監督・脚本:ジム・マイケル
脚本:ニック・ダミチ
出演:ニック・ダミチ(クラッチ)
キム・ブレア(ケイシー)
ロン・ブライス(ココ)
ボー・コリー(ケイ)
ハビエル・ピカーヨ(オットー)
ラリー・フライシュマン(チャーリー)
ラリー・メディック(フランク)
ティム・ハウス(ロス)
ジョン・ホイト(ビッグ・ヴィック)
その後、アパートに戻った一行は部屋に閉じこもる事にするが、ネズミゾンビの大群がアパートに侵入してきてしまう。
果たして、クラッチ親子他、アパートの住人達は生き残る事が出来るのだろうか!?
(感想)
そのタイトルから、てっきり、ゾンビ化したネズミが人を襲う、動物パニックみたいな内容なのかと思っていたんですが、菌を持った普通のネズミに噛まれた人がゾンビになるという、オーソドックスなゾンビ映画でした。
ですが、監督がかなりの映像派の人だったようで、演出面では中々の個性が出ていました。ゾンビパニックが発生するまでが結構長いんですけど、それまでの描写が、まるで「ニューヨークの下町に住む市民の日常を描いたミニシアター映画」を見てるかのような、気取った感じのものになっているんです。
でも、見ていてあんまり悪い感じがしないのは、後にゾンビパニックが起こる事が分かっているからなんでしょうかね。「一風変わった前菜」として楽しんで見る事が出来ました(ちょっと長かったですけど)。
それに、時折、後の大パニックの引き金になるような場面を入れて、不穏な空気を出してきてくれますし、ここでしっかりと人物描写のなされたキャラが後半死んでいく事になるわけなんで、後の展開でショックを受けたければしっかり見ておかなければならない部分です。
さて。主な舞台がアパートだったり、襲ってくる連中がゾンビよりも感染者系統の雰囲気を出してる輩だったりという事で、「さては、『REC/レック』を参考にして作られた映画だな」と思っていたら、何と製作はこっちの方が先だったんですね。きっと、この映画の監督は『レック』の存在を知った時悔しかったでしょうねぇ。この映画も、時々ドキュメンタリータッチな映像とか出てきますし、ゾンビ襲撃時も、襲われる側視点の映像が多かったんで、似たような雰囲気はあるんですよね。でも、「全編POV」という手法による新鮮味が無いんで、結果として、『ネズミゾンビ』の方が埋もれてしまうわけですよ(まあ、この映画が埋もれる理由は、他にも色々とあると思いますけどね。前半がタルいとか)。
ともかく。その映像へのこだわりなどを見て察するに、監督はもの凄い高い志を持って、この『ネズミゾンビ』を撮っていたのかもと思えてくるぐらいでした。他の凡百の低予算ゾンビ映画には無い格調高さがあって、基本的には見た事のある展開ばかりなのに、どこか新鮮味が感じられたものでした。
ちなみに、この映画で出てくるゾンビ菌は、「ネズミ→人間」の場合は、“発症してゾンビ化”まで結構時間が掛かるんです。ですが、それでゾンビ化した人間が他の人間を噛むなりして感染させた場合、発症が凄く早くなるんですよね。
なので、映画の序盤で菌を持ったネズミが登場し、ゾンビ菌を人に移してから、中盤のゾンビパニック発生までが長くなってしまうんです。その代わり、一度パニックが発生したら、それが町中に広がるのは猛スピードという事で、中盤で最初のゾンビが発生してから、ついさっきまでは不穏な空気が流れてるだけという段階だった街が、ほぼ一瞬で様変わりするという、面白い効果を生んでいるんですよね。
前半は少々退屈でしたけど、この「一気に感染爆発」な感覚は中々新鮮でした。『ドーン・オブ・ザ・デッド』の冒頭もこんな感じでしたけど、あちらは「寝て起きたらゾンビ地獄」という状況でしたからね。こちらは「普通に生活していて、気付いたらゾンビ地獄の真っ只中」なんです。
さらに、襲ってくるのがただのゾンビでも感染者でもなく、“ネズミゾンビ”だというのもユニークです。何が違うのかと言うと、外見と唸り声が違うんです。何と、当初は普通のゾンビ、または感染者みたいな感じだったのが、段々とネズミ人間みたいな外見になっていくんですよね。
「それで、普通の感染者と何が違うのか」と言うと、まあ「見た目が違う」というだけなんですけど、「怪物に襲われている」という印象がより強くなるかもしれないですね。
あと、人間から忌み嫌われている害獣であるネズミに変身してしまうというのは、結構不快な怖さがあるのかもしれません(この点を突き詰めたら“ゴキブリゾンビ”が最恐になるんでしょうけど、これだと誰も見ないでしょうからね)。
生存者のサバイバル描写も、ゾンビ映画のツボをよくついた感じのもので、見ていて非常にワクワクさせられました。
主人公が元ボクサーという事で、ネズミゾンビをパンチで撃退するという、アクションを感じさせる面があるのもいいです。ついでに、その主人公の娘も軍人ですからね。まあ、こちらはそれほど格闘を見せないんですけど、こういう、アクション派が主役グループにいるというのは実に頼もしいです。
ただ、ゾンビパニックが発生するのは夜になるんですけど、その「夜の暗さ」というのを映像でしっかり表現してる為、暗いシーンが多いんです。当然、今画面内で何が起こってるのかよく分からないぐらいの暗さです。ついでに、襲撃シーンでは迫力やら臨場感やらを出す為に、カメラがやたら揺れたり、カットが細かくなったりしてしまうんです。
でも、そればっかりではなく、合間にはちゃんと、「今、どういう状況なのか」というのを見せるショットが出てきたりするんで、「壊滅的に見辛い」という所まで行ってなかったのは幸いでした。
ちなみに、この映画のDVDに、映画ライターと思しき連中の音声解説が収録されてまして(「映画秘宝」とかその辺に関りのある人達っぽい)、「こういうホラーマニア達のマニアックな語り合いというのを聞いてみたい」と思って期待していたんですが、これがとんだ期待外れでしたね。
と言うのも、この人達は、この『ネズミゾンビ』の解説をする為に集まって収録をしてるはずなのに、ロクに映画を見てないんです。なので、映画に対する言及がことごとく適当なんですよね。
結局、この映画を「駄作」と切り捨てる感じの解説になっていて、時々、映画の展開に対して突っ込みを入れたりするんですけど、何しろこの映画の事を何も理解しないで喋ってるんで、その突っ込みがほとんど的外れなんです。
「コイツら、これで金貰ってんのか」と思うと、何だか腹が立ってきましたね。