監督・製作・脚本:ガブリエル・バータロス
出演:キャロライン・ブラント(ティナ・ロックウェル)
エリック・スコット・ベネット(フィル・ロックウェル)
リンダ・ウェインリブ(グロリア・ロックウェル)
リー・コシェラ(マシュー・ロックウェル)
カート・カーリー&アーロン・シムズ(サージョン・ジェネラル)
ジェイ・ダグリー(ブレイン)
プレート(ワーウィック・デイビス)
グラニー(リズ・リトル)
そんな狂人一家の罠にかかったロックウェルファミリーは次々惨殺されていく。だが、長女のティナだけはブレインに気に入られた為、生かしたまま家で監禁される事となった。
狂人一家の凶行は続き、老人だらけのバイカー集団や、ドライブ旅行中のデブ達が乗った暑苦しいトラックを襲ったりする。
しかし、バイカー老人達が後に復讐に現われ、「殺人鬼VS老人」の血みどろの戦いが繰り広げられる事となる。
一方のティナも度重なる嫌がらせについにブチギレ、強引な脱走を試みるのだった。そんなティナの前についに現われるクリエイター。その驚くべき正体とは!?
(感想)
『テキサス・チェーンソー』や『マーダー・ライド・ショー』と一応同系統の映画ですね。コメディタッチなところから、どちらかと言うと『マーダー・ライド・ショー』に近いかもしれません。
そもそも、この映画の狂人一家の顔とも言うべき武闘派サージョン・ジェネラルの造形は、『マーダー〜』の終盤にちょろっと出てきた謎の怪人と似た雰囲気でしたしね。なもので、てっきりこの映画をパクって出来た映画なのかと思ったんですが、製作年度はこっちの方がどうも早いらしいんですよね。下手したら、この映画がロブ・ゾンビに影響を及ぼしていたなんて可能性もあるのかもしれません(まあ、たまたま似てただけなんでしょう・笑)。
基本的にはバカ映画ですが、そのシュールなコメディ演出と狂人一家のユニークな設定などから、単なるクズホラーで終わらせるには惜しいポテンシャルが感じられる映画でした。
何しろ、ビデオパッケージや予告編が、映画の内容を勘違いさせるようなウソ宣伝だったにも関わらず、見始めたら、そんな事が気にならないぐらいのパワーがありましたからね。
一番凄いのは、ギャグセンスです。完全なホラー・コメディという感じではなく、どちらかと言うと、「この監督は狂ってるんじゃないだろうか」と見てる人に思わせるような、ひとクセもふたクセもあるシーンがところどころで出て来るんです。
予告編を見た限り、かなり本気の入ったスプラッターのように思えたんですが、本編は本気どころか、悪い冗談としか思えないような展開のオンパレード。
で、こんな映画に“ウィロー”ことワーウィック・デイビスが出てるのが不思議でしょうがないんですけど(笑)。少しは出る映画を選んでください。
ですが、この映画のデイビスさん、いつになくハジけていて、まるでコミックヒーロー映画の悪役みたいな超ハイテンション演技を披露していて、何かすごく楽しそうです。
肝心のヒロイン役のキャロライン・ブラントという人は、なかなかの美人さんでいい感じでしたね。何よりも、ごく普通のTシャツとジーンズ姿という衣装が最高でした。『テキサス・チェーンソー』とか『クライモリ』の登場人物みたいな「この谷間とウエストを見よ!」的な衣装より、アタシはこういう方がいいです。
さて、この映画の肝とも言えるシュールな展開とギャグの数々を順を追って説明していきましょう。完全ネタバレなんで、この映画に興味を持った人はここから先を読まずに、ビデオ屋に直行しましょう。
まず、狂人一家に狙われる事となったロックウェル一家ですが、この母親のキャラクターがかなり強烈です。小太りで厚化粧気味のおばちゃんなんですが、態度が超ぶりっこです。しかも、時折どアップで映してきます。
この母親と父親は、サージョン・ジェネラルに喉を切られるという普通の死に方をしますが、長男で、だいたい10歳から12歳ぐらいの少年は、頭から真っ二つになって死にます(笑)。ちなみに、劇中、一番酷い死に様を見せたのがコイツでした。
この、ロックウェル一家の次は、狂人一家のマザーことグラニーが開いてるお店にやってきたバイカーが標的となるんですが、何故かこのバイカーがみんなお年寄りです。
結局、一人で店に残った奴だけが殺される事となるんですが、「血の付いた皮ジャン」をその場に残していった為、心配して戻って来たバイカー仲間達に殺しがバレ、後の抗争の原因となります。
その後、ロックウェル一家の生き残り、長女のティーンエイジャーのティナと、狂人一家の中で比較的まともな思考力のあるブレインが、湖にデートに出かけます。まあ、ブレインが縄で縛って強引に連れて来てるんですが。
このティナは、ブレインに気に入られた為に殺される事を免れていて、「ブレインが面倒をみる」という約束で家に監禁させられている、という状況です。その監禁部屋には、しっかり逃げ道用の地下通路への入り口が隠されていて、その通路内では狂人一家がロックウェル一家から奪った、旅の思い出のビデオが上映されてます(誰が見てるというわけでもなく)。
このティナという人、この通路の存在とかデートの時とか、明らかな「逃げるチャンス」が訪れてるんですが、それを全く活用しようとしません。
まあそんな突っ込み所は置いておいて。このデートの最中、ブレインはティナに「本当は都会に住んでみたい」という夢を明かします。そして、「もし都会に行ったら・・・」というブレインの空想シーンが入るんですが、それがなぜか、ブレインが町を全裸で走るという映像。頭にデカい脳みそを被ってる男が、ボカシも無しでブランブランさせたまま、人通りのある路地を嬉しそうに疾走していく姿が映される事となるんです。私はこれを見て、「この映画のシュールさは計算ではなく、監督が狂ってるせいで出てるものだな」と思いましたね。
クライマックスでは、仲間を殺された老人バイカー達が殴りこみをかけてきて、一大バトルが繰り広げられる事となります。
まず、グラニーが仕掛けた爆弾で、1人が手を、2人が頭を吹っ飛ばされて死亡。それを見た老人の一人が心臓発作で死亡。残ったのは婆ちゃんと、ゾンビみたいな歩き方をしていたヨボヨボの爺ちゃん。ですが、婆ちゃんに「あいつらを殺して!」とけしかけられた爺さんは、上着を脱いで上半身裸となり、戦闘モードに入ります。果たして、ここから始まる、ワーウィック・デイビス演じるプレートと老人のバトルについて行ける人が何人いる事でしょう(笑)。
プレートは「皿投げ」を得意としていますが、無闇に投げすぎたせいでついにその皿が尽きてしまいました。プレート最大のピンチ!ですが、こんな事もあろうかと、地面に予備の皿を埋めておいたんです。それを投げ、見事老人にヒット。くずれ落ちる老人。大喜びでダンスを始めるプレート。老人、痛みをこらえて立ち上がり、今プレートの投げた皿を持って、プレートを殴打。その後、馬乗りになって殴る殴る。とどめにプレートの首をもぎとって、遠くへ蹴り飛ばし!悲鳴を上げながら飛んで行くプレートの首(ちなみに、首だけなのに悲鳴をあげてます)。そして、道路を平和に走行中の車のフロントガラスに衝突。戦いに勝った老人、婆ちゃんと手と手を取り合ってこの戦いの場を後にして行きます。
そんな、大アクションシーン。誰だ、こんなストーリー考えた奴。
ティナの方は、監禁部屋にやって来たブレインの丸出しの脳に指を突っ込んで殺害。緑の血を噴出して絶命するブレインですが、なぜか脳がパックリ開いて中身を見せてきます。なんと頭の中は空洞で、各面にアルファベットの描かれたサイコロブロックが数個詰め込まれていました。そのブロックが頭からモロモロとはみ出してきて、そのうち、4個のブロックがティナの足元に整列していきます。その4個に描かれていたアルファベットは、“L”“O”“V”“E”。アホか。
それを踏み潰すティナ。でも、木製か何かの硬いブロックなので潰れません。変わりに、足の下で転がって別のアルファベットが上に来ました。それは“H”“A”“T”“E”。ハテではなく、ヘイト。憎しみという意味です。シャレてますなあ。
そして、ブレインが入って来た正面扉から脱出したティナは、謎の実験室のような所にたどり着きます。そこにいたのは敵の大ボス、ザ・クリエイター!
その造形がまた、エラい事になってました。なんと、「首の無い、パンツ一丁のムキムキマン」。しかも、専用の台に乗っていて、見事なポージングを披露してきます。そしてその背後の壁に掛かっている看板に踊る“THE CREATOR”の文字!とどめに、パンツに付いてるヒラヒラには「ダイナマイト」と書いてある始末。もう、語るのもバカらしいんですが、そのヒラヒラの下には本当にダイナマイトが隠されています。
そんなクリエイターは、頭が無いのにどうやって喋ってるのか、やたら渋い声で哲学的な事をティナに語ってきます。そして、「どうだ!」的なポーズを決めた後、胸から腹に光の線が走って中が開き、変な生き物が飛び出してきます。ちょっと、『トータル・リコール』のコーヘイゲンみたいです。
こいつを放り投げ、周りの「変な物が入った古いビーカーみたいなの」を壊しまくったところ、クリエイター卒倒。
ですが、この場に武闘派のサージョン・ジェネラル大登場。老人達とのバトルにいなかったんでおかしいなと思っていたら、こっちの方に来てたんですね。ですが、ちょっと押しただけで背後にあったビリビリするのに触れて感電。クリエイターの股間に隠されていたダイナマイトでもって家を爆破するティナ。めでたし。めでたし。
ですが、この映画はまだ終わりません。なんと、サージョン・ジェネラルがまだ生きていて襲ってくるんです。ですが、ダメージが酷過ぎたせいで、何もしない間にダウン。ティナはそいつにとどめをさす為、バイクでひき殺そうとします。
そんなティナの脳裏に、家族の姿が浮かんできました。緑に囲まれた、平和そうな場所に3人佇む家族達は、「殺すことはない」「殺せば同類になってしまう」「許すことも大切だ」と口々に訴えてきます。そして間髪いれずに挿入される、白いハトの映像。平和の象徴。
ティナのアップに戻り、一言。「うるさい」。
サージョン・ジェネラルはバイクにひかれてバラバラになってしまうのでした。
バイクで荒野を去っていくティナ。ですが、この映画はまだ終わりません。「助かったと思ったら、まだ罠の中にいたのだ」的な終わり方はホラー映画のお約束です。
ですが、エンドクレジットの曲が、音楽一切無しの主演女優の悲鳴だけ、というのはこの映画ならではでしたね。
と、そんな映画だった、この『バーサーカー』。まあ、およそ酷い映画ではありますが、凄いと言えば凄い映画でもありました。「こんなのを見て満足したのか?」と聞かれたなら、私は「大満足でした。」と答えますねぇ、ええ。