ヒルズ・ハブ・アイズ
<THE HILLS HAVE EYES>
06年 アメリカ映画 107分

監督・脚本:アレクサンドル・アジャ
製作・オリジナル脚本:ウェス・クレイヴン
出演:アーロン・スタンフォード(ダグ・ブコウスキー)
   ダン・バード(ボビー・カーター)
   エミリー・デ・レイヴィン(ブレンダ・カーター)
   ヴィネッサ・ショウ(リン・カーター・ブコウスキー)
   キャスリーン・クインラン(エセル・カーター)
   テッド・レビン(“ビッグ・ボブ”・カーター)
   ロバート・ジョイ(リザード)
   トム・バウアー(ガソリンスタンドのオヤジ)
   ビリー・ドラゴ(パパ・ジュピター)
   デズモンド・アスキュー(ビッグ・ブライアン)
   エズラ・バジントン(ゴーグル)
   マイケル・ベイリー・スミス(プルート)
   ラウラ・オルティス(ルビー)

(ストーリー)
車で荒野を移動中の一家が、途中立ち寄ったガソリンスタンドのオヤジから聞いた近道を通ってみたところ、奇形の狂人に襲撃されるハメになるのだった。

(感想)
ウェス・クレイブンの『サランドラ』をリメイクした映画ですが、そういう前情報を知らなかったら、『クライモリ』の兄弟か何かだと思ってしまったかもしれないですね。舞台を森から砂漠に変えただけで、後はほとんど同じ映画と言っても過言では無いぐらいでしたよ(そもそも、『クライモリ』が『サランドラ』を元にしたような映画だったらしいんですが)。
ですが、こと「怖さ」に関してはこっちの方が上だったかもしれません。何で似たような内容なのに、より怖く感じられたのかと言うと、狂人に襲われる人々が、“若者軍団”という、殺されても胸が痛まないような連中ではなく、ごく普通の家族だというのが理由でした。
多少は問題を抱えているものの、基本的には平和で、これからもそれなりに幸せに暮らしていけそうだなというのが感じられる、等身大な雰囲気のある一家なので、見てて「どうにか、全員助かって欲しい」と思わず願ってしまいます。

と、主人公側への感情移入の度合いが他のこの手の映画に比べて高かった為に、狂人の襲撃シーンが余計に恐ろしく感じられた、というのが一番の理由だと思いますが、それ以外にも、基本である“恐怖演出”というのも割としっかりしていました。狂人襲撃前の前半の部分でも、「何か起こりそうな、不安な気配の漂うシーン」というのを、定期的に出してきていて緊張感を高めてきてくれましたし、時々挿入されるビックリ演出も、予想外の所で出てくる場合が多いんで、本気でビックリしてしまいました。
また、スプラッターの面も逃げずにしっかり描写してきているんですが、あまりやり過ぎない程度に抑えてあるんで、リアリティが損なわれていないんですよね(ただ、一部の残酷シーンがカットされてるバージョンらしいんですが)。
そして、狂人達の外見が“奇形”というヤバさを持っているうえに、無慈悲さ凶暴さもかなりのものでした。「この人は生き残りそうだな」とか「この人は殺しちゃ可哀想だ」というような人々を無残にぶち殺していくんです(殺し方自体は特に凝った所とかは無いんですけどね)。
結構、見てて不快な気分になってくるぐらいの、嫌な怖さが満ちているんですが、『ホステル』みたいに、後半から「反撃モード」な展開になってくるんですよね。いいですね、こういうの。
ですが、ここで反撃に転ずる人というのが、まあ当たり前ではあるんですが、生死を懸けた戦いに慣れてないんで、所々で手際の悪さを見せたりするんですよ。で、これが見ててイライラするんですよねぇ。いや、“イライラ”と言うと悪い意味があるんで、“もどかしい”と言うべきでしょうか。
例えば、“拳銃”という貴重な武器を持っているのに無駄弾を撃ったりだとか、武闘派の狂人を殺せるチャンスが到来してるのに“逃げ”を選択して機会を棒に振ったりだとかいう場面を見てると、思わず画面に向かって「何やってんだよ!しっかりしろ!」と言いたくなってきます。それぐらい力を入れて見入ってしまうようなストーリー展開なんですよね。
で!ここで家族がペットとして飼っていたワンコの大活躍シーンなんか出てきたりして、もう拍手喝采ですよ(笑)。最初の頃、「勝手に飛び出して行方不明になる」という行動を見せてたんで、ただの馬鹿犬かと思ってたんですが、いざという時には一家の中で一番頼りになる奴でした。下手したら、ホラー映画史上、最も大活躍をした犬だったかもしれないぐらいです。
そうそう。この映画には犬だけでなく、もっと素晴らしい動物が登場していました。そう、もちろんブタさんです(笑)。
序盤で立ち寄ったガソリンスタンドで何故か子豚が一匹飼われているんですが、これは、私へのサービスとして入れられてるものだと思ってしまっていいんですよね。だって、普通あんな所で子豚なんて飼わないでしょう。
あと、後半でも、「狂人が赤ん坊を殺しに来て、赤ん坊が包まれてる毛布を剥がしたら、中には赤ちゃんじゃなくって、子豚が入っていた!」という、俗に言う「豚サプライズシーン」まで登場ですよ(『テキサス・チェーンソー』でも出てきてましたね)。ただ、この後、キレた狂人がブタを殺すんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてしまいましたが、どうやら無事に済んだようでした。

さて。この映画の狂人軍団は、何と、核実験の放射能が原因で奇形化したという設定です。これは、かなり危険な設定ですねぇ。何しろ、『ウルトラセブン』の一話を永久欠番にさせてしまうほどの危険度があるネタですからね。ただ、セブンと違って、こちらは「分別のついた大人しか見れない(レイティングの都合上)」という違いがあるせいか、封印は免れたようでした。
パっと見は、「放射能で奇形化した人=狂人」なんですけど、ちゃんと見てると、「勝手な核実験のせいでこんな外見になった為に、世間に対して怨みを持っている」というような事が感じられるんで、理由も無しに狂人になっていたテキサス一家とはまた違うタイプなんですよね。狂人の一人が「お前達のせいでこんな姿になったんだ」的な事を言うシーンには、思わずドキッとしてしまいます。
やっぱり、核は、実験にすら使ってはいけないんだなというのが改めて思い知らされる映画でした。砂漠の中に巨大なクレーターが点在しているというショットもかなり不気味でしたし、何だか、人類の過ちの一端を見たような恐ろしさがありましたね。