監督:トム・サビーニ
製作総指揮:メナハム・ゴーラン
ジョージ・A・ロメロ
脚本:ジョージ・A・ロメロ
出演:パトリシア・トールマン(バーバラ)
トニー・トッド(ベン)
トム・トウルズ(ハリー・クーパー)
ウィリアム・バトラー(トム)
ケイト・フィンネラン(ジュディ・ローズ)
マッキー・アンダーソン(ヘレン)
ヘザー・マズー(サラ)
ビル・モーズリィ(ジョニー)
ある一軒の家に逃げ込んだバーバラだが、そこの住民と思しきゾンビに襲われる。外に逃げ出したところ、トラックに乗ったトニー・トッドが颯爽と登場。二人でその家に戻り、ゾンビを倒し、ここに閉じこもる事にするのだった。なぜなら、トラックはガス欠なのだ。
ゾンビ以外は誰もいないと思われていたこの家だが、実は地下室に数人の生存者が隠れていた。この家の持ち主の親戚のトムとジュディ、そして怪我をして寝込んでいる娘を持つクーパー夫妻の計5人だった。
親父のハリー・クーパーはとんでもないクソ野郎で、顔を合わすなりトニー・トッドことベンといがみ合いを始めてしまう。
トムの話によると、この家の近くに給油所があるのだが、そこのカギがこの家のどこかにあるはずだと言うのだ。そこで今後の作戦として、まず家の窓という窓を木材で塞ぎ、家の近くにある給油所のカギを探し、ベンの乗って来た車を給油して逃げ出す、という計画を練るのだった。
(感想)
ジョージ・A・ロメロの傑作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のリメイク作です。
今作の監督は、何とあのトム・サビーニです。ロメロのゾンビ3部作の内、『ゾンビ』と『死霊のえじき』で見事な特殊メイク技術を披露し、後に『フロム・ダスク・ティル・ドーン』で“セックスマシーン”というイカした役名で吸血鬼相手にムチとモッコリ銃で戦う事になる、あのトム・サビーニです。
そのトム・サビーニの演出ですが、かなり手堅い雰囲気です。過去に数多くのホラー映画に関わって来ていたせいでしょうか。そんな手堅い演出で、あの『ナイト〜』をほぼオリジナルそのままのストーリーでリメイクしたという事で、当時のゾンビ映画群の中でも数少ない、“まともな”ゾンビ映画という地位を獲得した映画となりました。
リメイク映画という観点で見ると、「オリジナルの雰囲気を忠実に再現している」「しかし、オリジナルほど強烈ではない」という辺り、『テキサス・チェーンソー』と似たタイプのリメイクかもしれないですね。
ゾンビ映画ファンの間でもウケのいい映画ですが、私は実はあんまり好きじゃありませんでした。なぜかと言うと、ロメロの『ナイト〜』から大きく変化した点が一つあるんですが、それが「バーバラのマッチョヒロイン化」です。
ロメロの『ナイト〜』では恐怖で頭がイカれて、ほとんど役に立たないキャラだったバーバラですが、サビーニ『ナイト〜』では時代の変化を反映して、バーバラがマッチョ化してるんです(筋肉は付いて無いですが)。
それはいいんですが、何か、唐突にマッチョ化するんですよね、コイツが。別に、普通に「恐怖を乗り越えて強くなった」という演技をすりゃいいものを、さながら『T2』のリンダ・ハミルトンみたいな女戦士気取りでかっこつけまくり始める姿が何とも見ててムカつくんです。しかも、射撃の腕まで名人級になってるし。もう、女性が強いのはよく分かったから、そこまで必要以上に誇張しないでもいいだろうに。
さらにムカつくのが、この手の映画でこの手のキャラが出た場合、そいつは絶対死なないという事ですよ。例え、怪物に襲われて絶体絶命な状況になっても、です。それは、その女が強いからじゃなくて、怪物側が手加減してるからなんですよね。この映画でも、全登場キャラの中で、このバーバラだけがゾンビの間を歩いて移動出来てましたからね。そのちょっと前にトニー・トッドがゾンビに囲まれた時は、明らかに歩いて移動なんて余裕は無いぐらいのピンチに陥ってたのに。
で、ここまで映画全体をあげて守ってやってるのに、当の本人はクールを気取ってカッコつけまくってる様がもう、ムカつく事この上無しです。
いや、別にバーバラというキャラがマッチョ化するのはいいですよ。そのおかげでベンの仕事も大分楽になってましたからね。ゾンビに手加減してもらうのも、妙にカッコつけてるのもまあいいです。でも、それなら最後の最後ぐらいに内蔵や脳みその一つや二つぶちまけるぐらいの仕事はするのが礼儀でしょうに。
と、まあこんな理由でこの映画があまり好きじゃなかったんですが、最近はこの手のキャラに慣れてきたのか、もうあんまり見ててムカつかなくなりましたね。普通に、面白いゾンビ映画として見られるようになりました。
まあ、何よりも基本的なストーリーが面白いですからね。舞台は一軒屋ほぼ限定で、生存者達がゾンビ軍団の襲撃から必死に耐えしのいでいく様は緊迫感と恐怖感に満ち溢れています。
また、生存者達の中でイザコザが起こるのもストーリーを盛り上げる役割を果たしてましたしね。まあ、一人我儘を言ってるアホがいるだけなんですが。コイツはほんと見ててムカつきましたねぇ(ムカつく奴ばっかり出てるみたいですが)。とは言え、『えじき』ローズ大尉ほど厄介な奴でも無かったですけどね。銃も持ってないし、何より、リーダー的存在のベンの方が明らかに強そうなので、生存者達の“脅威”になってなかったですからね。
まあ、その分、ラストの死に様があっけなかったですけどね。ローズ大尉はそれは凄い死に様を披露したというのに。この映画、あのトム・サビーニが監督だと言うのに、ゴアシーンが凄くおとなしいんですよね。『ゾンビ』や『えじき』ではあんなに凄いシーンを出したのに、当の本人が監督をしたら途端に、臓物関係の露出が無くなってしまいました。当時よりも規制が厳しくなったんでしょうかね。
良くできたゾンビ映画に違いは無いですが、ストーリーはロメロの『ナイト〜』とほぼ同じですし、ゴアシーンに特別見るべき点も無い。という事で、どうにも「これだ!」という特徴の無いゾンビ映画でもありますね。
もし、ロメロの『ナイト〜』がこの世から消え去れば、この映画の価値もうんと上がるんですけどね(笑)。何しろ、面白くも怖くも考えさせられもする、いいストーリーの映画ですし。
そんな中、唯一のこの映画ならではの見るべき点は、トニー・トッドの濃くも勇ましい演技でしょうかね。誰も頼んで無いのに勝手にリーダーシップを発揮しまくる役ですが、実際、この状況下では確実に頼りになってた人物でした。さすがキャンディマンだとか思ってしまいます。バーバラやハリーが勝手な行動をせずに、おとなしくベンの言う事に従っていたら、全員、この一夜を生き延びる事が出来たんじゃないかと思えるぐらいです(ただ、地下にいるハリーの娘がかなり厄介な存在になったでしょうけどね)。
さらにこの男、終盤では屋外でゾンビ軍団と百人組み手を繰り広げてましたからね。これは凄いシーンでした。