デビルズタイド
<CHUPACABRA: DARK SEAS>
05年 アメリカ映画(テレビ用) 88分

監督・脚本:ジョン・シェファード
製作・脚本:スティーヴ・ジャンコウスキー
出演:ジョン・リス=デイヴィス(ランドルフ船長)
   ジャンカルロ・エスポジート(ドクター・ペニャ)
   ディラン・ニール(ランス・トンプソン)
   チェラン・シモンズ(ジェニー・ランドルフ)
   マーク・ヴィニエロ(チュパカブラ)

(あらすじ)
未知の生物を研究しているドクター・ペニャは、ついにチュパカブラの生け捕りに成功した。そして、それを豪華客船を使って密輸しようと企むのだった。
だが、チュパカブラはまんまと檻から脱走。乗務員数人に犠牲が出てしまう。
事件に気付いた船長は、泥棒の逮捕に来ていた連邦執行官のランスと共にチュパカブラを殺そうとするが、逆に犠牲者が出るなど、なかなかうまくいかない。さらに、船に乗り込んでいたペニャが生け捕りを主張するなどして邪魔をしてくるのだ。
船長は、これがかなりヤバい事態だと悟り、近くにある軍の基地から応援を要請するのだった。

(感想)
「豪華客船を舞台にモンスターが暴れ回る」という、『ザ・グリード』的なキーワードの踊る映画です。中盤からは武装した特殊部隊も登場してくれます。
しかも!この映画で暴れ回るモンスターは、UMA好きの間ではその名を知らぬ者はいない、あのチュパカブラです。まさに、“モンスターアクション映画”と“チュパカブラ”の夢のコラボレーション実現!といったところですね。

キーワードは『ザ・グリード』的ですが、ストーリーにはかなり違いがあります。ジョン・リス=ギムリ演じる船長が、怪物が暴れ始めた頃の早い段階からしっかりとした対処をしてくれる為、犠牲者がかなり少ないんです。「映画の中で出て来る、市民の無駄な犠牲」が嫌いな人にとっては、実に嬉しい展開ですね。
きちんとヒーロー風味のキャラクターも登場させていたりするんで、船長はそんなに活躍しなくてもいいポジションなはずなんですが、早々にみんなを避難させるなどして、本来なら「チュパカブラが宴会場に現れて乗員乗客皆殺し」という阿鼻叫喚な状況になったであろう所を見事に防いでしまいます。この手の映画で「未曾有のパニックが防がれる」というのは、裏をかいた展開と言えなくもないのではないだろうか(「パニックシーンを撮るのが大変だ」という理由でこうなったような気もしないでもないですが)。
ヒーロー風味のキャラも、おいしい所を全部船長に持っていかれてる為、特にこれといった活躍の場を与えられずにただ船内をウロウロするのみという状況です。いやぁ、これは新しい手法ですね。
そんな中、チュパカブラ討伐に出た乗員や特殊部隊員、避難命令を無視して船内をウロつくアホ乗客などがチュパカブラに凄惨に殺されて行く事となります。結局、普通のスラッシャー映画と同等かそれ以上の人間は殺される事になるので、怪物の暴れっぷりには特に物足りないという感じはありませんでした。

さて。チュパカブラと言えば、最近も『チュパカブラ』という映画がリリースされたり、古くは『チュパカブラ・プロジェクト』なんてのもありました。これからこちらの未公開映画の世界でも一旗上げようと企んでいるのでしょうか。
チュパカブラはもともと家畜の血を吸って殺したりといった凶暴で恐ろしいUMAなのですが、映画ではさらに「人殺し」の能力も加わり、凶悪さがアップされて描かれてきました。
で、今回のチュパカブラはさらにこれまでにも増して、相当に凶暴凶悪な生き物として描写されています。動きもかなり速く、獲物を瞬時に引き裂く攻撃力を持ち、銃弾を受け付けない防御力をも併せ持った、まさに最強のモンスターとして大暴れをします。外見は「見るからに着ぐるみモンスター」といった風情でややダサいんですが、その活躍ぶりには頼もしさを感じずにはいられないぐらいです。
それにしても、ここまでアグレッシブに人を襲うような奴なら、UMAではなく、危険動物として世間に認知されてそうなものなんですが、きっと、人跡未踏の奥地に生息していたのでしょうね。そんなチュパカブラを捕らえたドクター・ペニャも大した人物です。

ただ、そんな凶暴なモンスターにも弱点、と言うか足枷がありました。それは、この手の映画のお約束、「相手が女性主要キャラだった時は手加減しないといけない」というものです。
軍の精鋭部隊を瞬殺していたチュパカブラですが、襲う相手が船長の娘のジェニーになった時は、もう超スローリーな動きになってましたからね。しかも、ジェニーの操る、エクササイズ用のへっぽこカンフーで撃退されてましたし。この辺りのシーンはチュパカブラが哀れで、もう見てられませんでしたねぇ。あの無敵の凶悪モンスターであるチュパカブラが、なぜただの婦女子に負けてあげなければならなかったのかと。
考えられる理由として、多分、この映画に出演するに当たり、「主要な女性キャラを襲う時は手加減をすること」という契約にサインしなければならなかった、というのがあったような気がしますねぇ。
ですが、チュパカブラにとっては、そんなふざけた契約にサインをしてまでも出たいと思わせるような映画であったのだな、という事を見終わって強く思いましたね。
まず、これまでチュパカブラが出てきた映画、先にも例に挙げた『チュパカブラ・プロジェクト』と『チュパカブラ』は、どちら超低予算のクズのような映画でした。それがこの『デビルズタイド』は、あの名作『ザ・グリード』を思わせる設定、『ロード・オブ・ザ・リング』にも出演したジョン・リス=デイビスとの共演、普通の未公開映画クラスの予算が掛かっている、ちゃんとしたB級映画である事、など、過去のチュパカブラ映画とは段違いにレベルの高い映画なんです。こんな映画に出してもらえるのなら、婦女子への手加減ぐらいはチュパカブラにとっては何でもなかったのかもしれませんね。