デモンズ
<DEMONS>
85年 イタリア映画 89分

監督・脚本:ランベルト・バーバ
製作・脚本:ダリオ・アルジェント
音楽:クラウディオ・シモネッティ
出演:ナターシャ・ホーベイ(ジョージ)
   ウルバノ・バルベリーニ(シェリー)
   カール・ジニー(ケン)
   フィオーレ・アルジェント(ハンナ)
   パオロ・コッツォ(キャシー)
   ニコレッタ・エルミ(イングリッド)
   ファオビラ・トレド(カーメン)
   ステリオ・カンデッリ(フランク)

(あらすじ)
町で謎の仮面の男から映画の招待状を渡されたシェリーは、友人のキャシーを誘って映画館に行ってみた。
映画館で出会ったハンサム・ボーイズと映画を見始めるが、始まったのは「若者達が謎の遺跡を探検する」という内容のホラー映画だった。
劇中、若者の一人が謎の仮面を被ってみたところ、仮面の裏に付いていたトゲで傷を負ってしまった。そして、その傷が原因で、化け物“デモンズ”に変身してしまい、仲間を襲い始める。
一方、映画館のロビーに飾ってあった謎の仮面を被り、同様に傷を負った女性も、映画の登場人物と同様、デモンズ化してしまった。映画と同時進行で、現実でも惨劇が始まったのだ!
いつの間にか映画館の出口は塞がれ、逃げる事も出来ない。果たしてシェリー達は生きて劇場を出る事が出来るのか!?

(感想)
まるでゾンビのような性質を持ったモンスター、デモンズが大暴れするアクション・ホラーの傑作です。
このデモンズとは、ゾンビと違って人を食ったりしません。一応、生者への攻撃は、鋭い爪と牙で切り裂くだけで終わりです。運が良ければ殺される事は無いんですが、残念ながらデモンズの攻撃には伝染性があり、ちょっとでも傷つけられるとデモンズの仲間になってしまうんです。
また、特殊メイクも結構凝ったもので、“死人”よりも“怪人”といった感じの外見になります。さらに、爪や歯が生え変わる変身シーンは、まるで狼男の変身を見てるみたいです。
その動きもゾンビと違い、かなり激しいものです。走るのはもちろん、中にはワイヤーワークかと思うぐらいの大ジャンプを見せてる奴もいるぐらいです。
そして、「悪魔の声」と形容するのが相応しいような、恐ろしい唸り声。
このように、一見ゾンビの亜流みたいな奴らですが、その凶暴さから外見の醜悪さ、驚異の伝染性まで、かなりキャラクターの立ったモンスターと言えると思いますね。

まず、こんな奴らが襲ってくる映画というだけでほぼ成功したようなものですが、さらにこの映画は序盤のストーリーと舞台も凝ってます。
序盤は、あらすじに書いたように「映画館で上映されてる映画と、現実の出来事がシンクロしている」という展開になってます。
そして、映画の舞台はこの映画館のみ。ホラー版『ダイハード』状態ですね。舞台を限定している事で、面白さもサスペンス度も恐怖度もかなり増しています。
序盤からの盛り上げ方がしっかりしているので、映画の世界にかなり入り込み易く、見ながら、まるで自分がこの映画館の中で登場人物と一緒に逃げてるような雰囲気になってきます。そして、「自分ならこういう行動をするな」と想像をしながら見る事が出来ます。で、劇中には、その想像とだいたい同じような行動をとってくれるキャラがいたりするんで、映画への集中度はさらにアップです。
主人公他、数人の人達が映画館に閉じ込められてるわけですが、「人々がこういう状況でどう行動するか」という、集団の行動心理的なものは結構リアルに描写されてたんじゃないかと思います。
見るからにヤクザな黒人がリーダーシップを執り始めるんですが、みんな、特に文句も言わずに従っていきます。だいたい、普通の人にとって、意を唱える余裕すらない状況なんですよね。
その後の、せっかく築いたバリケードを、外から聞こえた音が誰かが救助に来た音だと勘違いして自分達で崩してしまう辺りも、「脚本がおかしい」とかじゃなくて、あの状況での集団心理的には筋が通ってるように思えます。いわゆる、“パニック”ですよね。

また、怖がらせ方の演出も結構手が込んでましたね。まず、デモンズの攻撃を受けた人は、その鋭い爪で肉をざっくり抉られます。その様子を特殊メイクでしっかり見せてきて、見た目の痛々しさもかなりのものです。ここで「デモンズに襲われるとこうなる」というのをしっかり見せているので、デモンズの襲撃シーンに怖さが感じられるんですよね。
このように、デモンズが恐ろしい存在だというのをきちんと描写しているので、今まで普通の人間だったのがいきなりデモンズ化して襲ってくるという場面の驚きと恐怖が増して感じられます。
さらに、通気ダクトから脱出しようとするカップルの末路とか、見た目の気持ち悪さだけではない、サスペンス的な怖さもしっかり演出されてるところが素晴らしいです。実はこのシーン、この映画を初めて見た時は、あまりに怖くて早送りしながら見てしまいました(笑)。いやぁ、まだホラー映画に慣れてない時期だったもので・・・。あの当時に見たこの映画は、ほんと怖かったですからね。

映像も素晴らしく、後光の中で登場するデモンズ軍団の場面は神秘的ですらありました。音楽も最高で、冒頭とラストで流れる、ゴブリンのメンバーである(当時)クラウディオ・シモネッティによる熱くてカッコいいテーマ曲はもちろん、劇中で流れるヘヴィ・メタルな楽曲は確実にデモンズ軍団とのバトルを盛り上げる役目を果たしていましたね。

このように、ホラー映画としてほぼ完璧と言っていい出来の映画なんですが、これだけではありません。アクションの要素も終盤になって出て来るんです。
登場人物の一人、ジョージが、親友の死をきっかけに突如としてアクションヒーロー化するんです。何故かロビーに飾られていた刀を手にとって、何故かロビーに飾られていたバイクに跨り、映画館内を爆走。デモンズ軍団を斬って斬って斬りまくります。多分、何かが降臨しちゃったんでしょうね。
対するデモンズ軍団も負けていなく、走り去るバイクの背後で意味も無く大ジャンプして飛び交ったりしてました。それも、間違いなくジャンプ台を使用していると思われる特大ジャンプです(笑)。
ちなみに、このバトルシーンの最中に出て来るデモンズ軍団の中に、一体だけ着ぐるみが混じってるんですが、こいつがほんの数分前、満を持して登場した「アキロンの大王」なんです。劇中劇でも触れられていた存在で、こいつが復活するとそれは大変な事になるんだろうと思わせていたんですが、登場したと思ったらジョージの親友を引っかいただけで、そのまま逃げ去ってしまいました。
映像の暗いビデオ版では、ここにアキロンの大王がいる事に気付かなかったんで、コイツの事を「ただのハッタリ野郎か!」と思っていたものでしたが、鮮明になったDVD版を見てようやく、この場に、一般デモンズに混じってアクションヒーロー化したジョージと戦ってた事に気付けました。
でも、結局、一般デモンズと同様、普通に斬り捨てられてましたけどね(笑)。やっぱりハッタリ野郎に変わりはありませんでした。

さて。この一大アクションシーンが終わると、「これで締めだ!」とばかりに、突如として劇場にヘリコプターが降ってきます。いや、冗談で書いてるわけじゃないですよ。何しろ、生き残ったジョージ達はヘリの落ちてきた穴から脱出する事になるんですからね。
なんでも、このヘリコプターは、『ゾンビ』のラストで生き残ったピーターとフランが乗り去って行ったヘリだという説があるそうですね。モールから飛び立ったものの、燃料が切れてこの劇場に墜落したと。でも、登場時には死亡していたヘリのパイロット2名は、顔は損壊していましたが、黒人にも女にも見えなかったんですけどね。なんでこんな説が出てきたんでしょう。

この映画、ホラー映画ファンの間ではあまり評価が高く無いらしいんですが、私にとっては名作ホラーの一本ですね。多分、私がホラーやゾンビ映画だけでなく、アクション映画好き(B級含む)という面があるから、この映画に惹かれるものを感じられるのかもしれません。