監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
特殊メイク:トム・サビーニ
出演:ジェイソン・ベギー(アラン・マン)
ジョン・バンコウ(ジェフリー・フィッシャー)
ケイト・マクニール(メラニー・パーカー)
ジョイス・ヴァン・パタン(ドロシー・マン)
クリスティーン・フォレスト(マリアン・ホッジス)
ステファン・ルート(ディーン・バーベイジ)
スタンリー・トゥッチ(ジョン・ワイズマン医師)
ジャニン・ターナー(リンダ)
サル(エラ)
(感想)
おサルさんが人を襲う話ですが、動物パニック映画ではありません。もちろん、猿顔の会社員が出てくる話でもありません(モンキー社員・・・)。
事故で半身不随となった主人公アランの世話をする為に、友人の科学者が持ってきたサルなんですが、これが、ただの頭のいいサルではなく、知能を高める効果があるという怪しげな薬を打たれたサルなんです。その薬というのが、凍ってシャーベット状になった人間の脳みそを削ったものが加えられているという、かなり危険な代物です。言わばこのサル、マッドサイエンティストの産物だったりするわけですね。
で、このマッドサイエンティストが、主人公にサルをプレゼントする友人その人なんですが、普段の行動なども別におかしくない、怪しい人物というわけではありません。もちろん、演じてるのがジェフリー・コムズでもありません(役名はジェフリーですが)。薬に混ぜた脳みそも、ちゃんとした手続きをとって手に入れた、事故か何かで死んだ人からの取った脳みそです。
ただ、「人間の脳みそを実験に使う」とか、「サルの知能を高めようとしてる」なんて事をしてるあたり、この手の映画の科学者によくいるタイプの、自分を神だと密かに思ってるような、危ない心を持っている人物ではあるんでしょう。
また、主人公のアランも、事故で突然にして半身不随となってしまった事で、時折、屈折したような態度を見せます。そんな主人公の心を開かせてくれたのが、サルのエラなんですが、なぜか、次第にアランとエラの心が同化し始めていきます。アランが「憎い」と思った人物を、エラが殺しに行ったりしてしまうのです。そして、これはアランがエラを操っているというわけではなく、アランの「憎い」という感情を察知したエラが、自分の意思でやっていることなのです。
実際に殺人を行っているのはサルですが、その動機が人間の心の闇から来ているというところがとっても怖いですね。
と言うように、この映画では、「サルの凶行」による惨殺シーンで怖がらせようという演出ではないんです。根底にある、人間の心の闇で恐怖を煽るという演出になっているんです。なので、特殊メイクがトム・サビーニだというのに、スプラッターシーンが全然出てきません。
私は基本的に、淡々と人間の心の闇だけを描いたようなホラーはあまり好きじゃありません(暗いし、登場人物の行動に見ててイラつかされる事が多いから)。ですがこの映画の場合、根底にあるのは心の闇ですが、実際に画面上で映されてるのは、“サルが人を襲う”という、動物パニック映画のような分かりやすい映像になってるところがいいです。
この辺は監督のジョージ・A・ロメロの得意とする演出法ですよね。『ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド』なんかも、表面だけ見ると、ゾンビが人を襲うモンスターホラーでしたからね。しかし、その裏にはさりげなく別の恐怖も描いているという・・・。
この映画、登場人物が、なかなかクセのある連中ばっかりです。怒りっぽい主人公に、マッドサイエンティストの友人。そして、アランの身の回りの世話をする為に雇われたヘルパーのおばちゃんも、世話をする為に雇われてるのに、その世話を嫌々やってるという、見てて不快な人物です。
そして、仕事を辞め、家も売って、息子の世話をする為に押しかけてきたママ。実はこの映画中、この“ママが押しかけてくるシーン”が一番怖かったです(笑)。まさに「ママにお手上げ」状態。そして、このママも段々とヒステリックなところを現してきて、終いには半身不随の息子を連続平手打ちするという暴挙に出ます。ただ、それもアランが酷い事を言ったのが原因でもあるんですけどね。まさに黒い人間模様です。当然、ママはこの後、サルのえじきとなります。
ちなみに、ヘルパーのおばちゃんは、ペットの鳥をサルに殺されたところで早々に家から出て行ったので、死なずに済んだようです。こいつが見てて一番、嫌な奴だったんですけどね・・・。まあ、アラン自身は、世話をしてもらってたせいか、あんまりこの人の事を怒ってないみたいでしたが。
ラストは、アランとエラの一騎打ちという展開になります。でも、エラはアランを殺そうという気は無いようです。それよりも、今までとは逆の立場、エラがアランを支配するという立場になろうとします。
このシーンの怖い所は、主人公が襲われるのではなく、主人公の知人が襲われて行くところでしょうね。そして、アラン自身は首しか動かせない身なので、猛毒の入った注射器(友人の科学者、ジェフリーがエラを殺す為に持ってきたのを奪われた)で、気を失って倒れてる恋人を刺そうとしてるのを止める事も出来ません。これは、今までのホラーでもほとんど見た事の無いタイプの恐怖ですね。
ちなみにこの映画、「第17回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭」にて、“黄金のアンテナ賞”という、わけの分からない賞を受賞したようです(同年のグランプリはクローネンバーグの『戦慄の絆』でした)。
また、動物愛護団体からクレームが付き、上映禁止運動も起こったそうです。それへの対策か、映画の冒頭に「この作品におけるサルに対する暴力的な場面は、実際にはまったく危害を加えてはいない」という一文が出てきます。
サルに対する暴力的なシーン、どう見ても人形を使ってるようにしか見えないんですけどね(笑)。まあ、観客に人形と分からせないように、うまく撮ってるわけなんで、映画のメイキング映像とかをある程度見慣れてない人には、人形も本物に見えるんでしょうね。