ゾンビ・ホスピタル
<INSANITARIUM>
08年 アメリカ映画 89分

監督・脚本:ジェフ・ブーラー
出演:ジェシー・メトカーフ(ジャック)
   キエレ・サンチェス(リリー)
   ピーター・ストーメア(ジアネッティ院長)
   ケビン・サスマン(デイブ)
   エバン・パーク(チャールズ)
   オリビア・マン(ナンシー)
   カーラ・ギャロ(ヴェラ)
   アーミン・シマーマン(マーク・ホーソーン)
   リサ・アルトゥーロ(ヘザー)
   カート・カセレス(ルーミス)

(ストーリー)
精神病院に入れられた妹のリリーを心配する兄のジャックだが、面会はおろか、外からは安否すらも分からないという状態だった。
そこでジャックは、異常者のフリをして病院に入院してリリーを救出するという、“ホスピタル・ブレイク作戦”を決行する。
だが、院長ストーメアの計略により、「フリではなく、リアルな異常者」という事で院内に軟禁されてしまうのだった。

一方、ストーメア院長は謎の新薬“オーフィウム”を開発する為、患者で人体実験を繰り返していた。何の効果がある薬なのかは不明だが、「人を凶暴化&人肉嗜好にする」というデンジャラスな副作用があるのだった。

ジャックは、患者の中で唯一まともな頭を持っているデイブの協力で、リリーを助ける為の手段と道具を手に入れる事が出来た。そして3人で病院を脱走しようという時、突如オーフィウムのパンデミックが発生し、院内にゾンビ・パニックが巻き起こるのだった。

(感想)
精神病院を舞台としたゾンビ映画ですが、主人公が精神病院に入る事になった理由に、かなりの「『プリズン・ブレイク』臭」を嗅ぎ取る事が出来ますね。まさに、流行の要素をふんだんに取り入れた内容の映画というわけです。
ちなみに、『プリズン・ブレイク』に出ていたピーター・ストーメアが悪役として出演していますが、てっきり、ほんの顔見せ程度の出番しかないのかと思ってました。何しろ、映画界でそれなりの地位にいる人なんで、こんなB級未公開ホラーにまともに関わったりはしないんだろうと。
ですが、驚いた事にかなり大きい役でしたし、演技にも決して手を抜いている所の見られない、いつも通り見事な悪役っぷりを見せてくれました。特に、ラストに主人公達の前に立ち塞がった時に見せた奥義「アイスピック・ロボトミー(目の下にアイスピックをスッと刺して、二度と動けないという状態にする必殺技)」はかなり強烈な技でしたね。

舞台となる精神病院は、広さも結構ありますし、内装も新しくてキレイという、そこそこ豪華な雰囲気のある所です。そういう所なんで、小汚い刑務所が舞台の場合とはまた違う趣が感じられましたね。
で、そこに潜入して、「妹救出」というミッションを敢行しようとするストーリー展開は中々面白味があって良かったです。時々異常者のフリをして怪しまれないようにするなんて実に面白いじゃないですか(普通逆ですからね)。「これは、もしかしたら、ゾンビ映画じゃなくても面白い映画になったんじゃないか」と思い始めるぐらいでした。
ですが、中盤に差し掛かる頃になると「あれ、思ったよりも盛り上がっていかないな」みたいな、停滞ムードが漂い始めてきまして。ゾンビパニックも、起こりそうで起こらないという感じで、段々と後半に対する不安も高まっていきます。

そんな中、ストーリーにも書いたように、突如としてゾンビパニックが大発生する事となります。
実は、もうかなりの数の患者に対して、謎の薬オーフィウムを注射するという実験をしていまして、言ってみれば、大多数の患者がすでにゾンビ菌に感染してるような状況だったんです。
で、この薬が体内にあると、“血”を見る事で何らかの反応が起こり、ゾンビに(まあ、実際は感染者ですけど。動きも早いですし)変身して他人を襲って食うようになるんです。
この映画の面白い所は、珍しくも、ゾンビ同士が共食いをするんですよね。「生きた人を襲う」よりも、「今そこにある流血」に反応するんで、例えば、大勢のゾンビに襲撃された際、一体にダメージを与えたら、生存者よりもそいつの傷口を狙う奴が現れたりするんです。

そして、ゾンビで溢れかえった精神病院からの決死の脱出という後半戦になるわけですけど、この後半のテンションの高さときたら、もう見てて大興奮するぐらいでしたね。
舞台が限定されてるからこそ感じられる緊張感というのもあって、思わず、『ダイハード』のような、舞台限定型アクション映画の面白さを思い出すぐらいでした。いや、ゾンビ映画なんですから、『ダイハード』よりも『デモンズ』を引き合いに出すべきですかね。
そうか、この映画は『デモンズ』のような、舞台限定型ゾンビ映画の後継作になるわけなんですね。ゾンビパニックが始まるのが遅いのは残念ですが、始まってからはもう文句無しの面白さが炸裂していました。

と言う訳で、見る前はそこそこ面白いB級ゾンビ映画かと思っていたんですけど、かなり満足度の高い一品でした。最近はレベルの高いゾンビ映画が多くて嬉しい限りです。90年代のゾンビ映画氷河期の事を考えると、ほんといい時代になったと思いますね。