監督・共同脚本:ニキ・ステイン
出演:ティム・ベルクマン(ドクター・クレメンス・リンデンタール)
アンチェ・シュミット(ドクター・ベレーナ・フランケ)
トーマス・サーバチャー(ドクター・マーティン・ブルーガー)
ジャン・グレゴール・クレンプ(タンクレッド神父)
(感想)
この『ザ・ペスト』には、116分のビデオ版と180分の完全版DVDの二種類があるんですが、私の見たのは短縮版の方でした。なので、ストーリーにところどころ妙な点が見受けれたりもしました(何しろ、1時間も切ってるんですからね)。
ドイツのテレビ映画で、長さ的に、二日に渡っての放送だったのでしょう。中盤あたりで、明らかに「ここで第一部が終わったんだな」と分かる個所が出てきます。
物語の舞台やパニックの規模など、同種の細菌パニック映画の中でもかなりデカい部類です。『アウトブレイク』ですら、舞台は郊外の町みたいなところだったというのに、この映画では“町”ではなく“都市”ですからね。
それに、きちんと戒厳令が敷かれ、隔離された町の様子が映されたり、市民役に大量のエキストラを動員したりと、その規模のデカさが実感として伝わってきます。
この「金かかってそうだな」感は劇場映画並なんですが、ストーリー自体は「やっぱりテレビ用っぽい」ような感じなんですよね。正直、3時間も引っ張るような話じゃないような感じです。なので、完全版と短縮版、どっちを見るのか迷うようなら、短縮版の方をお勧めします。
なぜ、この大都市でペストが発生したのかと言うと、ある男のテロ行為のようなものが原因でした。コイツは医師だが学者か何かなんですが、ペスト菌を持った実験用のマウスを持ち逃げし、町に放したらしいんです。そしてコイツ自身は謎の自殺を遂げ、真相は闇の中となります(完全版では語られるのかもしれないですが)。
「政府の対応の遅さにより、被害が深刻となる」という状況は、なんだか実際に起こりうる事態なので、ちょっと恐ろしいですね。「もし現在、都市でウイルス被害が発生したらどうなるか」のシミュレーション映画といったところでしょうか。
ただ、ここまで深刻に広まった第一の原因は、感染患者の一人が病院から脱走したせいでした。コイツは麻薬の常習者で、看護婦を人質にとって病院から逃げ出したのです。そして繁華街で咳をバラ撒き、吐血して死亡します。
さらに、後半になっても隔離施設から脱走しようとする輩が出たりします。コイツらは隔離施設から出てどこに行くつもりなんでしょうね?菌を世界にバラ撒きにでも行くつもりなんでしょうか。さらに、ただ逃げ出そうとするだけではなく、説得に来た医者を焼き殺そうとまでする連中も出てきました。
でも、実際にこういう事が起こったら、こんな行動をとる連中はきっと出るんでしょうね。
映画が一番盛り上がるのは中盤過ぎ辺りで、冒頭から事件に関わり、病院全体を仕切っていた医師のブルーガーが肺結晶なる病気で死んでしまったり、唯一の希望と思われていた、新薬を投与されていた少年が結局薬が効かず死亡してしまうという、まさに打つ手無しな状況になる辺りですかね。「いったい、これからどうなるんだろう」と見ていて手に汗握ってしまいます。
ですが、結局この後は大した事態も起きず、困った医師達や民衆のパニックなどがダラダラと描かれていくのみです。
そんな中、中心となってウイルスと戦っている医者の男女のラブシーンとか、免疫を持ったネズミを少女が見つけて持っていたといったお約束的シーンを経て、クライマックスへ突入していきます。
ラストも、アメリカが舞台の細菌パニックと違って、「都市に爆弾を落として終結させよう」という案が上層部から一切出ない為、特に緊迫感の無いまま治療法が見つかって終わりとなります。
この、終盤の展開のヌルさが、この映画を3時間も見ていたくないと思わせる最大の原因だったりします。
ところで、ペストというのは菌を持ったネズミから広がるんですが、それ以外にも、ネズミの体についていたノミからも広まるようです。患者の大半は、このノミに刺されて感染したようでした。
相手が菌を持ったノミとは、菌を持った猿よりも相当厄介ですね。