さまよう魂たち
<THE FRIGHTENERS>
96年 アメリカ映画 110分

監督・脚本・製作:ピーター・ジャクソン
製作総指揮:ロバート・ゼメキス
脚本:フラン・ウォルシュ
音楽:ダニー・エルフマン
出演:マイケル・J・フォックス(フランク・バニスター)
   トリニ・アルヴァラード(ルーシー)
   ジェフリー・コムズ(ミルトン捜査官)
   ピーター・ドブソン(レイ)
   ジョン・アスティン(判事)
   ディー・ウォレス・ストーン(パトリシア・ブラッドレイ)
   ジェイク・ビジー(ジョニー・バートレット)
   チ・マクブイド(サイラス)
   ジム・ファイフェ(スチュアート)
   トロイ・エヴァンス(ペリー保安官)
   ジュリアナ・マッカーシー(ブラッドレイ夫人)
   R.リー・アーメイ(ゴースト保安官)

(あらすじ)
交通事故が原因で幽霊を見れる特殊能力を得たフランク・バニスターは、その能力を得て作った幽霊の友人達と共に“イカサマ霊媒”の仕事をしていた。

ある日、仕事で入った家の住人の額に数字が浮き出ているのにフランクは気付いた。もちろん、他の人には見えないのにフランクには見えるという、霊的な力で浮き出ている数字である。そして、フランクが額の数字を見た人は、後に必ず謎の死を遂げるのだ。
町ではこのところ、連続突然死事件が相次いで起こっていたが、この数字と関係があるのだろうか?
そんな折、フランクは額に数字を浮かび上がらせた人が、死神のような姿の謎の存在によって殺害されている現場を目撃してしまう。唯一人、この連続突然死事件の真相を知ったフランクは、死神の後を追い、何とかしてやろうとする。

一方、死神によって謎の死を遂げた人の近辺に必ずフランクがいた事から、警察はフランクが何か関わっているのではと考える。さらに、オカルト事件に詳しい、怪しげなFBI捜査官もやってきて、フランクを追うのだった。

(感想)
あの『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督&フラン・ウォルシュ脚本!ロバート・ゼメキス製作総指揮!音楽担当ダニー・エルフマン!WETAのCG!そして、マイケル・J主演!!さらにジェフリー・コムズ共演!
と揃った、まさに一分の隙も無い、完璧な布陣の映画ですね。そしてその内容も素晴らしいときているのに、なぜか世間から無視されてるような立場にいる映画でもあります。何故なんでしょう?やっぱり、ヒットしなかったせいで誰もこの映画の存在自体を知らないんでしょうか。

主演のマイケル・Jですが、例の病気(パーキンソン病)の為、この映画が最後の主演作となってしまいましたね。でも、ヒットはしなかったですが、ここまで上質の映画がトリというのは、まさに不幸中の幸いでしょうか。
この撮影当時はすでに病気もかなり進行していた頃だと思うんですが、見てて「動くのがやっと」なんて印象が無いんですよね。むしろ、かなり身軽です。序盤の方では「車に轢かれそうになるがボンネットに飛び乗って回避」なんてシーンをノースタントで演じてましたし。
本来なら、コメディ映画で力を発揮する人ですが、こういったVFXホラーでも存在感を存分に発揮していましたね。
一方、怪しいFBI捜査官役のジェフリー・コムズは完全に笑いをとりにきてるキャラでしたね。もう、コムズ演じるミルトン捜査官、あまりに怪しすぎです。こういう悪趣味なキャラが堂々と出てきてる所もまたこの映画の魅力の一つでしょうかね(“痔”を患ってるなんて、とても必要とは思えない設定を持ってたりしますし・笑)。

マイケルJ演じる主人公のフランクは、『シックス・センス』のコール少年のように幽霊を見る事が出来る能力を持っています。しかも、見るだけではなく、コミュニケーションをとる事も可能で、幽霊の友人なんてのもいたりします。で、その霊友にポルターガイスト風の騒動を起こさせ、その被害に遭った人に除霊と称して金を取るという霊媒詐欺を働いていたりと、序盤はホラーコメディのような展開を見せます。
と言うか、宣伝を見る限りは全般ホラーコメディ調の映画だと思ってました。何しろ公開時は、マイケル・J+ロバート・ゼメキスという『バック・トゥ・ザ・フューチャー』コンビの映画というのを全面に出した宣伝でしたからね。 監督のピーター・ジャクソンも、この時は基本的にはホラー系の監督でしたが、『バッド・テイスト』にしろ『ブレイン・デッド』にしろ、コメディ調のホラーを撮ってた人でしたしね。まあ、私がこの映画を見た時はまだ他の監督作を見てない頃でしたけど。それでも、あのマイケル・Jが主演なら、ホラーといえどそんな怖い映画にはなってないだろうと思っていました。
ですが、この『さまよう〜』がコメディ調なのは序盤だけだったんです。フランクが、一連の連続突然死事件の犯人である死神の姿を見た辺りから、この死神が敵として襲ってくる事となります。もちろん、おふざけ無しで襲って来て、友達の幽霊もこいつの鎌で切り殺されてしまいます(もともと死んでる人達ですが)。
で、後半はこの死神との対決というストーリー展開になっていくのかと思いきや、死神の正体は中盤辺りであっさり割れ、後半はまた違った展開を見せていくんです。
この捻った、先の読めないストーリー展開にはほんと驚かされましたね。最初にこの映画を見た時は、このあまりのストーリーの面白さに度肝を抜かれたものでした。
さらに、ここも重要な点ですが、終盤の展開が滅茶苦茶怖いんです。終盤に行くまでに、前半の笑いの要素はほとんど顔を見せなくなってはいたんですが、中盤過ぎ頃までは“怖い”と言うよりは“シリアス”といった感じのストーリー展開でした。
先にも書いたように、マイケル・J主演作でガチな恐怖シーンが出てくるなんて想像もしてなかったんで、初見時はほんとビビらさせてもらいましたねぇ。てっきり、超常ホラーなのかと思ったら、一気にサイコホラーになりましたからね。あと、この終盤のロケーションもいい具合の不気味さがあって良かったです。

この、まるで途中からジャンルが変わったかのような展開を見せる所といい、とにかく映画全編を通して、ストーリーの先が読めない所が面白いんですよね。初見時は「この後はこういう展開になっていくんだろう」という読みを何回か気持ちよく外されたものでした。そして、その予想外の展開の方が、予想していた展開よりも確実に面白そうだと思えるのが凄いです。
中でも一番感心したのが、霊体になったフランクが死神の正体を暴き、コイツをもう一歩で倒せる!という所まで追い詰めたシーンです。止めの鎌を振りかぶった所、何か「ドンっ!」となって、劇中のフランク同様、見てるこちらも「ん、何だ今の?」と不思議に思った次の瞬間あれですからね。もう「あああっ!」と叫びそうになってしまいましたよ。
終盤の急展開の場面なんかは、どういう展開になるか分かってる2度目以降の鑑賞だとインパクトが落ちる感じですが、ここの「もうこれで絶対決着が付くに違いない」と思わせておいて一気に外してくる演出は見る度に唸らされます。