シーバース 人喰い生物の島
<SHIVERS>
75年 カナダ映画 94分

監督・脚本:デビッド・クローネンバーグ
出演:ポール・ハンプトン(ロジャー・ルウク医師)
   リン・ローリイ(フォーサイス)
   アレン・マジコフスキー(ニコラス)
   スーザン・ペトリ(ジャニイン)
   ジョー・シルバー(ロロ・リンスキー)

(あらすじ)
豪華なリゾート・アイランドであるスターライナー島。ここの、とあるマンションだかホテルだかで、謎の寄生虫によっておかしくなった住民や滞在客が殺しあうという痛ましい事件が起こるのだった。

(感想)
謎の寄生虫によって理性を失った人々が凶行に走る様を描いた映画です。
この寄生虫は、もともと「人間の内臓の代わり」をするために研究開発されたものです。要するに、コイツは寄生虫のくせに、内臓と同じ働きを人間の体の中でする、というわけですね。
ですが、ついでに「人を狂わせる」という副作用があったものだからさあ大変。しかも、この寄生虫は人から人へと次々と渡り歩き、寄生虫の侵入を許した人は次々と狂っていく事となります。
狂った人は、人殺しをしたり強姦をしたりするようになるんですが、何故か同士討ちはしないようです。狂ってる人即ち寄生虫がすでに体内にいる人なわけなので、襲ってもしょうがないという事なんでしょうね。

映画の舞台となるのは裕福そうな人々がいっぱいいるリゾート地のホテルです。もしかしたら、マンションだったかもしれません。
ともかく、こんな惨劇が起こりそうも無い所が舞台だというのは中々面白いものです。普通なら、田舎町だとか研究所辺りが舞台になりそうなところですからね。

狂った人々が主人公に襲い掛かってくる、という展開になるのは終盤だけで、それまでは、主人公が謎を探ったりする様と、住民達がだんだんおかしくなっていったり、単独で移動中の寄生虫が人を襲ったりする様が描かれていく事となります。
終盤は、ちょっとゾンビ映画っぽい展開になるんですが、それまでは侵略物のSF映画っぽい雰囲気です。寄生生物に人が乗っ取られるというのは、この手の映画でちょくちょく見かけるパターンですからね。ただ、この映画は寄生生物の出生が宇宙からではなく、医療用の研究と実験の失敗から、という違いがあります。
ですが、この寄生生物の出生の違いは、「宇宙人に侵略される恐怖」とはまた違う、「細菌の漏洩と感染への恐怖」という現実的な恐怖感を生み出してくれますね(細菌と寄生虫はまた違いますけど、映画的にはまあ似たようなもんですからね)。

この映画、一応、クローネンバーグの代表作の一つなんですが、実は私にはそれほど面白味の感じられない映画でした。ネタ自体は好きなものなんですが、途中のストーリー展開があんまり面白く感じられないんです。
この映画に限らず、どうもクローネンバーグの監督作というのは、いまいち「何を訴えようとしているのか」が分かり辛いものが多いです。見てる間はそこそこ面白くはあるんですが、見終わった後、「だから何なんだろう」とか思ってしまうんですよね。
寄生虫被害が広まる原因には、寄生虫の直接攻撃だけでなく、宿主による「性交渉」というものもあります。当初は、この寄生虫の研究をしていた学者の娘(寄生虫持ち)が、その辺の輩とヤリまくった為に広まった、という流れがありました。この辺りに、何か当時の社会事情を反映してそうな雰囲気はあるんですが、何しろ、この映画が作られた当時、私はまだ生まれてもいなかったですからね。そういった事は誰かから説明を受けない限り、映画を見ただけでは分かりっこないです。
そういう、テーマ的な面を考えなくても面白い映画もありますが、この映画からテーマ性を引いたら、後に残るのは「地味な侵略SF風映画(ややゾンビ映画風味)」でしかないですからね。