監督・脚本:ヴィクター・サルヴァ
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ
出演:ジーナ・フィリップス(トリッシュ・ジェンナー)
ジャスティン・ロング(ダリー・ジェンナー)
ジョナサン・ブレック(クリーパー)
パトリシア・ベルチャー(ジェゼル)
ブランドン・スミス(デイビス・トッズ)
アイリーン・ブレンナン(キャット・レディ)
トム・タランティーニ(ローチ)
(感想)
驚くほど、怖い映画でしたね。とにかく、全体的に、まるで悪夢を見ているかのような雰囲気が漂っていて、映画が終わりエンドクレジットが始まった時には「終わってくれたか・・・」と、悪夢から覚めたような感覚に襲われてしまいました。
映画の序盤は、まるで『激突』を彷彿とさせるような展開になってます。周りを牧草地帯に囲まれた道路を走る主人公である若い姉弟の乗る車に、謎のトラックが襲撃をしかけてくる。その後、二人はトラックの運転手がボロい教会の脇にある謎の穴に袋に詰められた死体のような物を投げ込んでいるのを見てしまい、好奇心と「もし死体ではなく、まだ生きた人だったら」という思いから、その穴を覗こうとします。
で、弟のダリーが穴の中に落っこちる事態となるんですが、そこで映し出される恐るべき光景・・・。ほんと、夢に出そうなぐらいです。
この映画の中で、本当に怖いのは実はここまでです。ただ、その怖さが半端じゃなかったんですよね。そこまで怖いと思う最大の要因が、穴の中に入り、驚愕の光景を目の当たりにしたダリー演じる、ジャスティン・ロングの演技です。まさに顔全体で恐怖を表現しているとでも言うような、恐怖に引きつった顔。しかもわざとらしくも大袈裟でもない、本当に「とてつもなくヤバいものを見てしまった」と思えるような表情なんです。
DVDに付いてる監督の音声解説でも、このジャスティンの演技を絶賛してましたが、私も本当に凄いと思います。今まで見たホラー映画の中でも、こんな「恐怖顔」を作れた俳優はいなかったように思います。
中盤から、実は主人公を追っていたトラックの運転手こと「クリーパー」の正体が観客に示されるようになってきます。そしてその正体とはなんと、翼の生えた怪人!
これまでの恐怖演出が真に迫ったものだった為、この敵の正体を知って肩透かしを食らった人も多数いるようですね。まあ、もともと監督兼脚本のヴィクター・サルヴァは、この映画を「怪物映画」として作ろうとしていたので、今更「犯人が怪物だなんてガッカリ」言っても仕方が無いですよね。
最初に、この映画の事を「悪夢を見ているようだ」と書きましたが、そう思う理由の一つに、「主人公の行動がもどかしい」というのがあります。実際の悪夢でも、走りたいのに早く走れなかったりとか、もどかしい部分がありますよね。そんな感じを受けるんです。
なぜそんな感じを受けるのかと言うと、この二人、ホラー映画では絶対にとってはいけない行動を全ての局面でとってしまうんです。そのせいで話はどんどん嫌な方向に進んで行きます。さらに、乗ってる車も急いで発進したい時に限って、なかなか動いてくれなかったりしますし、他にも、主人公の後ろに怖い物が迫って来てるのに、主人公がそれになかなか気付いてくれないなんてシーンも出てきます。
最初に見た時、『弟切草』とか『かまいたちの夜』のような、サウンドノベルのゲームで、選んじゃいけない方の選択肢ばかりを選んだストーリーを映像化したもののような感じも受けました。
この辺、人によっては恐怖を感じる以前に、イライラしてしまうかもしれない点なんで、敵の正体が怪人だという事も含めて、人に「とても怖い映画だ」とは勧められないのが残念なところです。
あと、ハッピーエンドを望む人にも絶対に勧められないですね。何しろ、主人公達は常に破滅の方向に繋がる選択をしてるんですから・・・。
さて、怪物のクリーパーですが、こいつが出て来たせいで映画の怖さが半減したせいもあり、あまりいい印象の無い奴ですが、ワイヤーワークで車の突進をかわす身のこなしは面白いです。続編では主人公をマッチョに設定して、肉弾戦で戦わせてほしいものです。
そういえば、このクリーパーが、武器の鎌のような物で跳ね飛ばした犠牲者の首を持ち、口を使って、舌を引っ張り出すという、最悪のシーンが出てきます。この光景を見てさっさと逃げ出そうとするダリーのリアクションが最高です。あんなの見せられたら誰でもあんな顔で「早く車を出せ!」と喚きたくもなるでしょう。
と言う訳で、モンスター映画なのに、見所はモンスターではなく襲われる主人公の一人の演技という、一風変わったモンスター映画とも言えそうですね。
もう一人の主人公トリッシュを演じるジーナ・フィリップスの恐怖演技は至って普通です。そう思うと、もしダリー役が誰か別の俳優だったら、もしかしたらそこそこ怖い、普通のモンスターホラー映画になってたかもしれないんですね。
ちなみに、この映画の正式(かどうかは定かでない)な邦題は『フランシス・フォード・コッポラPRESENTS ジーパーズ・クリーパーズ』という、アホみたいに長いタイトルです。
とにかく、配給側としては、この映画にコッポラが関わってるという事をアピールしたくてしょうがないみたいですね。このタイトルを見た人が「久々のコッポラ監督作なのか」と勘違いしてくれれば願ったり叶ったりといったところなんでしょう。まるで、一時期のリュック・ベッソン製作映画みたいですな。
DVDには、アメリカ版と日本版の予告編がそれぞれ収録されてるんですが、とても同じ映画の予告編とは思えないぐらいに、作りがかなり違ってるのが面白いです。
アメリカ版は怪物のクリーパーを前面に出した、監督の意図した通りの「怪物映画」的な作りになっているのに、日本版は怪物の姿を全く出さず、事件の背景である「都市伝説」を前面に持ってきてます。
で、どっちが面白そうに見えるかというと、やっぱり日本版の予告編の方が面白そうに見えるんですよね。国民性の違いというやつなんでしょうか。多分、アメリカ人は日本版の予告編では面白そうだとは思わないんでしょうね。