ビデオドローム
<VIDEODROME>
82年 カナダ映画 87分

監督・脚本:デビッド・クローネンバーグ
特殊メイク:リック・ベイカー
音楽:ハワード・ショア
出演:ジェームズ・ウッズ(マックス・レン)
   デボラ・ハリー(ニッキー)
   ソーニャ・スミッツ(ビアンカ・オブリビアン)
   ピーター・ドヴォルスキー(ハーラン)
   リスリー・カールソン(バリー・コンベックス)
   ジャック・クレリー(ブライアン・オブリビアン教授)
   リニー・ゴーマン(マーシャ)
   ジュリー・ハナー(ブライディ)

(あらすじ)
過激な映像を追い求める地方テレビ局の社長マックスが、拷問のようなものを映した映像を発見する。それは、部下の技師が衛星の電波からたまたま受信したものだった。
“ビデオドローム”というタイトルのついたその映像にマックスは次第に異常な興味を持ち始め、なんとかその出元を探そうとする。
そして、人々の前には一切姿を見せず、テレビのブラウン管を通して教えを説くという、怪しげなテレビ伝道師のオブリビアン教授がビデオドロームを作ったという情報を得た。
そして、オブリビアンから送られてきたビデオから、ビデオドロームの正体を聞く。これを見た者は脳に腫瘍が出来、幻覚を見始めるようになり、やがてその幻覚が溶け、肉体の一部となってしまうのだ。
マックスも妙な幻覚を見るようになり、やがて腹に出来た謎の割れ目に拳銃を仕舞い込んだりし始めてしまうのだった。

そんな折、謎のメガネ屋がマックスに接触を図ってくるのだった。

(感想)
ホラーの名匠、デビッド・クローネンバーグの代表作の一つです。
主人公が謎のビデオのせいで幻覚を見るという内容で、その幻覚描写は、リック・ベイカーの特殊メイクで気持ち悪く描かれていきます。
それはいいんですが、ストーリーが何か訳が分からないです。麻薬でトリップしてる人の体験をそのまま映像にしたような感じとでも言うんでしょうか。
10年近く前に一度見た事があるんですが、その時は何が何だか、もう、さっぱり意味が分からなかったものでした。で、それから数年経った後に見直して見たわけですが、やっぱりよく分からない映画でした(ちなみに、前回はビデオ、今回はDVDでした。時代の流れを感じさせますね)。

ただ、「そのビデオを見たら、肉体的、精神的な変化が起こる」というのは、『リング』の“呪いのビデオ”と似たところがありますね。あちらは見たら一週間後に死ぬわけですが(その理由が『らせん』で語られてたような気もしますが、もう忘れました)、こちらは見たら脳に腫瘍が出来、おかしな幻覚を見始めるんです。
で、この“ビデオドローム”の方は、「誰が何の為に作ったのか」という点ですが、どうも、映画のストーリーをそのまま見る限りでは、表向きはメガネ屋をやってる金持ちそうな男バリーが、人を操る為に作った、という事らしいです。
ちなみに、ビデオドロームはまだ実験段階で、マックスは被験者に選ばれたという事らしいです。ただ、確証は無いですが(何しろ訳の分からない映画なので・笑)。
すると、そのビデオドロームの映像が「スナッフフィルムだ」というのには特に意味が無いんでしょうかね。それとも、「ビデオ世代の人々は常にこういう過激な映像を追い求める」という事に対しての警鐘か何かの意味があるんでしょうか。この映画の製作は、確か世の中にビデオというものが出回って久しい頃ですが、その新しいメディアを使って内臓感覚ドロドロの映画を一発撮ってみるか、とクローネンバーグ的に考えた結果がこの映画なんだろうか。
そう言えばこの人、世の中にバーチャルリアリティなんてものが出回り始めた頃になったら、今度はバーチャルゲームを題材にした映画を撮ってましたね。

先ほど、呪いのビデオとビデオドロームに似たところがあるという事を書きましたが、映像的にも、「テレビのブラウン管から、実際に“何か”が出て来る」という共通点があります。もしかしたら、『リング』の貞子登場シーンの元ネタかもしれないですね(でも、ブラウン管から何かが出て来るという映像は、この映画以外でも見た事があるような気もする。どっちが古いのかは分からないですが)。
『リング』ではお化けが出てきましたが、この映画では、銃だかチ○コだか分からないような何かがニョキっと出てきてジェームズ・ウッズに向かって発砲したりしてました。あと、ブラウン管に映る美女の唇のアップが盛り上がってきたりもしてましたね。
この辺のSFX映像は、下手したら最近のCGを使った映像よりもリアル感があるかもしれません。何しろ、コンピューターで作った、現実には存在してない映像ではなく、リック・ベイカーとその仲間達が作った“現実に存在する物”を映してるわけですからね。
テープがぐにょぐにょ動いたり、ジェームズ・ウッズの腹の裂け目に銃やテープを入れ込んだりする所なんかも、映像的にも面白いしその技術的な面にも驚きがあるという、二重に凄いシーンになってました。そういうシーンを挿入した事への監督の意図とかも分かれば、もっと凄いシーンに思えるんでしょうけどね。

ところで、その特殊メイクで表現される幻覚シーンですが、何か、見ていて「これは幻覚を映像化してるのか、実際に起こってる事を見せているのか」がまたよく分からないんですよね。“手と一体化した銃”とか“敵の親玉が撃ち殺された後、体が裂けて、中から何だか分からない物がモロモロ出て来る”という映像も、現実の事なんだろうか。何やら「幻覚が肉体の一部になる」なんて話も出てきてましたからねぇ。いやはや、手強い映画です。