バタリアン
<THE RETURN OF THE LIVING DEAD>
85年 アメリカ映画 91分

監督・脚本:ダン・オバノン
出演:クルー・ギャラガー(バート)
   ジェームズ・カレン(フランク)
   ドン・カルファ(アーニー)
   トム・マシューズ(フレディ)
   ビバリー・ランドルフ(ティナ)
   ジョン・フィルビン(チャック)
   リネア・クイグリー(トラッシュ)
   ジュエル・シェパード(キャシー)

(ストーリー)
軍が開発した化学薬品“トライオキシン”が入ったドラム缶が、何かの手違いで医療倉庫に送られてきていた。
ある日、ひょんな事から、ドラム缶から毒ガスが漏れ出してしまい、従業員2名がそのガスを吸い込んでしまった。実はトライオキシンには、人間をゾンビの亜種“バタリアン”化させる効力があるのだった。
さらに、検体用の死体もバタリアンとして動き出し始めてしまい、社長はこの不祥事をもみ消す為に、隣の葬儀社にある焼却炉にて、バタリアンを燃やす事にした。
だが、これが良くなかった。バタリアンを燃やした煙が空に舞い上がり、トライオキシン入りの雨を墓地に降らせる事となってしまい、墓地から大量のバタリアンが出て来てしまったのだ。

(感想)
ゾンビ映画の一種ですが、ゾンビのキャラクターに新機軸を盛り込んできたうえに、MTV世代を狙ったかのようなスピード感のある展開、ノリノリのサウンドという要素を加えた、まさに新世代のゾンビ映画といった趣のある名画となりました。
ゾンビの性質が新しくなり、「全力で走る事が出来る」「頭を攻撃しても死なない」「知能を持っていて、喋る事も出来る」「“タールマン”という名物ゾンビがいる」など、かなりユニークな設定が加えられています(ちなみに、“バタリアン”という名前は配給の東宝東和が勝手に付けた造語です)。しかも、それらが全て映画の面白さにしっかり関わっていて、「思いつきで出してみました」というのではなく、考えられて作られた設定だというように感じられるんですよね。

実はこの映画、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編として企画されていたらしいですね。ただ、あの世界からそのまま話の続いた続編ではなく、「あの映画は実は実話を元にした映画で、その原因を作った薬品がここにある」みたいな感じでストーリーが始まる事となります。
こういう手法というのも、かなり新鮮で面白いですね。捻った脚本だなと思います。奇しくも、『ナイト・オブ〜』シリーズの3作目である『死霊のえじき』と同じ年に製作されましたが、“新しさ”の面ではこちらの方が圧倒的に上でしたね(そのせいか、興収も『バタリアン』の圧勝だったとか)。
もちろん、個人的には『死霊のえじき』の方が好きですが、この『バタリアン』の方も確かにいい映画です。ゾンビ映画としての質は相当なものですからね。

ところで、この映画はどうもコメディの要素が入っているゾンビ映画、という事になってるらしいんですが、私はこの映画のどこが笑えるのかがさっぱり分からないんですよね。と言うよりも、むしろかなり怖い映画だと思うんですよ。
この映画に最初に出会ったのが、まだホラー映画が怖くて見られない時期で、その時のトラウマが残っているのかもしれないんですけどね。最初に金曜ロードショーか何かで放映した際、怖いもの見たさで一瞬チャンネルを変えて見てみたんですが、ちょうどその時、タールマンが登場して若者を襲ってる時の場面だったんです。で、このタールマンの容姿といい、人間が頭をかじられて死ぬ様といい、もう当時の私の限界を越えるショックシーンの連続でした。当然、その日の夜は怖くて眠れませんでしたよ。目を瞑ると脳裏にこの場面が蘇って来て、もう大変でしたね。その日の夜どころか、それからしばらくの間はこのタールマンの場面に苦しめられる事となったものでした。
その後、確かもう一度金曜ロードショーで放映があったんです。『バタリアン2』と2週に渡っての放映だったと思うんですけど、これを思い切ってビデオに録画して見てみる事にしたんです。トラウマの克服の為に。
でも、結局録画して以来、2年ぐらい怖くて手が出せず、ようやく見てみた時も、まだまだ怖い映画に耐性の出来てない時期だったんで、怖くてしょうがなかったんですよね。
だいたい、本来はノロノロ動きのはずのゾンビがあんなに猛スピードで、しかも大量に襲ってくるんですからね。考えられない事態ですよ。「こんなんじゃ助からないじゃん」みたいな。実際、最後は誰も助かりませんし(笑)。この終わり方も当時はかなりキツかったんですねぇ。「なんてラストだよ」とか思ってゲンナリしてしまいましたよ。で、『2』は結局見ないまま消してしまいましたからね。見たらまた嫌なトラウマ的なものが増えるんじゃないかと思ってしまって。
こういう出会い方をした為に、もう“『バタリアン』=怖い映画”という図式が私の脳の中にこびりついてると思うんですよね。なので、この手の映画を娯楽として楽しめるようになった今見ても、映画の雰囲気みたいなものに、何とも言えない“怖さ”を感じるんですよね。タールマンのいる地下室の映像とか見ると、やっぱり「何か、嫌だなぁ」とか思うんですよねぇ(“不快感”ではないんですけどね)。
普通は『死霊のえじき』の方が怖い映画だと思うんですけど(グロいですし)、私にとっては『バタリアン』の方が圧倒的に怖い映画なんです。 映画の評価や好き嫌いには、「いつ見たのか」というのも重要な要素になるのかもしれないですね。