頼もしさといったら(笑)。
入所後間もなく、ムキムキの黒人に襲撃されたりするんですが(普通の刑務所映画なら、主人公にとって超危機的状況)、僅か数秒でそのトラブルを解決してしまいましたからね。もちろん、必殺のセガール拳を使って。
『奪還アルカトラズ』でもセガールは刑務所に入りましたが、あちらは普通の刑務所物の映画とはまた少々趣きの違うものだったので、「セガールinムショ」が楽しめる場面はあまりありませんでした。なので、この映画でそこそこの時間を割いてセガールの刑務所生活が描かれたのは個人的に嬉しかったですね。
ただ、残念ながらこの映画も「セガールinムショ」がメインの内容ではない為、映画が半分ぐらい過ぎた辺りで、セガールはあっさり脱獄をしてしまいます。ただ、その脱獄の仕方がまたエラく豪快でした。やっぱり、セガールクラスになると、脱獄をする際に、せっせと穴掘りをしたりだとかまどろっこしい事などせず、堂々とヘリに乗って去って行くんですねぇ。
でも、ヘリなんか呼ばずとも、セガール拳を使えば「監守を全員ぶちのめして、正門から脱出」なんて事もやれたような気はするんですけどね(笑)。

その後、一緒に脱獄した黒人の相棒と共に、自分をハメた連中に仕返しに行く、という展開となります。
で、ここから出て来る、この相棒との掛け合いは中々好調で、『グリマーマン』の面白さに通じるものが感じられたものでした。ちなみに、相棒を演じるのはコメディアンではなく、トレッチとかいう、たまごっちの仲間みたいな名前のラッパーの方です。
ちなみに、ここからストーリーに大事な部分が抜け落ちてるような「歯抜け感」が出てくるんですけど、もしかしたら、中盤までは概ね当初の脚本通りの展開で、この中盤以降からセガールのいたずらが始まったのかもしれないですねぇ。何だか、セガールが書き換える前のストーリーがどんなだったのか気になってきます(いったい、どういった所が気に入らなかったのかとか)。

全体的に、普通の映画として見たらまあ酷いものだと思いますが、セガール映画としては『奪還』で得られなかったものが感じられたり、『グリマーマン』の面白さがあったりと、個人的には評価出来る面の多い映画でした。あと、音楽も普通のアクションスリラーみたいな感じのカッコいいもので、B級映画の水準以上のレベルがあったように思えました。
セガール本人による格闘アクションも、その「無敵っぷり」「破壊力」のよく伝わる、迫力があるものになってて良かったです。
ただ、スタントダブルによるアクションが多かったのは少々残念でしたね。特に、一番最初に出てきた格闘アクションシーンが、もう完全に「オールスタント」だったのには参りました。「ああ、もうこの人は格闘を演じるのも面倒になってきたんだな」とか思ってしまいましたよ。
基本的に、敵をどつくぐらいの短いアクションシーンは替え玉無しなんですけど、クライマックス等「ここぞ」という所のアクションで、不自然に顔が映らない格闘シーンが登場するんですよね。
ただ、冒頭の替え玉格闘シーンに関しては、このシークエンス自体が、丸々、後から付け足したような感じの場面なんですよね(セガールのアップのシーンが、直前の格闘シーンから切り抜いてきたみたいな感じでしたし)。なので、もしかしたら、この場面はセガールが関わって無い所で勝手に撮り足したアクションシーンなのかもしれませんね。
アクションシーンが足りないと思ったプロデューサーが良かれと思ってやったのかもしれないですけど、こちらとしては「余計な事するな」としか言えませんよね。だって、冒頭から不自然に顔の隠された(要するに、明らかに代役使用の)格闘シーンを見せられたら、初っ端からテンションガタ落ちじゃないですか。
まあ今回は、例の訴訟関連の映画という事で心の準備をしていたんで、「ああ、やっぱり」程度で済みましたけどね(もはや、「今回の映画はまともなんだろうか」というドキドキ感があるのが、最近の新作セガール映画に相対する時の一つの魅力と思えるようになってきました・笑)。

ところでこの映画、隠れキャラとしてクロエ・グレース・モレッツが出てたんですね。いや別に隠れて出てるわけじゃないですしセリフも一応有るんですけど、端役過ぎてこの映画の紹介のキャスト欄に以前は名前が載ってない事が多かったんで、気付いてない人も多いのでは。