監督:アンドレア・ビアンキ
特殊メイク:ジノ・デ・ロッシ
出演:マリアンジェラ・ジョルダーノ(エブリン)
カリン・ウェル(ジャネット)
ジャンルイジ・チリッツィ(マーク)
シモーネ・マッティオリ(ジェームズ)
アントネッラ・アンティノーリ(レズリー)
ピーター・バーク(マイケル)
ロベルト・カッポラーリ(ジョージ)
クラウディオ・ツチェット(ニコラス)
レナート・バルビエーリ(エアズ教授)
アンナ・ヴァレンテ(キャスリーン)
(感想)
これは、凄い映画です。とにかく、ゾンビゾンビゾンビと言った感じの、ゾンビ・オンパレード映画です。しかも、そのゾンビが汚い!ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』に出て来たような、役者やエキストラの顔を青く塗ったり、ちょっと傷を付けたりというのとは全然違い、顔全部に腐乱メイクを施しているんです。中にはウジやミミズをくっつけてる奴までいる始末です。
そして、そんなゾンビがほんと、大量に出て来ます。主人公達がどこに行っても、必ず出て来ます。例えば「左からゾンビが来たから右に逃げよう」とすると、今度は右からゾンビが出てくるという具合です。
とにかく、ストーリーなんて気の利いたものはこの映画には存在しません。ただひたすら、ゾンビの襲撃と逃げる人々が描かれるのみです。
また、この映画にはゾンビの他にももう一つ、ウリの要素があります。それは、マイケル少年役を演じた、ピーター・バークです。とにかく、顔、声、動作、役柄、その全てが気持ち悪いという、素晴らしい存在で、ホラー・ファンの間でも「一度見たら忘れられない顔」という評判もあるとかないとか。
何が不気味かって、少年役なのに、このピーター・バーク本人が実は子供じゃないところですね。何でも、撮影時は25歳だったとか。ただ、顔以外はまさに少年なので、撮影時の年齢が明かされるまでは「あんなに老けた顔の子供がいるのか」と一部では思われてました。
さらに、役柄が「重度のマザコン少年」というところにも、不気味さに一層の拍車をかけています。序盤の段階ではアップも多いし、「もしかしたらゾンビよりも、このマイケル君の方が怖い映画なのか」と思ってしまうほどです。ゾンビも初期の頃から画面には出てくるんですが、ばっちいメイクのゾンビがゆらりゆらりと歩いてるのが映されるだけなので、あんまり怖くないですし。
しかし、いよいよゾンビの大群が人々を襲い始めるぞ、という段階になると、地中からゆっくり起き上がるゾンビを派手な音楽に乗せながらアップで映して来ます。まさに「この映画の主役はワシじゃ!」と言わんばかりです。
これ以降は、もうマイケル君の不気味さも忘れ去られるぐらいのインパクトの、ゾンビ軍団による襲撃が展開されていきます。
とにかく、映画全般に「追い詰められる」雰囲気が漂っていて、見ていて息苦しいぐらいです。ゾンビの動きも遅いわ、登場人物の動きも機敏じゃないわで、爽快感なんてものが発生するシーンは一瞬も無いです。
全編そんな調子なので、最後の方にはもう、ゾンビの顔を見るだけで嫌な気分になってきます(笑)。そして、ゾンビ襲撃のシーンで必ず鳴る、「プオプオプオ」といった感じの効果音のようなBGMがまたさらに気持ちを沈ませてくれます。
この「追い詰められる雰囲気」はラストシーンで一気に収束されていきます。狭い建物に逃げ込んだ生き残りの人間達ですが、そこにもゾンビが上から下から入り込んできて、ついには逃げ場が完全に無くなるぐらいに囲まれるところまで行きます。さらに迫るゾンビの群れ。悲鳴を上げ続ける女の顔のアップ。それに迫るゾンビの手。ここで静止画になりエンド・クレジットです。結局、誰も助からずに終わるわけですね。
「ここまで引っ張って置いて、全員死んで終わりかよ!」と思いがちですが、私的には、映画の雰囲気を最後の最後まで壊さなかったこのラストには逆に清々しいものを感じましたね。エンド・クレジットの前に意味不明な一文が入るのもグッドです。
この映画のゾンビは、「汚い」以外にも特徴があって、何と道具を使用する知能があるんです。中盤、登場人物たちは館に立て籠もるんですが、そこに入ろうとするゾンビ達は、どこかからか斧を見つけてきて、それでドアを壊そうとするんです。終いには、数人でデカい棒を抱えて、それでドアを突き破ろうとまでします。ちなみに、そんな物をどこから持って来たのかは考えてはいけません(笑)。
他にも、一体だけ「杭を抜群の命中率で投げる」という能力を持った者もいましたし、「柱をよじ登って、二階からの侵入を試みる」なんて者もいました。特に、この「登りゾンビ」の、ゾンビ特有のゆっくりした動きで柱にしがみく様は、もはや滑稽以外の何物でもなかったですね。しかも、このゾンビがまた面白いツラをしているのも素晴らしい。もしかしたら、監督の意図した笑うシーンなのかもしれない(多分、深読み)。
とにかくこの映画、ゾンビ好きは絶対見ないといけない映画ですね。ただ、本物のゾンビ好きじゃないと、見た事を後悔するハメになりますが(笑)。