ヴァンパイアVS.ゾンビ
<VAMPIRES VS. ZOMBIES>
04年 アメリカ映画(ビデオ用) 85分

監督・脚本:ヴィンス・ダマート
出演:ボニー・ジニー(ジェナ・フォンテーヌ)
   C・S・マンロー(トラビス・フォンテーヌ)
   マリタマ・カールソン(カミラ)
   ピーター・ルギニス(将軍)
   ブリンカ・スティーブンス(魔女)
   リガヤ・アルマー(ボブ)
   メラニー・クリスタル(テッサ)
   エリカ・キャロル(メリー)
   ロイ・タッパー(医者)

(あらすじ)
車に乗って何処かへ向かっている父と娘。ラジオからは、人肉を食べる奇病に感染した連中が次々増えていっているというニュースが流れている。
車を走らせていると、道の真ん中で停車している車に通行を妨げられる事となった。乗っていたのは、女性と、その娘だという若い女二人の計3人。娘の一人テッサが奇病に感染してしまった為、もう一人の娘、カミラを預かってほしいと頼んでくるのだった。

カミラを同乗させ、3人となった一行は、ガソリンスタンドに寄ったり、車がエンストしたり、ゾンビに襲われたりしながらも目的地へと進んで行く。その道中、娘のジェナとカミラは次第に親しくなっていくのだった。

だが、実はカミラの正体はヴァンパイアなのだ。カミラと一緒にいた娘もヴァンパイアで、カミラを預けた女性に至っては、正体は魔女なのだ。カミラと一緒にいたジェナも、レズってる最中に太ももを噛まれて感染してしまうのだった。

一方、父親のトラビスの目的は、カミラを修道院の地下に連れ込んで葬る事だった。知り合いの将軍がカミラに娘を殺されていて、その復讐の手伝いをしているのだ。
トラビスと別ルートで修道院に向かっていた将軍にはテッサの方が襲いかかるが、将軍は斧で返り討ちにするのだった。

実は、将軍の娘のメリーは、体に杭を打ち込まれてトラビスの車のトランクに押し込まれていた。奇病に感染したジェナを治療した医者を、メリーが惨殺してしまったのだ。

そうかと思ったら、実はジェナは精神病院に入れられていて、カミラはその病院に勤務する看護士なのだった。

もう、わけ分からんわ。

(感想)
ヴァンパイアとゾンビが戦う事を予想させるタイトルですが、まあ想像はしていましたが、そんな内容ではありませんでした。どちらも、世界に個別に存在しているだけで、この2種類のモンスターが絡む事はほとんどありません。

この映画の世界観は、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のような、ゾンビがはびこり始めた世界です。「人肉を食らうようになる奇病」という扱いで、劇中では主に“感染者”という表現で呼ばれます。
まだ、そんなに爆発的に広まっているわけではないようで、ガソリンスタンドがごく普通に営業していたり、警察も普通にパトロールに回っています。ゾンビをひき殺したトラビス達が、警察が通りかかった為に慌てて死体をジープのトランクに隠すなんて場面が出るように、例えゾンビでも、殺したら殺人罪で逮捕されかねないという世界情勢です。
そして、そんな世界をロードムービーよろしく、登場人物達が目的地を目指して車で走っていくストーリー展開となります。
この映画をゾンビ映画という観点で見た場合、この「ロードムービー風ストーリー」というのは大変新味があって面白いものでしたね。「まだ『ナイト・オブ〜』ほどのパニックも起こって無い」という世界観も面白いです。この映画に漂う“地味さ”が、まるで“嵐の前の静けさ”のようにも感じられたりしました。「もう数日もしたら『ゾンビ』のような世界になるんだろうなぁ」なんて思うとワクワクしてきます。
ちなみに、ゾンビの外見は、基本的には、汚い特殊メイクなうえに変な液体を口から出したりするという、『ゾンビ4』のゾンビみたいなタイプです。ですが終盤には、珍しい「女子高生ゾンビ」が群れで現れたりします(こちらは普通の低予算ゾンビみたいなメイクでした)。
また、ゾンビ達のお食事シーンが出て来たり、アメリカ映画にしては珍しく、はらわたを出す犠牲者が女だったり、そのはらわたを食ってるのが子供のゾンビだったりと、ビジュアル面は意外に凝ってましたね。

そして、この映画でさらに驚くのは、ストーリー展開の複雑さです。ロードムービー風に展開していたと思ったら、突然、場面が家の中になって、さっきまで車に乗っていた娘のジェナがゾンビ病に感染した事になっているという展開になるんです。
この映画には、ロードムービーのパートと、この家でのパート、そしてジェナが精神病院に入れられているという3つのパートがバラバラに出てくるんです。ジェナは時々悪夢を見るという設定がある為、このどれかが悪夢を映像化してる場面なのか、それともメインに描写されるロードムービーのパートの前後に起こる場面を、時間軸をずらして映しているのかが見ていて分からないんです。
もちろん、これは編集がヘタクソだというわけではなく、演出としてわざとやっているものです。成功してるのかどうかと言えば、私はかなり効果的だったと思いましたね。人によっては、意味不明過ぎて途中でストーリーを追う興味が失せる可能性もありそうですが、私はこの謎めいたストーリー展開のおかげで、逆に最後まで興味を持って見ることが出来ました。
結局、映画が終わっても、未処理に終わった伏線があったり、謎が全く解けていなかったりするんですが、これは、脚本自体が、もともと意味の通るストーリーとして書かれてなかったんじゃないかという気がしますね。
この「何だか、意味が分からない」という見終わった後に思った感覚こそ、監督始め製作陣が出したかった、見た人に感じて欲しいと思っていた感覚なんじゃないかと思います。

ちなみに、どうもこの手法、デビッド・リンチを気取ってやってみたんじゃないかという気がしますね。きっと、この監督はリンチファンに違いない。
もし、「最大のスランプに陥って、もうどうしようもなくなったリンチ」がゾンビ映画を撮ったら、こんな感じの映画になるんじゃないんだろうか。

そんなわけで、バカみたいなタイトルの映画ですが、意外にも真面目に楽しめた映画でした。