監督・脚本:ザヴィエ・ジャン
出演:カリーナ・テスタ(ヤスミン)
オレリアン・ウィイク(アレックス)
シェムズ・ダマニ(ファリッド)
ダビド・サラシーノ(トム)
アデル・ベンチェリフ(サミ)
サミュエル・ル・ビアン(ゲッツ)
パトリック・リガルデ(カール)
エステル・ルフェビュール(ジルベルト)
アメリ・ドール(クローディア)
ジョエル・フランソワ(ハンス)
モード・フォルジェ(エヴァ)
ジャン=ピエール・ジョリス(フォン・ガイスラー)
ロジーヌ・ファヴェ(トラチェオ老婆)
(感想)
フランス版『悪魔のいけにえ』といった内容の映画で、旅の途中の若者達が狂人一家に襲われる事となります。
で、さすがフランスと言うのか、この若者達の設定が、ただのアホな旅行者というものではなく、「大統領選挙に絡んで、国内で暴動が発生し、それから逃れる為に他国に向かっている途中」というものなんですよね。
いやぁ、さすが芸術の国だけあって、残酷ホラーの登場人物の背景一つとっても知的さが感じられるじゃないですか。アメリカ映画だったらこんな設定、まず出てこないでしょうね。
とは言うものの、この設定の変化によって、アメリカ製の残酷ホラーと何か違うのかと言うと、冒頭の展開が違うだけで、後は一緒なんですよね。
ただ、設定云々は関係無く、この映画、展開が相当厳しいです。若者達に降りかかる恐怖は勿論、見てる観客が感じる恐怖や不快感もかなり激しくって、数多ある『悪魔のいけにえ』系映画の中でも、最高級の恐ろしさがあるんじゃないかと思います。その本気度は、元祖のリメイク『テキサス・チェーンソー』シリーズ以上でしたね。
実の所、残酷シーンが凄いとか、スプラッターシーンが凄い、という事は無いんです。確かに、気持ち悪いシーンや痛々しいシーンは出てきますけど、最近のグロブームの中にあっては普通程度のものです。
では、この映画の何が凄いのかと言うと、「絶望感」でしょうかね。この映画の狂人一家には、レザーフェイスのようなスター殺人鬼がいないんですけど、その代わり、全員が満遍なく異常なんです。テキサス一家は、レザーフェイスさえ倒せればなんとかなりそうな印象がありましたけど、こちらは全員一時に倒さない限り生きて脱出出来なさそうな、隙の無い結束力があるんですよね。
しかも当然、家族全員、人殺しに一瞬でも躊躇いを見せるような良心は持ち合わせていません。命乞い不可です。
そういった状況の中、若者達はなんとか反撃しようとか逃げ出そうとか試みるんですけど、ここで「あれ、なんとかいけそうかな?」と一瞬思わせる状況をわざと見せてくるんですよね。でも、「やっぱりダメだった!」という方向に話は進むんで、その度に希望を絶たれたような気分になるんです。
最終的には、この映画のお約束通り、ヒロイン一人だけが残るんですけど、ここからヒロインを待ち受ける運命もかなり過酷なんですよね。この狂人一家の一員として迎え、子供を産み、育てさせようとするんです。この狂人一家の子孫繁栄の為にですね。正直、殺されるよりも性質が悪いですよ。
当然、残りの一生をこんな所で過ごす運命なんてのはまっぴら御免なので、ヒロインは死に物狂いの反撃と逃走を始めるわけですが、ここからのテンションの高さは凄かったですね。「これぞ、生きるか死ぬかの戦いだ」と思うような、肉弾&血みどろスプラッターが繰り広げられるんです。
また、ヒロインはこういう状況でも、一部の映画で見られるような「マッチョ化」をしないんです。基本的にはか弱い女性のまま、生き残る為に死に物狂いで戦って、ギリギリの所を切り抜けていくみたいな感じになるんですよね。
このクライマックスの極限っぷりはほんと凄かったです。『悪魔のいけにえ』系の映画で、クライマックスにあの映画と同等の極限状態を持ってこれた映画なんて、ほとんど無いんじゃないかと思いますね。お陰で、見終わった後はかなり疲れて、グッタリしてしまいましたよ。これ、映画館で見たら、もうしばらく立てないぐらいの衝撃と疲労を感じたかもしれません。劇場公開時は、都合がつかなくて見に行かなかったんですけど、これを見逃したというのはちょっと悔しいですねぇ。
ちなみに。この手の殺人鬼一家は、結構、ブタを飼ってる事が多いんですけど、この映画の一家も例に漏れず、建物内にてしっかり黒豚を飼育してるんです(飼われてるのが“黒豚”というのは珍しいかも)。
この飼われてる区画というのが、とっ捕まえた犠牲者を閉じ込めたり、逆さにして血抜きをしたりするのと同じ所にありまして。本来、登場人物が恐怖を感じるべきシーンにおいて、背景で「ブヒブヒ!」とか鳴き声が聞こえてくるものだから、見てて思わずニンマリしてしまいましたよ。
しかも、ヒロインとその彼氏が牢屋に入れられるというシーンにおいて、何故かその牢屋というのが、ブタが入れられてる部屋の奥に位置していて、その牢に行くのに、一旦ブタの部屋に入って、ブタをかき分けて牢まで行くという形になってるんです。
で、地面が柔らかい土と泥になってるという事で、ヒロインが鉄格子の扉の下の泥を掘って逃げ出そうとするという場面があるんですけど、その、泥を掘っている時、その行動に興味を惹かれたブタちゃん達がワラワラと寄ってきて、ブーブー言いながら泥堀りをしているヒロインを遠巻きに眺めるという場面なんてのが出てくるんです。
いやぁ、このブタちゃん達がもう可愛らしくてしょうがなかったですねぇ。この泥というのも、多分、糞尿とかが混じってそうな雰囲気のものでして、美人のヒロインが糞尿交じりの泥水にまみれながら必死に逃げ出そうとするという壮絶な場面なのにも関わらず、もう、ニッコニコしながら見てましたね。
ホラー映画としても大変よく出来てましたけど、さらにブタちゃんまで出てくるんですから、もう、私にとってはたまらない映画でした。ほんと、映画館で見たかったです。