監督:ロッドマン・フレンダー
音楽:グレーム・レベル
出演:デヴォン・サワ(アントン)
セス・グリーン(ミック)
エルデン・ラトリフ(プナブ)
ジェシカ・アルバ(モリー)
ヴィヴィカ・A・フォックス(デビー)
(感想)
『スクリーム』のヒット以降、次々と若者向けホラーが量産されましたが、その中でも群を抜いて素晴らしい出来だった『ファイナル・デスティネーション』。この映画に主演したデヴォン・サワが、『ファイナル〜』の前に主演したのが、同じく若者向けホラーのこの映画でした。で、これもまた実に良く出来た映画なんですよね。この頃のデヴォン・サワは、まさにこのジャンルの帝王といった感じでしたねぇ(ただ、『ファイナル〜』以降姿を見なくなってしまうんですが)。
この映画は、ただ若者が殺人鬼に殺されまくるだけのホラーではなく、「悪霊に右手を支配された若者の話」という、かなり意表をついたストーリーとなっています。悪霊が絡むストーリーですが、オカルト映画の雰囲気は皆無で、代わりにコメディ色が相当に強い内容になっています。
そして、この映画のコメディセンスがまた実にいいんですよね。まず、主人公の設定からして「ただの怠け者」ですからね(笑)。まあ、ストーリーが進むにつれて行動的にはなっていきますが。
で、この映画の悪魔は、「あまりにも使われてない“手”に乗り移る」という性質を持って、主人公はほったらかしにしていた右手を乗っ取られる事となってしまいます(どうやら主人公は左利きらしい)。
この「悪魔が手に乗り移る」というのは、『悪魔のゾンビノイド』でも見た設定ですが、向こうではよく見るタイプの悪魔なんでしょうかね。日本の怨霊とかの場合は、こういうピンポイントな場所に乗り移るというのはほとんど聞かないですけどね。
そして、この主人公を演じるデヴォン・サワがいい味を出してるんです。だらしなさと、右手を乗っ取られてアップアップする様のバランスが絶妙でしたね。ただ単に、いい内容の映画を選んで出てるだけではなく、その映画を面白く見せる演技をしっかりとしているんですよね。
この、「片手が操られる」というのは『死霊のはらわた2』でお馴染みのアクションですが、あの時のブルース・キャンベルに匹敵する「片手操られ演技」はまさに圧巻でした。もう、本当に自分の意思と無関係に動いてるみたいでしたからね。
主人公は後半で右手を切り落とす事になるんですが、それ以降の、単独行動を始めた手は、デヴォン・サワではなく、専用のスタントマンが手だけを演じる事になります。で、この“手”を演じてるのが、『アダムス・ファミリー』でハンド君を演じた人なんだそうですね。まさに“手のスペシャリスト”ですよ。
また、主人公と同じく怠け者の友人二人もかなりいいキャラでした。この映画、若者向けホラー映画の中では登場人物の数がかなり少ない部類ですが、このメインの3人が強烈なキャラなので、登場人物の少なさに物足りなさを感じさせないんですよね。
それに何より、この友人二人は、割りと早い段階から「ゾンビ化」をしてしまいます。ゾンビ化といっても、ロメロタイプでもブードゥータイプでもなければ、もちろん全力で人を襲う感染者タイプでもありません。生前の記憶、能力を全て継承したままという新種のゾンビです。もちろん、人をとって食うようなマネはしません(変わりに、生前と同様、菓子やジャンクフードを好んで食します)。生前との違いは、単に「死んでるか生きてるか」の違いだけでしかありません。って言うか、普通は大違いだろ、これ。
もう、主人公の友人がゾンビというだけで笑えますが、さらに自分がゾンビである事を活かした「ゾンビギャグ」も出て来ます。片方はビンが頭に突き刺さったままで、片方は首がもげてるという姿なんですが、そのままの姿で仮装パーティに出て行ったりとかしますからね。
こんな、何でもアリな世界観の映画ですが、作りはギャグに傾いてるわけではなく、割りと真面目なんですよね。普通の、リアルな世界が前提にあって、そこから間を外して笑いをとってるような感じですかね。この点がこの映画をより面白くしている所なんじゃないかと思います。
ちなみに、この映画には『ダーク・エンジェル』で有名になる直前のジェシカ・アルバが出演しています。説明が無いと分かり辛いと思うので書き加えておきますが、『ダーク・エンジェル』と言っても、ドルフ・ラングレンが宇宙人と戦うあの映画の事ではなく、ジェームズ・キャメロンが製作総指揮で関わったテレビシリーズの方です。何しろ、ただ『ダーク・エンジェル』とだけ書いたら、普通の人は「ああ、ドルフが出てた映画か」と思ってしまいますからね。
この映画でのジェシカの役柄は、「ちょっと前まで友達でもなかった、向かいに住んでる同級生の男を部屋に入れ、尻を掴まれたのが気に入ってベッドに誘い込む」という、実に熱い人物でした。また、終盤の仮装パーティシーンでは、天使のコスプレで一人無表情で激しく踊るという技も見せていました。
も一つちなみに、前半部分で、主人公のアントンが家で飼ってるペットの犬や猫と絡むシーンがあるんですが、これがまた異様に微笑ましいシーンになってましたね。
例えば、家で血の付いた包丁を見つけて「連続殺人犯が来ているのでは!」と脅えたアントンが近くにいたペットの犬に抱きつくんですが、ここで抱きつかれた犬が見せる困ったような表情が実に可愛らしかったですね。もう、ここまで犬を可愛く撮ったホラー映画は他に無いんじゃないかと思ってしまうぐらいの犬度でした(何だ“犬度”って)。ただ、この後、犬の存在が完全に忘れ去られて全く出てこなくなってしまうのが残念なところでした。
ちなみに、猫の方は暴れる右手に捕まってしまい、豪快に窓の外に放り投げられてしまいます。その飛びっぷりはかなり見事なものでしたね(当然、飛んでるのはダミーのぬいぐるみです)。