デッドロック
<UNDISPUTED>
02年 アメリカ映画 96分

監督・製作・脚本:ウォルター・ヒル
製作総指揮:ウェズリー・スナイプス
出演:ウェズリー・スナイプス(モンロー・ハッチェンス)
   ビング・レイムズ(アイスマン・チェンバース)
   ピーター・フォーク(メンディ・リップスタイン)
   マイケル・ルーカー(A・J・マーカー看守長)
   ジョン・セダ(チューイ・カンポス)
   ウェス・ステューディ(ミンゴ・ペイス)
   フィッシャー・スティーブンス(ラットバッグ)

(あらすじ)
刑務所対抗ボクシング試合で68戦無敗の成績を残すチャンピオンのモンローに、最強の敵が現れた。それは、現役ヘビー級チャンピオンとして47戦46勝1分け42KOという輝かしい記録を持つ男、アイスマン。一晩寝た相手にレイプ犯として訴えられ有罪となり、刑務所に入れられてきたのだ。
囚人の中の長的存在で、いまだに塀の外のマフィアと繋がりのある老人リップスタインは、大のボクシングファンでもあった。そこで、自身の支配力を発揮し、現役最強のチャンプと、刑務所最強のチャンプとの一戦を計画するのだった。

現役チャンピオンとしてのプライドとエゴを剥き出し、周りの囚人を見下した態度を見せるアイスマンは、当然他の囚人から嫌われまくる。一方、「最強の囚人」として尊敬を集めるモンローは、爪楊枝とボンドで模型を作るのが趣味のナイスガイだった。
果たして、勝つのはどっちか!?

(感想)
刑務所を舞台にマッチョが戦い合うという、濃くも熱い映画です。
現役最強チャンピオンと、刑務所ボクシングで最強のチャンピオンが戦うんですが、現役チャンプの方を演じるのがビング・レイムズ。もう、見るからにヘビー級チャンピオンという感じで、凶悪犯のひしめく刑務所内で堂々とジャイアン化している様子は、見てて頼もしい感じすらします。
一方の、刑務所最強のチャンプを演じるのは、アクションスターのウェズリー・スナイプスです。こちらは確かに見かけも強そうですが、パッと見はレイムズよりも弱そうな雰囲気です。ですが、動き始めるとそれは凄い事になるわけですよ。何しろ、「現役A級アクションスターで、最も動ける男」と言っても過言では無い人ですからね。ただ、最近は「現役A級スター」とも言えない状況になってきてしまっていますが・・・(B級の世界ではスナイプスぐらい動ける人が数人いるんで、これから大変です)。

2人の頂上対決が始まるのはクライマックスで、それまではお互いの刑務所内での生活や、ピーター・フォークが試合を計画する様が描かれていきます。この、ピーター・“コロンボ”・フォークが演じるリップスタインというキャラクター、何か、裏の世界ではかなりの大物らしく、刑務所の所長を脅したりしてました。佇まいなんかはコロンボと大差無いぐらいなんですが、やる事はなかなか過激ですな。
このリップスタインにはボディガード兼雑用係みたいな人が付いていて、それを演じる俳優が「何かどこかで見た顔だな」と思ったら、テレビシリーズ『アンダーカバー』で主人公の潜入捜査官を演じてる人でした。今回の任務は潜入捜査ではないようですが(笑)、リップスタインの護衛の為に刑務所内に送られているという、「ただの犯罪者」というキャラクターでは無いようです。
あと、最近あまり姿を見ないマイケル・ルーカーも看守長役で顔を出してました。刑務所映画ではよく悪い奴として描かれる看守ですが、この「最強の囚人」が出て来る映画にあっては、みんな大人しいものでしたね。看守長のルーカーも、ボクシングの試合が始まるとゴングをカンカン鳴らす役を嬉しそうにやってたものでした。
この試合、レフェリーも実況も観客も、試合の間に観客を盛り上げるラッパーも、全員囚人です。凶悪犯専用の刑務所という事なんですが、何か、やたらと秩序だってるところが面白いですね。一番の問題児が、ちょっと前まで現役チャンプだったアイスマンでしたからね。

そんな、愉快なキャラクターと舞台を描いた後、ついに始まる世紀の一戦、「スナイプスVSレイムズ」。その試合の迫力もかなりのものがありましたね。パワーのレイムズとスピードとテクニックのスナイプスという、タイプの違うファイター同士の対決ですね。
「足技を使わないスナイプスのアクション」には少々物足りないものがあったりもしますが、でも、もしスナイプスに足技が解禁されると、レイムズが勝つ展開だった際に説得力が無くなってしまいますからね。『デモリションマン』みたいに「映画の都合上、スナイプスが負けてあげた」という印象が出てきかねません。
私は基本的にパンチよりもキックの方が好きなんで、ボクシング自体にあまり興味が無いんですが、この映画の「チャンプとしての意地とプライドを賭けた闘い」には、そんなくだらない嗜好を忘れるぐらいに熱中して見入ってしまいました。
確かに、「ビング・レイムズの動きがチャンピオンに見えない」とか「パンチが当たってないのが丸分かりな時がある」といった難点はありますが、「筋肉マンがムキムキしながら殴りあう様を演じている」という画だけあれば、まあ充分でしょう。「変なカメラワークと編集で、もはや何が起こってるのか分からない」というアクションシーンよりはるかにマシです。

お互い、この試合で人間的に成長したりだとか、何か得るものがあったりといった事は特に描かれないですし(一応、アイスマンの方は勝っても負けても、試合をしただけで仮釈放にさせてもらえるそうなんですが。でも、何故?・笑)、試合が終わって、ちょこっとエピローグを挟んだらもう映画は終了です。本当に、ただ2人のチャンプが殴り合って終わりというだけの映画です。
ドラマ面に関しては、映像やセリフで具体的に描くというより、最低限の描写だけして後は観客の想像に任せる、というタイプなんだと思います。

さて。モンローにとっては、相手が過去最強(多分)だったとはいえ、勝っても負けても自分の待遇に変化があるわけではありません。何しろ終身刑なので、今後も延々刑務所暮らしが続くわけです。「誰にでもいつかは負ける時が来る」と自ら語っていたように、負けた時の覚悟もすでに出来てるような感じでしたからね。ただ、勝ちへの欲求とかハングリー精神が落ちてるわけではないですけどね。長いムショ暮らしから学んだ事なのか、どこか物事を達観している雰囲気があるようです。
一方のアイスマンは、もう「自分が最強、周りの連中はザコ」という目線で物事を考えています。いわゆる、「俺はジャイアン」主義者です(どんな主義だ・笑)。それも、ただの自信家というわけではなく、その自信を伴うだけの実力があるんだから仕方がないところですね。
そんな2人があの試合の後、何を考えながら生きていくのか、というのを想像するのも面白いものです。

ところで、アイスマンがムショに入れられる原因となった事件ですが、当初は「変な女にハメられた」という雰囲気で描かれてましたが、突如、終盤前辺りになって被害女性がニュース番組で現在の心境を語る場面が入れられ、まるでアイスマンがただの鬼畜のような男だという印象を与えて来る事となります。
このシーンが、「女性団体か何かの影響でこういうシーンを入れるように要求された」のか、「もともとそういう脚本だった」のかで映画の印象もちょっと違ってくるんですけど、どうなんでしょう。
でも、どうもこの映画のテーマは「塀の中でもチャンピオンでいられるか」という事らしいですね(DVDの映像特典のインタビューを見て知りました)。もちろん、この“チャンピオン”とは、ただ単に「一番強い男」というだけの意味ではなく、肉体的・精神的などあらゆる面で強い男という意味のチャンピオンなんでしょう。
と言う事は、「塀の中でもチャンピオンでいられた男=スナイプス」と「ただ強いというだけのチャンピオンだった男=レイムズ」の戦いという内容の映画なわけですね。
そうなると、アイスマンというキャラクターは、要するに「ただの悪役」なわけです。どうやら私は、アイスマンのキャラクターを勘違いして見ていたようです。確かに、2人の対決の前に、実況役の囚人が「まさに善と悪の戦いだ!」みたいな事を言ってましたね。う〜む、これだと、ちょっと単純な内容の映画なような気もしてきますねぇ。