フォレスト・オブ・ザ・デッド
<SEVERED>
05年 アメリカ映画 95分

監督・脚本:カール・ベッセ
出演:ポール・キャンベル(タイラー)
   サラ・リンド(リタ・ホフマン)
   ジュリアン・クリストファー(マック)
   JR・ボーン(カーター)
   マイケル・テイゲン(ルーク)
   レアンネ・アダチ(ステイシー)
   ジョン・ラードン(グレッグ)
   パトリック・ギャラガー(アンディ)

(あらすじ)
樹木の成長促進の為に開発された謎の薬剤「GX1134」が原因で、森林の一角でゾンビパニックが発生。森にいた森林伐採業者と環境保護団体の面々がゾンビ化して人々を襲っては生肉を食らったりするのだった。

その森林を所有している会社は、GX1134の試験区域の連絡が途絶えた事から、役員の一人を調査に派遣する。選ばれた社長の御曹司タイラーは、着くやいなやゾンビに襲われて森に逃げるが、伐採業者と環境保護団体の一部の生き残り達と出会うのだった。
「一体、伐採業者と環境保護団体は何人いたんだ」と思うぐらい大量のゾンビが溢れ返るゾンビ地獄と化したこの森林から、タイラー達は生きて脱出する事が出来るのか!?

(感想)
『ドーン・オブ・ザ・デッド』のヒット、そしてロメロ御大の復活作『ランド・オブ・ザ・デッド』の登場で、いよいよ本格的なゾンビ映画ブームが到来しました。そんな「ゾン流」の中に現れたこの一作。
きっと、『ゾンビ・オブ・ザ・デッド』や『ミート・マーケット』の仲間である、低予算自主製作映画なんだろうな、と思っていたんですが、何と、それなりの予算の掛けられた、商業用B級未公開映画の類だったんです。

結論から言うと、相当いい映画です、これ。監督か製作か脚本家のどれかに、間違いなくゾンビ映画ファンがいますね。ゾンビ映画ファンがゾンビ映画に望むものというのが分かってる人の仕事ですよ。
それか、ゾンビ映画が流行ってるから作る事になったものの、ゾンビの事なんてよく分からないから、代表作であるロメロの『ゾンビ三部作』のDVDを買って研究し、感心した部分をうまく抜き取って作品に反映させてみた、のどちらかだと思いますね。
ともかく、この「我々の見たいものがよく分かってるな」感は、『ショーン・オブ・ザ・デッド』でも感じられたもので、非常に好感触です。

舞台が森林というのも珍しくて面白い点ですね。適度に暗く、歩きづらい地形であり、脱出が困難なほど広大。そして、そんな地形で繰り広げられるゾンビパニック。もう、これだけでもワクワクしてくるじゃないですか。「自分ならどう逃げるだろう」とか考えてしまいます。
また、ゾンビパニックの舞台が特定の地域に限定される事で、「ここから逃げ出せればとりあえず助かる」という希望がある所もいいですね。
で、この森林において、生き残った伐採業者と環境保護団体がサバイバルをする、というストーリーですが、当然、もともと敵対し合っていた間柄だけに、いざこざの絶えない、まるでまとまりの無いグループなわけです。
ですが、この危機を助け合いながら乗り切っていく事で、次第にみんな打ち解け合っていく事となります。中には途中で命を落とす仲間もいて、そんな死と隣り合わせな状況を切り抜けた事で、戦友的な感情も芽生えていたのかもしれません。この辺、生き残りの人選が「元々敵対していた関係だった」というのが効いてますね。「ただ知らない人同士」よりもドラマチックな感じがします。しかも、この和解っぷりを全く前面に出さずに演出している所も、クドくなくていいです。
その後、団結した生き残り達は、脱出の為に森林の中を移動していくのですが、途中で別の生き残りのグループと出くわします。なぜかコイツらが、すでに小さなコミュニティーを作ってるんですよね。しかも、専用の囲いをこしらえて、中で「ゾンビ撃ちゲーム」とかやってるんです。
このコミュニティーの存在は、『死霊のえじき』の軍人達の地下世界をかなり彷彿とさせますね。この映画のゾンビ映画としての質を考えると、これはパクりというより、リスペクトなんだと思うんですが、ここは本当に必要な場面だったのかちょっと疑問でしたね。少々、唐突な展開過ぎるような気がしました。
でも、ここからストーリーが全く違った展開になるわけで、メリハリが出来て良かったという面もあります。主人公達の「身の危険度」が、今までとあまり変わって無いという辺りも、「人間もゾンビに負けず怪物だ」という『ゾンビ』のラスト的雰囲気が感じられていいです。
そして、常に誰かに対して怒ってるようなイヤな雰囲気のヒロインが、実はツンデレキャラだったのが判明するのもこの辺りのシーンでした。何かもう、「ほう、こう来たか」とか思ってしまいましたねぇ。

さて、肝心のゾンビ達ですが、ちゃんとしたゾンビメイクを施され、結構な量のエキストラが使われ、きちんと人肉を食い、その動きは決して早くない。まさに、昔ながらの味わいのゾンビ達です。やたらうなり声をあげてるのは『バイオハザード』(ゲーム版)の影響かもしれないですが。
ゾンビ役のスタントマンの「ゾンビ歩き」が少々演技過剰に見える事もありますが、襲撃シーンでは映像を激しくブラせる事で、そういう「違和感を感じそうになる点」をうまく隠しています。その一方、人が生きたまま食われる様をしっかり描写するシーンも定期的に出してきてくれるので、ゾンビの行動に対する不満はほとんど無いですね。
また、映像は、常に青みがかったような寒々しいもので、少しザラついた感じも出しています。『ドーン・オブ・ザ・デッド』のクライマックスで出てくる、朝方(日の出前の頃)の映像に近い感じです。これが、なかなか雰囲気を出してて良かったですね。

自主制作映画界だけでなく、アメリカのB級映画界がこういうまともなゾンビ映画を作ってくれるというのは、ゾン流ブームにとって非常に良い事だと思いますね。これからも頑張って欲しいものです。何しろ、80年代のゾンビ映画ブームで気を吐いたイタリア映画が、現在、グロ描写の規制ですっかり骨抜きになってますからね(代わりに、ドイツ辺りがグロくて汚いバッタ物ゾンビ映画とか作ってくれればいいんですけどねぇ)。