悪魔の植物人間
<THE MUTATIONS>
73年 イギリス映画 88分

監督:ジャック・カーディフ
出演:ドナルド・プレザンス(ノルター教授)
   トム・ベイカー(リンチ)
   ブラッド・ハリス(ブライアン・レッドフォード少佐)
   マイケル・ダン(バーンズ)
   スコット・アンソニー(トニー・クロイデン)
   ジル・ハワース(ローレン・ベーツ)
   ジュリー・エーゲ(ヘディ・ジェンセン)
   オルガ・アンソニー(ブリジェット)

(あらすじ)
生物化学者のノルター教授は、人と植物の融合した、新たな人類を作り出す研究をしていて、その実験材料に、若い男女を誘拐してきては人体実験をしていた。
誘拐には手下のリンチを使っているのだが、このリンチは顔が醜く歪んだフリークスで、「言うことを聞いたら顔を元に戻してやる」とノルターに約束されて、協力しているのだった。
そのリンチは、小人のバーンズと共にサーカスの見世物小屋の座長をしているのだが、自分の外見にコンプレックスを持つリンチは、小人他、見世物のフリークス達を化け物呼ばわりし、顰蹙を買う日々だった。

ノルターが教鞭を取る大学の学生のトニーは、仲間達と見世物小屋に入ってみるが、切符売りをしていたバーンズが、最近行方不明となった女友達のブリジェットの持っていたメダリオンをしていた事から何か怪しいと思い、夜中に見世物小屋に忍び込む。だが、リンチに見つかってしまい、逆に捕らえられてしまう。
ノルターの実験室に運ばれたトニーは、悪魔の植物人間に変えられてしまう。本来の植物人間は光合成で生きる事が出来るのだが、まだ実験段階である植物トニーは、体に食虫植物の口のようなものが備わり、それで人間を食べないと生きていけないのだ。

一方、ノルターはもう一息で完璧な植物人間の完成という事で、リンチに最後の実験台をさらってくるよう指令を出すのだった。

(感想)
いわゆる、マッドサイエンティスト物の映画ですね。この映画のマッドサイエンティスト、ノルター教授は、突然変異を意図的に起こす事で、さらに進化した新人類の創造を目論んでいます。それで世界を征服するとか、そういう野望があるわけではなく、科学者の探求精神みたいなものから、研究を続けているようです。
そして、こいつが目指す新人類とは、「動物と植物の良いところを合わせ持った生物」。動物のように動き回る事が出来、植物のように根を張ったり光合成で栄養を蓄えたり出来る生物です。そうなれば飢えも無くなり、世界は平和になる、なんて事を思っていたりするようです。

困った事にこの教授、実験にはネズミやら猿やらは使わず、人間を用いているんです。しかも、健康そうな若者をさらって来て、です(研究の初期段階では動物だったようですが)。
まあ、ここまではよくいるマッドサイエンティストですね。今更、特に驚くような事は無いです。奇形の人を捕まえて、「言うことを聞いたら元の人間に戻してやる」と言い含めて、そいつに誘拐をさせていたりする辺りも、この手の悪人がやりそうな手口です。
ですが、こいつの行動に、「うわ、酷いことしやがる・・・!」と思ってしまうものがあります。それは、「実験の失敗作を見世物小屋に流している」という事です。
序盤で女学生が誘拐される場面が描かれるんですが、ここまででしっかり名前も顔も映してきたこの女が後に実験の失敗作となり、「チベットのトカゲ女」という触れ込みでフリークショーに登場する辺りは、もう、何か言葉も無いといった感じですね。
ショーに登場する所は映されないものの、その姿は後に暗い所で一瞬出てきます。これがまた、ショッカーの改造人間みたいなグロテスクな容貌で、もはや元の人間の面影全く無しです。
さらにこの植物女、数日で謎の死を遂げ、奇形男に海に捨てられてしまいます。あまりに悲惨過ぎ・・・。この「何で死んだのか分からない」というのが、なんだかとっても物悲しいです。

ちなみに、前述のフリークショーでは、植物女の登場シーンは映さないものの、「本物の奇形の人達」はしっかり登場させてきます。これまで、見世物小屋なんて行ってみたいとも見てみたいとも思ってなかったですが、やっぱり見るものじゃないですね。
もしかしたら、一部は特殊メイクの方もいたのかもしれないですが、「関節がくにゃくにゃ曲がる小人」とか「超ガリガリ女」、「目玉が飛び出す男」は間違いなく本物でしょうね。ハリウッドの超大作の制作資金とリック・ベイカー辺りの技術があれば、こういった人達も特殊メイクで作れるかもしれないですが、そんな金の掛かった映画じゃないですからね、これ(しかも70年代と、古い時代の映画ですし)。

ちなみに、諸悪の根源であるノルター教授は、自らが作り出した植物人間(元はトニーという名の学生)に食われる事となります。植物トニーは、なまじ、知能が残っていた為に、自分をこんな姿にしたノルターを死ぬほど恨んでいたんでしょうなぁ。
また、この植物トニーは、ノルターの研究所から一旦逃げ出したんですが、その時に最初に向かったのが恋人の家でした。ですが、変わり果てた姿となった自分を見た恋人は悲鳴を上げて失神。その後、廃人みたいな状態になってしまいます。この映画、やる事が一々手抜き無しといった感じですね。
誘拐の実行犯である奇形男のリンチも、小人達から「あなたも仲間だ」とフレンドリーに言われたのに、「一緒にするな化け物!」と言いながらブチギレたり、娼婦に金を払って「アイ・ラブ・ユー」と言ってくれるように頼んだりと、相当哀しい奴です。

と、相当にいかがわしくも悪趣味でハードな映画ですが、この「見る人、選びまくり」感は、“いかにもホラー映画!”という感じがしていいですね。