ショーン・オブ・ザ・デッド
<SHAUN OF THE DEAD>
04年 イギリス映画 100分

監督・脚本:エドガー・ライト
脚本:サイモン・ペッグ
出演:サイモン・ペッグ(ショーン)
   ニック・フロスト(エド)
   ケイト・アシュフィールド(リズ)
   ディラン・モーラン(デビッド)
   ルーシー・デイヴィス(ダイアン)
   ペネロープ・ウィルトン(バーバラ)
   ビル・ナイ(フィリップ)
   ピーター・セラフィノウィッツ(ピート)
   ジェシカ・スティーブンソン(イヴォンヌ)

(あらすじ)
電器屋に勤める冴えない男ショーンは、ついに数年付き合っていた恋人リズに振られてしまった。
長年の友人のエドと一晩中飲み明かしたその翌日。世界は一変していた。謎の奇病が蔓延し、人々が次々とゾンビ化。町中にゾンビがはびこる未曾有の大パニックが起こっていたのだ!
ようやくその事態に気付いたショーンとエドは、妙にウキウキしながらサバイバルをおっ始めるのだった。

(感想)
この映画、製作者の『ゾンビ』やロメロへのリスペクトが、映画の節々から強烈に感じられます。それこそ、リメイクの『ドーン・オブ〜』とは比べものにならないぐらいのリスペクト度です。当然、ゾンビはまっったく走りません。それどころか、かつてないぐらいの超スローな動きです。
そしてその数も、かなりのものです。『ドーン・オブ〜』や『バイオU』ほどの製作費が無いんで、一画面にいっぺんに映るゾンビの量は上記の映画ほどではないですが、ゾンビ映画の水準で言えば、かなり多めと言える量が出て来てくれます。
そして、ちゃんと人をとって食います。はらわたも出ます。噛まれた人もゾンビになります。知人や家族もゾンビになって襲いかかってきます。挙句の果てには、『ゾンビ』の劇中で使われた曲が使われる箇所もあります。
まさに、ゾンビファンがゾンビファンの為に作った映画といっても過言ではない大サービスぶり。
ですが、普通のゾンビ映画ではなく、コメディタッチのゾンビ映画です。イギリスらしいウィットに富んだギャグやジョークが飛び交う愉快な展開を見せるんです。それでも、その中身はしっかりとした“ゾンビ映画”になってるところが凄いです。

かつてのゾンビ映画の製作者達のほとんどは、『ゾンビ』のヒットにあやかって、儲けの為にゾンビ映画を製作していました。
それが今は、『ゾンビ』のファンだった若き映画作家が、ゾンビ映画を作りたいが為に作っているんです。ロメロと『ゾンビ』にオマージュを捧げた形で、ゾンビ映画を生産しているんです。
いやぁ、いい時代が来たものですなぁ。こんなに健全なゾンビ映画が作られるとは。

・・・ですがね。実は私、こういう、ロメロへのオマージュに満ち溢れた健全なゾンビ映画よりも、昔の、ただブームに乗った形で作っただけという、さして『ゾンビ』に愛着があるわけでもない人が作ったゾンビ映画の方に魅力を感じるようなんです。この映画を見て気づきました。

この映画。中盤まではコメディなんですが、中盤から終盤にかけて、これまでのノリとかなり変わった、シリアスな展開になるんです。そして、それまでは表立って出ていなかった「ロメロへのオマージュ」が、ドカーン!と前面に出て来ます。
で、ここから急にノレなくなってきたんですよね。それまでは喜んで見てたんですが。そして、この「何か、違うんだよなぁ・・・」という感覚、確か『28日後』でも似たような感覚を抱きました。
『28日後』が私の中でダメなのは、ロメロへのオマージュを出したせいで、あろうことか『ゾンビ』や『死霊のえじき』の雰囲気が出てしまった事が要因でした。ヘタに、これら名作ゾンビ映画の事を意識させてしまうと、もう、コピーした偽物みたいに見えてきてしまうんです。
で、この『ショーン・オブ〜』でも、『ゾンビ』や『えじき』、果ては『ナイト・オブ〜』を意識させてしまうようなシーンを出してしまいました。
ロメロが撮った映画じゃないのに、ロメロのゾンビ映画みたいなシーンが出てくるというのは、何とも居心地の悪い感じがします。一言で言うと、違和感があるんです。その、オマージュシーンだけ異様に浮いて見えるんですよね。映画全体が『ゾンビ』に匹敵するぐらい完璧なゾンビ映画だったなら、そういったシーンが入っていても違和感は感じないと思いますが、そんなゾンビ映画を作るのは不可能ですからね。客観的に見れば可能かもしれませんが、主観的には不可能です。なぜって、私が認めないからですよ(笑)。
この『ショーン・オブ〜』のロメロオマージュシーンは、間違いなく、ファンサービスの為のシーンだと思うんですけど、私は逆にそういったシーンが映画の評価が下がるぐらいのマイナス要素に思えてしまいましたね。嫌なファンですなぁ、まったく(苦笑)。

私が『ドーン・オブ〜』をゾンビ映画として大評価してるのも、リメイクなのに、全く『ゾンビ』を感じさせなかった所なんですよね。
そして、昔の「ゾンビや『ゾンビ』に愛着のない人が作ったゾンビ映画」も当然、ロメロへのオマージュ的シーンなんて出て来ませんでした。パクリシーンなら出て来てたような気もしますが、どうせ『ゾンビ』と比べるというレベルにすら達してない映画なんですから、気にもならないです。
そう言えば、私が『サンゲリア』より『サンゲリア2』の方が好きなのも、ここに原因があるような気がするなぁ。『サンゲリア』といえば、『ゾンビ』と双璧を成すとも言われるゾンビ映画ですからね。『ゾンビ』と比べてしまう、という立場にいる分、『サンゲリア2』よりも不利だったんでしょうね。

話を『ショーン・オブ〜』に戻しますが、それでこの映画が嫌いかというと、もちろんそんな事はありません。前半部分は今までのゾンビ映画にないタイプの雰囲気で、かなり新鮮でした。『ゾンビ』の曲が使われるのも前半部分なんですが、その使われる箇所が『ゾンビ』のシーンを意識させない、『ショーン・オブ〜』ならではな場所で使われるので、単純に大喜び出来ました。むしろ「素晴らしい選曲だ!」と感動すらしましたね。
しかも、エンドクレジットの最後の方にも、『ゾンビ』のラストの曲が使われてました。ここもいい選曲でしたねぇ。どうも、音楽に関しては問題無いらしいです(笑)。