監督:ルチオ・フルチ
ブルーノ・マッティ
クラウディオ・フラガッソ
出演:ディラン・サラフィアン(ケニー)
リチャード・レイモンド(ロジャー)
アレックス・マクブライド(ボー)
バートライス・リング(パトリシア)
ウリ・レインターレ(ナンシー)
デボラ・バーガミニ(リア)
マリナ・ロイ(キャロル)
外人女(スザーナ)
外人男(デヴィッド)
ロバート・マリウス(ホルダー博士)
不明(モートン大将)
不明(ブルー・ハート)
そんな、危険地帯となったこの地域に、週末を過ごそうとやってきた大学生と思しき一団と、旅行中のカップル、暇そうにジープを走らせる軍人さん達がやってきていたのだ。
彼らは生きてこの地域を脱出する事が出来るのか!?
(感想)
ゾンビ映画において、ロメロの『ゾンビ』をまともなゾンビ映画の筆頭に挙げるとするならば、対極の“バカゾンビ映画”の筆頭は間違いなくこの映画でしょう。
いったい、何故こんな奇跡的とも言える出来のバカゾンビ映画が誕生し得たんでしょう。考えられるのは、元々監督する予定だったルチオ・フルチが、途中で病気により降板し、変わってブルーノ・マッティことビンセント・ドーンが監督を引き継ぐ事になった、という経緯がある映画なんですが、この辺に原因がありそうですね。
フルチと言えば、イタリア映画界きってのゾンビ映画の名監督です。と言っても、ロメロと違って「好きな人にはたまらないけど、興味の無い人にはクズに等しい」ようなゾンビ映画が専門です。
一方のビンセント・ドーンは、この映画を監督する前後に、『ストライク・コマンドー』『マシンガン・ソルジャー』『サイバーロボ』『エイリアンネーター』といった、タイトルからしてB級臭プンプンの映画を撮っていた男でした。
この、「フルチのゾンビ映画」と「ビンセントのB級アクション映画」が混ざり合った結果、何らかの化学反応が起きてこんな映画が出来上がってしまったんでしょうね。例えるなら、「赤と黒の絵の具を混ぜたら何故か黄色になった」みたいな状況でしょうか(どんな例えだ・笑)。
まあ、そんな映画なので、劇中には「作ろうと思っても作れるものではないだろう」と思えるような、天然ボケ的なギャグが満載されています。もはや、下手なコメディ映画よりも笑える箇所が多いです。何しろ、製作側的には観客を怖がらせるのが目的で作った場面が結果としてギャグシーンになってしまってるんでからね。その事を思っただけでも笑いがこみ上げてきてしまいますな。
ついでに書くと、こんな映画が『サンゲリア』の続編を謳ってるという事実にも、思い出し笑いのような微妙な笑いがこみ上げてきます。
この映画で一番おかしいのは、やはりゾンビの動きでしょうかね。ゾンビ映画なのに、B級アクションの精神が強く入り込んでるせいか、ゾンビの動きが他のゾンビ映画と比べると異様なんです。
それに加えて、主人公が軍人という設定だったりする為、「軍人とゾンビの格闘(正確にはもみ合い)」が発生したりします。
まあ、人間とゾンビがもみ合いになるという展開は、別におかしいものじゃありません。ですが、この映画では、戦闘中のゾンビが、何故か「噛む」よりも「首を絞める」という攻撃を使ってきたりします。中には、凄い勢いで飛びかかってくる奴もいましたし、それを避けられて、そのまま窓をぶち破って落下するバカもいました。
対する軍人さんも、ゾンビに大ぶりのパンチを食らわせてみたり背負い投げしてみせたりと、ちょっとしたプロレスごっこ状態となります。これを本気で「人間とゾンビの対決アクションシーン」として演出したのなら、大したセンスだと感心せざるを得ません。いや、本気で褒めてるんですよ。
ちなみに、終盤では軍人と防護服部隊との格闘シーンも出て来るんですが、この防護服部隊の格闘の動きが、ゾンビのそれとおんなじでした(笑)。
また、この映画のゾンビは正面からノロノロ歩いてくるだけではなく、物陰に隠れて、登場人物が近づいてくるのを待っている奴もいます。中には、「どうやってそんな所に入ったんだ!?」と驚かずにはいられないような場所に潜んでる奴もいる始末。もはやお化け屋敷状態です。
物陰だけではなく、高い所から飛び降りて攻撃してくる奴もいます。こちらも、「どうやってそんな所に登ったんだ!?」と驚かずにはいられないような高所から攻めてきます。また、その飛び降りる際の動きが、とても死人の動きとは思えないような、極めて元気な飛び降り方をしてるんです。例えるなら、「ゾンビメイクをしたスタントマンが、自分の格好を意識せずにそのまんま飛び降りてきてる姿」といった所でしょうか。こりゃ、例えじゃなくて、事実そのものか(笑)。
そんな愉快なゾンビ軍団の中、一際異彩を放つのが、前半に登場する「凄いスピードと動きでナタを振り回して襲ってくるゾンビ」です。その動きが某お笑い芸人の動きを彷彿とさせる為、一部のホラー映画ファンの間で“寛平ゾンビ”という愛称で親しまれている存在です。コイツのインパクトは凄いものがありましたね。まさに名物ゾンビです。
「『死霊のえじき』にバブが、『バタリアン』にタールマンがいるなら、『サンゲリア2』には寛平ゾンビがいるぜ!」といったところでしょうか。
ゾンビがそんな連中なので、対する人間側も、逃げ込んだ廃ホテルから都合よく武器と弾薬を発見したり、いいタイミングで火炎放射器を見つけたりという大活躍を見せます。
ここは、この映画の中でも有名な突っ込み所で、私も「何でこんな所に都合よく武器が落ちてるんだよ」と思ったものでした。ですが、意味も無く落ちていたわけではなく、前半でこのホテルに踏み込んで来てた防護服部隊が忘れていったものなんだろうという説明がつくことはつくんですよね。最近、気が付きました(でも結局、「防護服部隊がホテルに武器を忘れていった」という状況はギャグでしかないんですがね)。
ちなみに、武器が落ちてるのはホテルだけではありません。クライマックスの舞台となるボロい建物の周辺では、停めてあるトラックの下から手榴弾を見つけたりもしました。まさに「隠しアイテム」です。
そして、この手榴弾を放り投げると、建物が大爆発を起こして、ゾンビが数人吹っ飛んだりします。「とりあえずクライマックスで派手な火柱をあげておけば観客は喜ぶんだろう」というビンセントの考えがあっての演出なんでしょうかね。もちろん、私は「実に正しい演出だ」と支持します(笑)。だいたい、この辺りになるとこの映画にも飽きが来始めているんですが、このシーンのおかげでもう一盛り上がり出来ましたからね。
こんな、毎度バカバカしい場面のオンパレードなこの映画。数あるゾンビ映画の中でも、私が見た中では「最もハジけてた映画」という事で、個人的な評価は相当に高いです。
何よりも、他のゾンビ映画ではあまり感じる事の出来ない、「B級アクション臭」が強烈に漂ってる辺りがもうたまらないですね(いや、Z級かも・笑)。