悪魔の管理人(スパニッシュ・ホラー・プロジェクト)
<PELICULAS PARA NO DORMIR:PARA ENTRAR A VIVIR>
06年 スペイン映画 67分

監督・脚本:ジャウマ・バラゲロ
出演:マカレナ・ゴメス(クララ)
   アドリア・コヤド(マリオ)
   ヌリア・ゴンザレス
   ロベルト・ロメロ
   ルス・ディアス
   ダビド・サルダニャ

(ストーリー)
あるカップルが、二人で住む部屋を探しにとあるアパートにやってきた。寝室が3つに浴室が2つ、システムキッチン付き、採光よし、そして格安、という事でやってきたのだが、近隣はどうも危ない地域みたいだし、内部も改装中という事だがあまりきれいではない。
「こんな所、とっとと帰るべ」と思った二人だが、部屋の中にあるものを見つけた。それは、ここにあるはずも無い私物に、二人がいちゃついている所を盗撮した写真だった。
全ては、不動産屋を語ってここまで二人をおびき寄せた、悪魔の管理人の策略なのだった!
気付いた時には悪魔の管理人の攻撃を受け、カップルの男は負傷。女は部屋に閉じ込められるという状況になるのだった。
果たして、この絶体絶命の状況から、二人は悪魔の管理人の攻撃を振り切り、アパートから脱出する事が出来るのか!

(感想)
「スパニッシュ・ホラー・プロジェクト」なるシリーズのもので、たまたまレンタル屋で発見して「なんだこれはっ!」と思って借りてみました。他にも数作置いてあったんですが、これが一番タイトルが楽しそうだったので選んでみ た次第。
で、まあ見る前は低予算の、地味に面白いサスペンス・ホラーなのかなと思ってました。時間も僅か67分と、失敗を掴んでもダメージの少ない短さですしね。
と、かなり油断して見始めたんですが、それがまさか、こんな映画だったとは・・・。いやもう、相当怖い映画でしたね。久々にホラー映画を見てビビりましたよ。特に前半部分で見られる恐怖演出の数々はホラー演出の教科書に載せたいぐらいのものでしたね。
中盤は悪魔の管理人の病んだ内面が垣間見られるような、会話で怖がらせるという雰囲気の展開になっているんですが、コイツがまた、頼もしいまでの病みっぷりを見せるサイコさんなんですよね。
そして、後半になると血糊や特殊メイクも登場する、多少スプラッターの入った、見たままの怖さで押してくる展開となります。
こういった色々な“恐怖”を、この短い時間にギュッと詰め込んでいるので、鑑賞後はまるで長編を見終わった後のようなグッタリ感に襲われたものでした。

主な話はアパートの中だけで繰り広げられるんですが、そんなに広くない建物なんですよね。その中に敵は一人だけで、しかも正直、あんまり強そうに見えない奴です。狂いっぷりは中々のものが感じられましたが。
何かで時間稼ぎをしないと尺が持たないと思えるようなシチュエーションですが、これを実にうまく緊張を感じ続けていられる展開にさせているんですよね。これは、脚本がいいと言うよりも、完全に演出がいいんだと思います。観客の怖がらせ方とか緊張させ方とかがほんと巧いんですよ。電話ボックスの中の話で80分持たせた『フォーン・ブース』の凄みを思い出すぐらいです。
例えば、序盤の、まだアパートに付く前のオープニングの場面において、車の中でヒロインがウトウトしてその内眠ってしまうんですが、目が覚めたら、土砂降りの雨が降っていて、外の景色も明らかにさっきまでとは異質のものになっているんです。この場面転換は見事だと思いましたね。一気に現実からホラーの世界に足を踏み入れてしまったかのような、何とも言えない不気味さと不安さが感じられました。
もう一つ例を挙げると、例えば主人公の後ろに何か恐ろしいものが近づいている、というシーンにおいて、普通はその「何か」を大きな効果音と共に出して驚かせる、という手法を使ってくると思うんですが、この映画ではまず、主人公の後ろに何がいるのかというのを特に音も無しで早々と観客に見せてしまうんですよね。それも、画面の端の方にギリギリ映り込んでるみたいな感じで。それが、結構インパクトのある奴がいるんですよ。もうこの時点でただのビックリ演出を食らうよりも数倍怖いんですけど、その後、後ろに何かがいる事に気付いた主人公がゆっくり振り向くというシーンを、怖い音楽を鳴らしながらかましてくるわけですよ。「確実に訪れる恐怖の瞬間」が引き伸ばされてるみたいで非常に恐ろしい場面でしたね。

あと、まだストーリーが本格的に始動する前の段階において、ヒロインの言動が個人的に非常に癪に障ったんですよね。「何だ、このムカツク女は」と。で、例によって「こいつ早く死なないかな」とかまた思い始めたんですけど、実際、コイツが襲われ、必死に逃げようとする様などを見るにつけ、むしろ気の毒に思えてきてしまったんですよね。もう十分怖い思いをしたからいいかと。それぐらい、悪魔の管理人の攻撃が見てて怖いんですよ。ジェイソンみたいな怪人の怖さでもなく、連続殺人鬼の怖さともちょっと違うような、何か、精神にくる怖さがあるんですよね。どことなく、『サスペリア2』の犯人の怖さに似たものがあるような気もします。

と、かなりの恐怖感と満足感を与えてくれた映画で、「この監督はきっと後にホラー映画界で有名になるぞ」と思ったんですが、実はすでに『ダークネス』やら『機械仕掛けの小児病棟』などを撮ってる人でした。
その二つの過去作、そんなに監督の才能というのを感じられるような映画ではなかったんですけどね。それなりに面白く、それなりに怖い映画ではありましたが。
ただ、この『悪魔の管理人』でついに開眼したのか、それともアパートの映画を撮るのが得意な人だったのか、この後『REC/レック』という素晴らしい映画を撮る事となりましたね。