監督・脚本:ウィリアム・サックス
特殊メイク:リック・ベイカー
出演:アレックス・レバー(スティーブ/溶解人間)
バー・デベンニング(ドクター・テッド・ネルソン)
マイロン・ヒーリー(マイケル・ペリー将軍)
アン・スウィーニー(ジュディ・ネルソン)
ミッチェル・オールドレッジ(ネイル保安官)
リスリー・ウィルソン(ドクター・ローリング)
レインボー・スミス(サンドラ)
エドウィン・マックス(ハロルド爺)
ドロシー・ラブ(ヘレン婆)
ジョナサン・デミ(マット)
ジャヌス・ブリース(ネル)
(感想)
決していい出来の映画ではないんですが(むしろ、酷い出来だと思う)、何とも言えないようなパワーが漲ってるのが感じられる映画ですね。それもマイナス方面のパワーが(笑)。
殺人鬼が人を殺しまくる映画の一種ですが、その殺人鬼の設定がとっても変わってます。何と、奇病に感染した宇宙飛行士で、その病気のせいで体がどんどん溶けているんです。なので、常に体からベトベトしたものを滴らせています。気持ち悪いですねぇ。ちょっと『バタリアン』のタールマンに似た感じの外見です。
さらに、なぜか溶ければ溶けるほど強く、凶暴になるらしいんです。恐ろしいですねぇ。ちなみに、なぜそんな事になるのかの説明は出て来ません。それ以前に、この奇病が何なのか、治す方法はあるのかなど、そういった情報は一切出て来ません。出るのは溶解人間の凶行と、医師と将軍がその跡をチンタラ追いかける様のみです。
この映画の顔である溶解人間のグロメイクは、何と若かりし頃のリック・ベイカーの手によるものです。相当な低予算の映画だと思うんですが、かなり気持ちの悪い、良くできた特殊メイクとなっています。
ですが、ストーリーは、約10分に一回は突っ込み所が出てくるような代物ですし、恐怖演出はこけおどしみたいなものばっかりです。全編を通して常に妙な音楽が鳴ってるんですが、怖い事が起こる(または起こりそうな)シーンでは音楽も怖そうな曲になります。で、恐怖感を煽ってくれるのは、映像よりもこの音楽の方だったりするんですよね。
という、映画としてはもう酷い代物なんですが、そういうタイプの映画ならではな魅力の溢れた映画でもありますね。
あと、序盤の方に限られてるんですが、「何を考えてこんなシーンを撮ったんだろう」と思わずにはいられないような神秘的なシーンがあります。
一つは、病院のベッドから目覚めたスティーブが、自分が溶解人間になってる事に気付いて暴れだし、病院を脱走するシーンです。ここで、看護婦が一人、溶解人間に襲われて悲鳴を上げながら逃げるんですが、この看護婦がなぜかおデブさんです。そんな体型の人が悲鳴をあげながら逃げる様をスローで映してきます(全編通してスロー演出なんてほとんど出てこないのに)。しかも、このおデブは“スローのままガラス扉を体当たりでぶち破って病院の外に逃げる”という奥義まで披露。一瞬、これはコメディ映画なのかと思ってしまいましたよ。
もう一つは、釣り人が溶解人間に頭を千切られて殺されるというシーンがあるんですが、その頭が小川に放り込まれるんです(そういえば、ここもスローだったような)。で、この頭が「どんぶらこ、どんぶらこ」と下流に流れていく様を、結構しつこく映してくるんです。
その後、別のシーンになってストーリーが進み、またシーンが変わると、また釣り人の頭が小川を「どんぶらこ、どんぶらこ」と流される場面が映されるんです。この監督は何をこだわってるんでしょう(笑)。しかも、今度は流れるだけではありません。川の先に滝があり、頭が滝から落ちて行く様をしっかりカメラに収めているんです。
いやぁ、どちらも凄いシーンでした。果たして、文章でこのシーンの面白さを伝える事が出来たかどうか。
さて、最終的に溶解人間は完全に溶けて終わりです。しかも、掃除のおっちゃんにゴミと思われて処理されてしまいます。悲し過ぎですね。あと、登場人物は最終的に死にまくり、上の出演の欄に書いた登場人物で、最後まで生き残るのは2人ぐらいしかいないほどです。
「登場人物がほとんど死んで終わる」「映画の出来自体がよろしくない」「エピローグとして、別の宇宙船が土星輪に向かった事が告げられる」など、見終わった後には何とも言えない“もの悲しさ”のようなものが残りますね。溶解人間というキャラクターに、“怪物”としての側面の他に“悲劇性”みたいなものが含まれて描かれているせいもあるかもしれません。
ちなみに、溶解人間にぶち殺される人の中に“ジョナサン・デミ”という名前の人がいるんですが(役名じゃなくて俳優名)、調べてみたら『羊たちの沈黙』の監督のあの人らしいです。こんな映画に俳優として出演していたんですねぇ。