監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
特殊メイク:トム・サビーニ
音楽:ドナルド・ルビンスタイン
出演:ジョン・アンプラス(マーティン)
リンカーン・マーゼル(クーガー)
クリスティーン・フォレスト(クリスティーナ)
エレイン・ナデュー(ミセス・サンティーニ)
(感想)
主人公、マーティンは吸血鬼という事ですが、ドラキュラみたいなのとは全然違います。十字架も日光もにんにくも教会も苦手ではありません。劇中で本人も言ってるように、血を吸いたくなってしまう病気なのです。そんなマーティンの苦悩と孤独な日常を綴って行く物語です。ホラーというより、青春ドラマといった趣きですね。
実はマーティンは、一見20歳前の若者ですが、実際は84歳なのです。ただ、この事は狂信的な伯父が語る事なので、実際の年齢は定かではないです。マーティンの過去の回想として、昔の出来事がモノクロで映るシーンがありますが(そこでもマーティンは現在の若さのまま)、その光景は現在の出来事と似ていたりするので、妄想なのかもしれないんです。
その病気のせいで伯父から怪物扱いされたりするんですが、マーティンが人の血を啜りたくなるというのは事実で、その為に何人も人を殺しています。でも、加害者と言うよりも、気の毒な被害者にも見えるんですよね。
「吸血鬼の血をひく若者」、または、「人の血を啜りたくなる病気を持った若者」が、悩みながらも凶行を続けてしまう物語という事なんですけど、見ていて、誰もが抱える、「自分はみんなとは違う」という悩みを、ホラーという手法で描いてみた映画、というような印象を受けましたね。この「自分はみんなと違う(悪い意味で)」、というのは誰しも思い当たるところはあるんじゃないだろうか。例えば、嗜好とか身体的なコンプレックスとか。そういう悩みにぶつかった時に見る映画なのかもしれないですね。
ただ、この映画のラストはハッピーエンドではありません。マーティンは最後まで伯父に“悪の吸血鬼”と思われたまま終わりますし、自分の悩みを告白していたラジオ番組でも結局、ただの狂人か嘘つきだったと思われたまま終わりです。この映画自体には「救い」というのは何一つないんです。
でも、悩んでる時には、主人公が前向きに生きていく映画を見るというのもいいですが、逆にこういう、救いの無い話を客観的に見つめるというのも結構、心が落ち着くものです。
もちろん、これは私の主観的な感想で、本来の映画のテーマは別の所にあったのかもしれません。でも、優れた映画というのは、いろんな角度から見れたりするものですからね。