オペラ座の怪人(アルジェント版)
<THE PHANTOM OF THE OPERA>
98年 イタリア映画 102分

監督・脚本:ダリオ・アルジェント
原作:ガストン・ルルー
音楽:エンリオ・モリコーネ
出演:ジュリアン・サンズ(ファントム)
   アーシア・アルジェント(クリスティーヌ・ダーエ)
   アンドレア・ディ・ステファノ(ラウル)
   ナディア・リナルディ(カルロッタ)

(あらすじ)
パリのオペラ座には、幽霊が出るという言い伝えがあった。オペラ座の地下には広大な洞窟が広がっていて、その奥に幽霊が住んでいるという噂なのだ。
だが、その噂は本当の事だった。一つ違うのは、幽霊ではなく生きている人間だという点で、その正体は、生まれたばかりの時に川に捨てられたが、洞窟に住むネズミに助けられ、育てられたという生い立ちを持つ男だった。
その男こと通称ファントムは、秘密の通路からしょっちゅうオペラ座に出没しては、物陰からオペラを鑑賞していた。そして、期待の若手オペラ歌手のクリスティーヌに惚れ、自らの持つ神秘的な魅力でもって誘惑しようとする。
だが、ファントムの前に、クリスティーヌの婚約者のラウルが立ち塞がるのだった!

(感想)
有名なミュージカルのストーリーを、あのイタリア映画界が誇る変態、ダリオ・アルジェントが監督・脚本で映画化し、主演に自分の娘、アーシア・アルジェントを据えた映画です。
この『オペラ座の怪人』という物語が、もともとはどういうお話なのかを全然知らなかったんですが、この映画を見る前にジョエル・シュマッカー版のミュージカル映画を見た為、だいたいのあらすじを知ってからのアルジェント版鑑賞となりました。
で、もし、シュマッカー版よりも前にこっちを見てたら全然面白く無かったと思いますね。シュマッカー版に比べて、ストーリーがかなり分かり辛いんですよね。基本的には単純なストーリーだと思うんですが、このアルジェント版、かなり余計な要素が入り込んでるんです。
ですが、物語の基礎的な知識を知ったうえでの鑑賞だった為、それは楽しく見ることが出来ました。何と言っても、「オペラ座の怪人の決定版」とも言うべきシュマッカー版とはまるで違う、品の無いホラー映画になってるところが素晴らしかったですね(笑)。
まず、ファントムが「ネズミに育てられた」という設定になってる所が凄いです。そのくせ、汚らしいネズミ男になってるわけでもなく、身なりの綺麗な紳士として登場してくる、このファンタジックさ。演じる俳優もかなりの美形の方を持ってきていて、パッと見はネズミみたいな生き物との接点なんて無さそうな人に見えるんですが、夜な夜な、自分の体にネズミを這わせて楽しんでるシーンとかが出て来るんですよね。このギャップがまたたまらなく魅力的でした。
さらに、性格は普段は穏やかなんですが、心の内は相当荒れてるらしく、かなり残虐な手口で人殺しをしたりします。その凶器も、ナタとかチェーンソーみたいな野蛮な道具ではなく、「口(と歯)」というダンディっぷり(どこがダンディだ)。この歯でもって、相手の舌をかじりとるシーンは見てて痛々しい事この上なかったですね。さては、ネズミ(mouse)に育てられたから口(mouth)を武器に使ってるんだな。いやはや、シャレた奴ですな。ただ、もし育てたネズミがratの方だとシャレにならなくなってしまいます。

このように、ファントムが完全なホラーキャラクターと化してるアルジェント版『オペラ座』ですが、他にも、定期的に「気持ち悪いシーン」「見てて不快な気分になるシーン」を挿入してきます。それも、ストーリーの本流である、ファントムとクリスティーヌの交流場面とは何の関係も無いシーンです。
例えば、不気味なネズミ捕り男が、不気味な小人の相棒と共に「スーパーネズミ捕りマシーン」を開発していたり、バレエダンサーの少女が地下で変態に追いかけられてたり。
こういう、意味不明なシーンが入る事で、ただでさえ分かりにくく演出されてるストーリーに、さらに混乱度が増す結果となっています。でも、アルジェント的にはこれらのシーンにはきっと何かの意味があるんでしょうね。
で、こんな変態的な映画の主演に実の娘をキャスティングし、さらにヌードシーンやベッドシーンをやらせてる辺り、まさにアルジェントの真骨頂といった感じですね。