エル・タロット(スパニッシュ・ホラー・プロジェクト)
<PELICULAS PARA NO DORMIR: REGRESO A MOIRA>
06年 スペイン映画 81分

監督・脚本:マテオ・ヒル
出演:ホルディ・ダウデール(トマス)
   フアン・ホセ・バイェスタ(トマス)
   ナタリア・ミヤン(モイラ)
   ホセ・アンヘル・エヒド(カルロス)
   ダビド・アルナイス(カルロス)
   ビクトリア・モラ(カーメン)

(ストーリー)
トマス老人の元に一枚のタロットカードが送られてきた。差出人は不明だが、トマスには心当たりがあった。だが、その人物はすでに死んでいるのだ。

まだトマスが若かった頃。故郷の村のはずれの一軒家に、謎の女性が一人で住んでいた。だが、村人達からは「ヤツは魔女に違いない」と噂され、誰も家に近づこうともしなかった。
トマスは、ある事から、その家に住む女、モイラと知り合う事になる。謎めいた雰囲気を持つモイラの魅力にメロメロになったトマス。そして、送られてきたタロットは、モイラとの間の思い出の一枚なのだ。

突如送られてきたタロットの謎を解くため、数十年振りに故郷に帰ってきたトマス。村は近代化が進み、当時の面影はほとんど無くなっていたのだが、モイラの住まいは当時のまま残されているのだった。
そして、トマスは村での過去の出来事から、イヤな幻覚を次々見るようになる。果たして、トマスとモイラの間で何が起こったのか。そして、タロットを送ってきたのは何者なのか!?

(感想)
『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト』のシリーズです。前に見た『悪魔の管理人』が大変面白かったので借りてみたのですが、今回はえらく地味なお話でした。怖さもほとんどなく、ストーリーも淡々と進んでいくという、本来なら見てて眠くなる類の映画なんですが、意外にもストーリーに引き込まれて、見入ってしまいました。
今回の監督は、『バニラ・スカイ』のオリジナル、『オープン・ユア・アイズ』の脚本を書いたマテオ・ヒルという人物。どうやら監督はこれが初となるようです。
『オープン〜』は未見で『バニラ・スカイ』しか見てないんですが、今回も、どこまでが現実でどこまでが現実じゃないのか見てて混乱するようなお話となっているようでした(まあ、『バニラ・スカイ』ほど複雑な話ではなかったですけどね)。

主人公トマスの、現在のパートと若い頃のパートが交互に出てくるんですが、現在のパートにおいて、主人公トマス老人がやたらと幻覚を見まくるんです。もう、どれを信じたらいいのか分からなくなってくるぐらいでした。一応、過去の話は全て実際にあった事として語られているようなのですが、最後の方で「あれ?」と思うシーンも出てきたりします。
一方、若い頃の場面では、謎の女モイラとの過去の関係がちょっとづつ明らかとなっていって、現在のパートでの謎が解明されていく、という流れになっています。
この構成も、ストーリー展開に興味を抱かせる要因ですが、それよりも、過去の、トマスとモイラの関係が何かいいんですよね。童貞の妄想話みたいな雰囲気で(笑)。
まず、モイラと知り合うきっかけが、友人達との間で「あの女は家では全裸でいるらしい」という噂を聞いて、家を覗きにいったというのが始まりでしたからねぇ。で、友人の一人が外でうっかり大きな音を立ててしまい、驚いてみんな逃走。トマスも逃げようとするが、すっ転んで気絶。で、モイラに家の中に運ばれて介抱される、という出会いでした。
この、「転んで気絶」という強引さが素敵じゃないですか。結局、足を挫いただけの怪我だというのに。で、10歳以上は年上の、神秘的な感じのする女の人に介抱されるというこの展開。「これからどうなっていくんだろう」と気になってしまいます。
でも、現在のパートでの話から、モイラがすでに死んでいる事。それも、トマスの態度から、まともな死に方ではなかった事が伺えるんです。この妄想話から、どう悲劇に繋がっていくのかも興味深いところでした。
で、結局どうなっていくのかと言いますと、まず、モイラは村人から魔女と噂されてるのですが、この村が、全員神の教えを信じて生きているという、いわゆる狂信者達の集まりみたいな村なんです。で、当然のように、コイツらが悪い奴らなんですよ。そんな連中に魔女と噂されてる人が幸せに生きられるはずもないってなものです。全く、神を信じてる奴にロクな人間はいないですな。
信仰を持ってる人の中にもいい人はいるかと思いますが、この映画ではほとんど「宗教=悪」に近いような描かれ方をしています。もしかしたら、「宗教に対する不信感」というのも、この映画のテーマの一つなのかもしれないですね。