案山子男
<SCARECROW>
02年 アメリカ映画(ビデオ用) 87分

監督・製作・脚本:エマニュエル・イティエ
出演:ティファニー・シェピス(ジュディ・パターソン)
   ティム・ヤング(レスター・ドワービック)
   ジェン・リッチー(モーガン)
   リック・エルフマン(パターソン保安官/ヒューイット)
   ロクサーチ・ビナ(ステファニー)
   ジョン・ムーア(チャド)
   ニコール・レイバーン(ニコール)
   マーク・アービンソン(ヘイリー農夫)
   ジェイソン・シモン(エディ)
   トッド・レックス(案山子男)

(あらすじ)
深夜のトウモロコシ畑で恐怖話をしている3人の若者。そのうちの一人がとっておきのストーリーを披露しだした。
それは、あるいじめられっこの高校生の話。内気な性格ともたついた喋り方で、クラスの生徒はおろか、教師にまでバカにされているレスター・ドワービック。トレーラーハウスに母親と二人で暮らしているが、母親はアル中のヤリマンで、年中トレーラーに男を連れ込んでいた。
ある日、いつものようにからかわれていたレスターだが「弱い者いじめは許せない」という熱血漢娘のジュディに助けられる。ジュディに特別な感情を持つようになったレスターだが、ある夜、パーティで酔っ払ったジュディが、いじめっこの一人とキスをしている現場を目撃してしまう。
傷心のまま家に帰ると、ちょうど酔っ払いのブ男が母親とヤッてる最中だった。キレてブ男に突っかかるレスターだが、逆ギレしたブ男にトウモロコシ畑まで追い掛け回され、あげくに首を絞められて殺されてしまうのだった。そして、レスターが最後に目にしたのは、死に行く自分の頭上で括られてる一体の案山子だった。
実はこの案山子、悪魔が宿っているという曰くのある案山子だった。そこにレスターの怨念が憑依し、殺人モンスター案山子男として復活するのだった。
案山子男は、かつてレスターをいじめていた連中から、まるで無関係の人まで次々と殺していき、ついにはジュディもその手にかけようとするのだった。

(感想)
『13金』のような、謎の怪人に若者が殺されまくる映画ですが、その怪人はフレディのように陽気なキャラクターで、クリーパーズのような体術を使います。そして、舞台や登場キャラは『ハロウィン』や『スクリーム』風です。
このように、数多のスラッシャーホラーの要素が垣間見える映画。監督・製作・脚本を兼ねるフランス人、エマニュエル・イティエは当然のようにこういったジャンル映画の大ファンです。何しろ、インタビューで「『悪魔の毒々モンスター』を見て育った。ロイド・カウフマンが師匠」と言い、エンドクレジットでは、いきなり「ダリオ・アルジェントにこの映画を捧げる」という一文を出し、さらに尊敬する監督の名前を列挙していきます。
この手のホラー映画の大ファンが、趣味が嵩じてその手のホラー映画を撮り上げてしまった、といったところなんでしょうか。ですが、やはりこのジャンルに愛着がある人の手による映画なせいか、他の似たタイプの映画と比べて面白く仕上がってます。
まず、映画の顔となる殺人鬼のキャラクターが凝ってますね。案山子男ですからね。スパイダーマンならぬ、スケアクロウマンですよ。そう言えば、『スパイダーマン』の音楽担当であるダニー・エルフマンの兄が、保安官と最初に案山子男に殺されるブ男の二役で出てたりします。
この案山子男、殺しのバリエーションもかなり豊富で、同じ手法は二度と使わない徹底振りです(“同じ凶器”は使う事がありますが)。さらに、中に入ってるのはスタントマンなので、動きがいやに華麗です。空中大回転ジャンプで現れたと思ったら、若者に回し蹴りを食らわせたりしてましたからね。
フレディ的な陽気さで獲物を怯えさせるような事を言ったりと、見てて楽しい、見事なホラーキャラクターとなっていました。

「いじめられっこが案山子男として復活して復讐をする」というストーリーも、怪人の殺しの動機に分かり易さを与えてくれていいですね。怪人側に肩入れして見る事が、ストーリー上で推奨されてる形になっているのは、この手の映画としては珍しいかもしれません。
ですが、最後の標的となる、ヒロインに当たるキャラクターが、「かつて、いじめられていたレスターを助けた事がある」という人物です。この、最後のシーンだけは怪人側ではなく、人間側に肩入れして見られるようになってるんですよね。この辺りは、よく考えて作ったものだな、とか思いましたね。
やはり、監督の「ジャンル映画愛」のおかげか、同じタイプのB級スラッシャー映画と比べると、見易さも面白さも一段、高いレベルにあるのが感じられます。この手の映画を知り尽くしている人だからこそ作りえた映画なんでしょう。ちなみに、撮影にかかった期間は僅か8日だったとか。この調子でこれからも頑張っていただきたいと思ったら、この映画の続編では監督を降りて、プロデューサーとしてのみ参加しているようです。何が起こったんでしょう(笑)。

と、個人的には好評価な映画ですが、「ホラー映画」としてはあまりいい出来ではありません。尊敬する監督として名前を挙げたトビー・フーパーやジョージ・A・ロメロ、ウェス・クレイブン、ジョン・カーペンターらが撮ったホラー映画には、ちゃんと“恐怖”というものが描かれていましたが、この映画にはそれが全然ありません。
「この映画のメインストーリー自体が、都市伝説として語られてる話だ」という辺りや、ラストシーンなどは色々と想像の余地を残してくれるいいものだと思いますが、その全体的な見せ方がホラー映画よりもアクション映画風なんですよね。
ただ、何しろ師匠がロイド・カウフマンなんで、全て計算したうえでの事なんでしょうね。思えば、尊敬する監督の中に、ブライアン・ユズナの名前も挙がってたような気がします(何故か、リュック・ベッソンも混じってましたね)。この映画で狙ったのは『悪魔のいけにえ』や『ハロウィン』ではなく、もっとお気楽かつハイテンションな、恐怖感よりも昂揚感を与えてくれるような所だったんでしょう。そう思うと、監督の思惑通りに仕上がった、完成度の高い映画のように思えてきますね。