死霊のえじき
<DAY OF THE DEAD>
85年 アメリカ映画 102分

監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
特殊メイク:トム・サビーニ
音楽:ジョン・ハリソン
出演:ロリ・カーディル(サラ)
   テリー・アレクサンダー(ジョン)
   ジョセフ・ピラトー(ローズ大尉)
   リチャード・リバティ(ドクター・ローガン)
   アントン・ディレオ(ミゲル)
   ハワード・シャーマン(バブ)
   ジャーラス・コンロイ(マクダーモット)
   ゲイリー・ハワード・クラー(スティール)
   ラルフ・マレロ(リックルズ)
   ジョン・アンプラス(フィッシャー)

(あらすじ)
もはや地上はゾンビで溢れ返り、生きている人間は極僅かという状況。
科学者と軍人数名が、ある巨大な地下基地で生活をしていた。だが、軍人達は傲慢な態度で科学者達を支配しようとし、科学者は「ゾンビを飼いならす」という気味の悪い実験をしていた。

(感想)
ジョージ・A・ロメロのゾンビトリロジーの最終作です(と思っていたら、後に4作目が誕生する事となりました)。本来は最終作に相応しい、スケールのデカイ、まさに最強のゾンビ映画になるはずだったんですが、予定が狂って資金を集める事が出来なくなり、こんなこじんまりとした映画になってしまったらしいです。
確かに、あの『ゾンビ』の続編としてはちょっと寂しいかもしれないですが、ホラー映画、ゾンビ映画としては相当に良く出来た映画です。

前作の『ゾンビ』が、社会派的なテーマが盛り込まれていたり、見る人によって色んな事を読み取れたりする寓話的な面があったりしましたが、今作はかなり単純な作りですね。もう、“過剰なグロ”という見たままの恐怖と、終末世界の雰囲気を見せるのがメインといった感じで。
ゾンビ映画界ではロメロの『ゾンビ』とフルチの『サンゲリア』が人気を二分してますが、『えじき』はどちらかと言うと『サンゲリア』系の、グロメインの映画なんですよね。演出の違いか、『えじき』の方が高尚な感じがしますけど(笑)。

映画の舞台は地下基地ほぼ限定で、その中で一癖も二癖もある連中のイザコザが描かれていく事となります。
軍人グループと科学者&民間人グループに分かれているんですが、この軍人グループの連中はちょっとイッてしまってます。何か、現実を受け入れるのが怖くて虚勢を張ってるような感じでもありますね。
また、リーダー格のローズ大尉は、もはや顔を見ただけでムカつくような、とってもイヤな奴です。こいつは多分、今の状況が原因で精神が歪んだというだけでなく、もともとこういう人間だったんだと思います。何しろ、私は実際、こいつと似た思考&行動パターンの人間を過去に見た事がありますからね(笑)。アホが狂ったら、そりゃ、こんな手に負えない人間にもなるでしょう。
狂ったと言っても、涎を垂らしながら銃を振り回すというタイプの狂い方ではなく、“理性が欠けた”というサイコ殺人犯的な狂い方というのが厄介ですね。一見すると普通の人にしか見えない分、もしかしたら話が通じるかもしれないと思えてしまえるという辺り、むしろ危険度はゾンビよりも高そうです。

一方、科学者グループはほとんどが普通の人なんですが、一人、“フランケン”とあだ名される老科学者は「ゾンビを飼いならす」というとんでもない実験を行っています。
さらに、この科学者の実験室には、実験途中のゾンビが鎖に繋がれていたりベッドに寝かされていたりするんですが、これがまた、内臓丸出しだったり、脳髄丸出しだったりととんでもない有様になっています。この科学者は、現在のゾンビがはびこる世界になっておかしくなったのか、もともとマッド・サイエンティスト気質だったのか不明ですが、何とも不気味な存在です。
ですが、主人公であるところのサラ達にとっては敵という立場ではありません。実験の理由も、ゾンビの生態を理解する事から、生存の糸口を探そうという建設的なものです。気持ち悪いですが、この異常な世界で生き残る為にはこういう人の助けも必要になってくるんでしょうね。
本来なら、救いの無い暗く地味なストーリーになったところ、この科学者のせいで「気持ち悪さ」が加わる事となりました。まさにナイス・ワークです(笑)。
こいつは“バブ”と呼ばれる一体のゾンビを見事飼い慣らす事に成功し、眠っていた知性を少し引き出します。バブはカセットテープの操作を覚え、生きている時は軍人だった事への名残から敬礼をしてみせたり、挙句には銃を撃つ事すら出来るようになります。
そして、バブがこういった事を習得していく度に、博士はエサを与えてバブを喜ばせてやるのですが、そのエサは当然、ゾンビの大好物、“人肉”です。いやぁ、まさに悪趣味ですな。そもそも、死人を飼い慣らすという行動自体、相当に悪趣味です。
そんな悪趣味全開な、このマッド・サイエンティストとゾンビの関係ですが、見ているうちに何となく微笑ましい気にもなってくるんですよね。そして、これからどうなっていくんだろうという興味が沸いてきます。


最終的に、この地下基地のギリギリ保たれていた秩序は崩壊し、ある男の暴走でゾンビの大群が基地に侵入してくる事となります。
そして待ちに待ったゾンビ軍団の進撃&阿鼻叫喚の地獄絵図が始まるわけです。
これまで、散々ムカつく言動を繰り返し、見てる人の怒りを一身に買っていた(と思われる)ローズ大尉も相応の最期が与えられます。ローズだけでなく、他のイヤな軍人達も、それはもう、まともな精神の人なら正視に耐えないような残酷極まりない最期を迎えまくります。
ここで繰り広げられる、トム・サビーニの芸術的特殊メイク技術による壮絶グログロスプラッターシーンはまさにホラー映画史に残る名シーンですね。
例えば、軍人の一人がゾンビに捕まり、地面に仰向けに倒され、悲鳴をあげながら足をバタバタさせる場面があるんですが、この男の首が引きちぎられる様を1カットで映してるんですよね。足はバタバタしたままですし、首は引きちぎられながらも断末魔の悲鳴を上げ続けているんです。いやぁ、これは最初に見た時は驚きましたね。多分、首から上は作り物の顔なんでしょうね。で、口の動きに合わせて悲鳴が入れられてると。でも、パッと見は作り物には見えないんですよね。
そこまでのリアルさがあるんですが、実際に人間の首を引きちぎってもこうはならないだろうなとも思えるような、フェイクっぽい雰囲気もしっかりあるところがいいんですよね。別に、ホラー映画ファンは本物の人間の死を見たいわけじゃないですからね(中にはそういう人もいるかもしれませんが)。いくらリアルでも、どこかで「作り物っぽい」ところが感じられた方が安心して見てれられます。
あと、『サンゲリア』などのイタリア映画や『新ゾンビ』のようなドイツ映画で見られるグログロシーンと比べて変な下品さが無いような気がするんですよね。なんででしょう。技術的な面に関する驚きがあるせいでしょうか。『サンゲリア』の特殊メイクも凄いですが、“気持ち悪い”とは思っても、“技術面への驚き”は無いですからね。

あと、このクライマックスにおける、バブの活躍シーンも見逃せない点です。
結果として、博士の仇を討った形になるんですが、てっきり、私は博士の方がバブに殺されて、「死んだ人間を教育して飼おうとする、おこがましい事はやってはいけない」的なメッセージを見せてくるのかと思ってたんですが、「悪漢を撃った後、敬礼!」という行動をしたりと、何だか、“正義のヒーロー、ゾンビマン”といった感じになってましたね(笑)。でも、博士を失い、自由の身となったバブはこれからどう生きていく、いや、死んでいく?んでしょうかねぇ。他の一般ゾンビと仲良くやっていけるんでしょうか。

さて、この終盤のゾンビ襲撃シーン。その迫力の凄さは、全ゾンビ映画の中でも一、二を争うほどだと思います。もちろん、トム・サビーニの力によるところも大きいと思いますが、やっぱりロメロの演出力があってこそです。具体的にどこが凄いのかよく分からないんですけどね。多分、全体的に凄いんでしょう(笑)。
ただ地下基地にゾンビの大群が現れて、ほんの数人が殺されるだけという場面だというのに、何か人類の終焉を見ているかのような錯覚を抱いてしまうぐらいの、何とも言えない絶望感があるんです。
で、エンドクレジットの曲がまたイイんですよねぇ。この映画の締めにこれほどまでに相応しい曲は他に無いでしょう。人類の終焉と、かすかな希望のようなもの。そういった、この映画のラストを見て抱いた感情を全て表現しているかのような名曲です。
黙示録後の世界を描いた映画は数あれど、終末世界の雰囲気をここまで見事に出した映画もそんなに無いんじゃないだろうかと思うぐらいですね。