デス・フロント
<DEATHWATCH>
02年 イギリス映画 95分

監督・脚本:マイケル・J・バセット
出演:ジェイミー・ベル(チャーリー・シェイクスピア)
   ヒューゴ・スピアー(テイト軍曹)
   マシュー・リス(ドク・フェアウェザー)
   アンディ・サーキス(トーマス・クイン)
   ローレンス・フォックス(ジェニングス中尉)
   ディーン・レノックス・ケリー(ウィリー・マクネス)
   ヒュー・オコナー(アンソニー・ブラッドフォード)
   ハンス・マシソン(ジャック・ホークストン)
   クリス・マーシャル(バリー・スタリンスキー)
   ルーアリー・コンロイ(コリン・シバス)

(あらすじ)
1917年の西部戦線。ドイツ軍の攻撃を潜り抜けながら行軍を続けるイギリス軍Y中隊は、ドイツ軍の塹壕に辿り着いた。だが、迷路のようなその塹壕の中には泥にまみれた無数の死体が転がっていた。
生き残っていたドイツ兵一人を捕虜にして拘束し、話を聞いてみると、「ここには何か邪悪なものがいて、みんなで殺しあう事になる」と訳の分からない事を怯えながら言い出すのだった。

Y中隊は塹壕を占拠し、援軍が来るまでここで待つ事にした。だが、隊員の一人が鉄条網に体を巻かれて死亡する事件が起こる。さらに、実際には何も起こってないのに戦闘の音が辺り一帯に鳴り響き、驚いた隊長が部下を誤射してしまったり、恐怖にかられて逃げ出した仲間を、別の仲間が撃ち殺したりと、ドイツ兵捕虜の言った通り、本当に殺し合いが始まってしまったのだ。
いったい、この塹壕で何が起こっているのだろうか・・・。

(感想)
前線の兵士達が得体の知れないものに襲われるという、変わった舞台設定のホラーです。
一見、戦場の狂気によって狂っていく兵士達を描いているようにも見えるんですが(主演のジェイミー・ベルはインタビューでそんなような事を言ってました)、兵士達がおかしくなっていくのは、明らかに人知を超えた、邪悪な何かが原因です。
まず、以前、この塹壕にいたドイツ兵達もここでほぼ全滅しています。Y中隊が到着した際、3人のドイツ兵が塹壕の奥の方に向かって銃を構えているという状況だったのですが、そこに敵兵であるY中隊が現われた際にも、どちらかと言うと、塹壕の向こうの“何か”をより警戒してるような雰囲気でした。

この塹壕には、兵士達を精神的に苦しめるだけでなく、有刺鉄線を飛ばして来たり、地面の中に引きずりこんだりする“何か”がいます。
見てる人には、この塹壕に何かがいて、この場所がとっても危険な場所であることが分かるんですが、困った事に、塹壕にいるY中隊の面々には、「いかに自分達が危険な状況にいるのか」がまるで分かってないんですよね。もう、兵士達に「早く逃げろ!」と教えてあげたくてしょうがなかったです。ちょっとした「志村後ろ!」状態ですね。
映画が進むうちに、数人は「何かがおかしい」という事に気付き始めていくんですが、そのペースが見ててイライラするぐらいに遅いです。イライラと言うよりも、見ててヤキモキするという感じですかね。
そもそも、塹壕にいる何かも、人を襲うペースが遅いです。普通のホラーでよく見る、恐怖が「バッ!」と来て「わっ!」と驚くようなタイプではなく、恐怖がジワジワと染み出してくるような感じの演出になってるんですよね。
監督がインタビューで言ってましたが、『ヘルハウス』や『たたり』のような、幽霊屋敷物の映画みたいな雰囲気なんです。

また、この塹壕の中が、泥まみれの死体が転がってるわ、ねずみがうろついてるわと、邪悪なものがいなくても、気が滅入っておかしくなりそうな嫌な場所なんです。映像的にも汚い事この上無いぐらいです。
そんな中で、見ていて名前と顔の一致しない人々が(みんな同じ顔に見えるもので・・・)徐々におかしくなっていく姿は、もう見ていて嫌〜な気分になってきますねぇ。


終盤になると、兵士達の死ぬペースが格段に上がっていきます。その兵士達の死に様には、仲間に普通に頭を撃ち抜かれるだけでなく、例の有刺鉄線に体を貫かれる奴とか足をねずみに食われる奴とかが出てきたりと、ちょっとしたグロシーンも出してきます。
そんな、ホラーならではなサービスショットを出してきますが、この塹壕には何があるのか、兵士を襲っているのは結局何なのか。その正体は最後まで明かされなかったりします。そこまではサービスしてくれなかったようです。
正体のヒントのようなものはラストショットに出てきましたが、何だか、意味が分かったような分からなかったような・・・。

ちなみに、Y中隊の中には、スメアゴルことアンディ・サーキスが紛れてるんですが、コイツがまた、塹壕の何かで狂わされる前から狂ってるという、実に愉快なキャラでした。







(※以下、ネタバレ有り)
Y中隊9人の中で、なぜジェイミー・ベル演じるチャーリー一人だけが生き残れたのか。それが疑問だったんですが、ラストショットを見て納得が行きました。
全て、あのドイツ兵捕虜が巻き起こした現象だった、という事なんでしょうね。きっと、正体は人間ではなく、悪魔の化身か何かだったんでしょう。信仰心を持ってた隊員が、ゴラム、ではなくて、クインのような人殺しになったのも、なまじ、中途半端に信仰心を持っていた為に目を付けられたという事なのかもしれないですね。
そして、この塹壕は、一度入ったら出られない、言わば蟻地獄みたいな存在なんでしょうね(チャーリーだけは脱出に成功しましたが)。
果たして、Y中隊が来る直前に全滅しかかってたドイツ兵達は、この蟻地獄塹壕の最初の犠牲者達だったんでしょうかね。そもそも、この塹壕はドイツ軍が掘ったものなのか、悪魔の化身が兵士達をおびき寄せる為にこしらえたのか・・・。
で、こういった謎に明確な回答を出さなかったのが良かったですね。見終わった後にもゾッとするような恐怖が残りますからね。皆さんも、怪しい塹壕を見つけても迂闊に入らないように気をつけましょう。もし入ってしまったのなら、捕虜には優しく接してあげましょう(笑)。