エルム街の悪夢
<A NIGHTMARE ON ELM STREET>
84年 アメリカ映画 91分

監督・脚本:ウェス・クレイブン
音楽:チャールズ・バーンスタイン
出演:ロバート・イングランド(フレディ・クルーガー)
   ヘザー・ランゲンカンプ(ナンシー・トンプソン)
   ジョン・サクソン(ドナルド・トンプソン)
   ロニー・ブレイクリー(マージ・トンプソン)
   ジョニー・デップ(グレン・レンツ)
   アマンダ・ワイス(ティナ・グレイ)
   ニック・コッリ(ロッド・レイン)
   チャールズ・フィッシャー(キング先生)
   ジョー・アンガー(ガルシア刑事)

(あらすじ)
ある日、ナンシーと友人のティナは、赤と緑の縞のセーターを着て、手にカギ爪をつけた謎の男に襲われる夢を見た。その夢に脅えるティナは、両親が出掛けて留守にする晩、友人達を家に呼んで、「悪夢にうなされたら起こして」と頼む。
だがその晩、ティナは悪夢にうなされたかと思うと、突然体を引き裂かれて死んでしまったのだ。そして、一緒の部屋で寝ていたボーイフレンドのロッドが犯人として逮捕される。

実はこの事件は、夢魔フレディの仕業だった。もし眠りに落ちたら、夢の世界を支配するフレディに襲われるのだ。そして、その夢で傷を受けたら、現実でも同じ場所に傷が出来、その夢で死んだら、現実でも死んでしまうのだ。

幾度となくフレディに襲われる夢をみながら、すんでのところで目を覚ましてきたおかげで死なずに済んでいるナンシーは、フレディの帽子を掴んだところで目を覚ましたとき、現実の世界にその帽子を持ち出していたの気付く。この事から、フレディ本人を夢の世界から現実世界に引きづり出してやろうと考えるのだった。
果たして、フレディ捕獲作戦は成功するのか!?

(感想)
『13日の金曜日』『ハロウィン』などと共に、ホラー映画界のヒットシリーズとして有名な『エルム街の悪夢』の第1作目です。
なぜこの映画がヒットシリーズになったのか。それは謎の怪人フレディの強烈なインパクトはもちろんのこと、「寝たら危険」というこの映画のルールが恐ろしくも面白かったところも要因だったんでしょうね。

他のホラー映画と違い、この映画では現実の世界では何も危険な事は起こりません。むしろ、安全な場所でもあります。ですが、もし寝てしまい、夢の世界に入ったら、そこはもうフレディの徘徊する超デンジャラスゾーンとなるのです。
夢の世界なので、フレディは逃げる登場人物に対し瞬間移動をして先回りをしたり、自分の指を切り落として脅かしたりとまさにやりたい放題です。
一方、襲われる人間側の方は、普通の夢と同様、ちょっとおかしな行動をとってしまったりもします。どう考えてもフレディの罠だとしか思えない場所におびき出されたり・・・。まあ、こういう行動をとる時は、「自分が夢を見ている事に気付いてない時」のようですが。

また、普通の夢とフレディの出て来る夢には大きな違いがあります。それは、自分が夢の世界に入った事に気づかないほどリアルな世界であるという点です。普通の夢と違い、夢の世界に入ったスタート地点が、自分が今寝ていた場所から始まるんです。これにより、「起きたつもりでも、実はまだ夢の世界にいた」なんて事も起こったりします。
これが結構、見てて怖いんですよね。「今、主人公がいるのは、現実の世界=フレディの出ない安全な場所だ」と思って見ていたら、突如フレディが現れた!というビックリ演出まで出てくるんです。
この「夢の世界がリアル」というのは、“登場人物にとってはリアルに見えている”というだけでなく、見てる側にとっても、今登場人物がいるのが夢の世界なのか現実の世界なのかが分からないように撮られているんです。で、フレディが襲って来て初めて、その襲われた登場人物と共に見てる我々も、今いるのが夢の世界だった事に気付くという寸法です。

この映画の「夢の世界と現実の世界の区別がつかない」という展開を見ていると、現実でも、ボーッとしていてふと我に返ったとき、「もしかしたら自分はフレディの夢の世界に入ってしまっているのでは?」なんて事をつい考えたりしてしまいますね。

『マトリックス』で、「現実の世界と、現実のようにリアルな夢を区別できるか?」というようなセリフが出て来ましたが、これはこの映画でも使えるセリフですよね。
ただ、こちらは夢だと気付いたところで、フレディに対する有効な対処法が特に無いからあまり意味はないんですが(笑)。

とにかく、普通の怪人と違って、どう対処し、どう身を守ったらいいのかが分からないというのがフレディの怖いところですね。そして、そんなフレディに主人公がいかに立ち向かっていくのかが面白いところでもあります。

主人公のナンシーは、フレディの帽子を現実世界に持ち込んだところから、同じ方法でフレディ本人を現実世界に連れ出そうという作戦を思いつきます。
夢の世界では無敵のフレディも、現実の世界なら殺せるかもしれない、というわけです。
その作戦の実行に当たり、“父親に、時間になったら起こしてもらうように頼む”“起きる時間が分かるように腕時計をはめていく”“家にブービートラップをしかけておく”“ボーイフレンドから悪夢からの脱出方法を聞く”などの万全な準備をしてフレディに挑んでいきます。
そして、フレディを追い詰め、倒すことが出来たか!?という所まで行くんですが、結局ラストで「全てフレディに遊ばれてただけだった」というのが明かされてしまいます。
フレディを現実世界に連れ出すのに成功したかと思われた所も、その後のブービートラップに引っ掛けてダメージを与えたかに思えた所も、全部、フレディの夢の世界で起きてる事で、結局ナンシーはクライマックスで眠りについて以来、一度も目を覚まさなかったわけなんです。
しかも、最後の切り札にしていた「悪夢から覚める方法」も効果無し。まさに主人公、完敗です。ここまで完全に主人公が負けて終わる映画なんて珍しいですね。
ちなみに、ナンシーが家に仕掛けていたブービートラップですが、フレディが引っかかってたのは“夢の中の話”なので、まだ家にはトラップが残ったままなんですよね。きっと、後で親父が引っかかったりするんだろうな。娘に死なれたうえに、トラップにも引っかかるとはなんとも気の毒な話です(笑)。

・・・と、いうような事を、この1作目だけ見終わった段階では思っていたんですが、何と『3』でナンシーが生きて再登場する事に。
そして、眼前で起きてる事が現実なのか夢の中の出来事なのかが分からないというこのシリーズの性質の為、今後もこういう混乱が何度も発生する事になるのでした。

それはそれとして。実はこの映画に、下積み時代のジョニー・デップが出ているというのは有名な話。主人公のボーイフレンドという役で、出番も結構多いんですが、何か、とても後にスターになるとは思えないぐらいパッとしない感じでしたね。最初見た時はジョニーだとなかなか気付けないぐらいでした。