監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
出演:W・G・マクミラン(デービッド)
レイン・キャロル(ジュディ)
ハロルド・ウェイン・ジョーンズ(クランク)
リチャード・リバティ(アーティ)
リン・ローリー(キャシー)
リチャード・フランス(ワッツ博士)
ロイド・ホーラー(ペキム大佐)
ハリー・スピルマン(ライダー少佐)
ウィル・ディズニー(ドクター・ブルックマイヤー)
一方、町の住民である元ベトナム帰還兵のデービッドとクランクは、デービッドの婚約者のジュディを連れて町からの脱出を図ろうとしていた。
(感想)
アメリカの田舎町で殺人ウイルスが蔓延して大惨事が起こるという、『アウトブレイク』のような設定の細菌パニック映画です。
この映画のウイルスは一風変わっていて、感染した人は頭がおかしくなって人殺しを始めてしまうんです。ちょっと『28日後』の感染者みたいな設定ですが、あの映画みたいに、「見るからに化け物」といった風貌に変わるわけではなく、外見は普通の人のままです。また、感染者は、ある程度狂った後に死亡してしまいます。
実は、このウイルスは、細菌兵器として軍が極秘に開発していたウイルスだったんです。だからこんな凝った症状が出るんですね。そして、このウイルスを運んでいる人の乗った飛行機が、この舞台となる町の近くで墜落事故を起こし、それが原因でウイルスが町に広まる事となってしまったようです。
タイトルが『クレイジーズ』、サブタイトルが『細菌兵器の恐怖』と言うからには、ウイルスで頭のおかしくなった狂人達が大暴れするような映画なのかな?と思わせておいて、実はそういうのとはまた違うタイプの映画になっているんですよね。
町を隔離し、住民達を一ヶ所に集める為に、大量の白装束部隊、ではなくて、防護服部隊が派遣されてくるんです。で、こいつらが、家でいつも通りに過ごしていた住民達を、強制的に連行し始めます。理由も何も語らず、ただ問答無用に連行していくんです。
ですが、実はこの人達は、ただ命令で動いているだけの兵隊さんで、事件の詳しい話も聞かされてなかったりします(人を狂わすウイルスが蔓延している、という最低限の情報は入ってるようですが)。
「白い格好の人達に連れ去られる!」という、住民側の視点で見るととっても怖い存在ですが、この映画、基本的に、あまり住民目線でストーリーを語る場面が少ないんですよね。しかも、その住民自体、中にはすでにウイルスにやられて狂ってる奴がいたりして、この感染者達に防護服部隊の方々もバリバリ撃ち殺されたりしてるんです。
本来、恐怖の対象になると思われる、「感染者」と「防護服部隊」が、どちらも加害者であり被害者でもあるという、何とも微妙な描かれ方をされています。
また、感染者の方々は、『28日後』の感染者みたいな“外見の変化”が無いせいか、「自衛の為に反抗している市民」と「狂って襲ってくる市民」が、見てて区別がつかないんですよね。なので、防護服部隊に撃ち殺された方々の中には、感染してない人が含まれてる可能性もあるんです。
さすがロメロの映画だけあり、細菌パニック映画も一筋縄ではいかない作りになってるんですねぇ。
また、町から逃げ出そうと企む人々がいて、この中の一人が主人公として描かれています。この、主人公にとっては、逃亡を阻もうとする防護服部隊が敵となるわけです。何しろ、自分たちは感染なんてしていないんですからね。感染してないのに捕まえようと追って来る防護服部隊は敵以外の何者でもないです。
でも、ふと気づいたら仲間の中に頭のおかしくなり始めたのが出てくる事となります。こうなると、もしこの主人公達がうまく町の外に逃げ延びたとしても、町の外に感染を広めてしまう事になるんですよね。防護服の方々は、被害を町の外まで拡大させない為に頑張っているんですから、こうなるとどっちが敵だかよく分からなくなってきます。
この町には、町を封鎖、隔離する為に軍隊が来ていて、とある大佐が指揮を任されています。この大佐のいる作戦本部のシーンがかなり多く出てくる事となり、大佐は順主役的な扱いで描かれる事となります。
この人は悪役というわけではなく、とにかく、被害を最小に食い止める為に必死に頑張ってくれています。ですが、何しろ、極秘の細菌兵器が関わってる事件だけに、上層部は、情報が漏れるのを防ぐのを最優先で考えています。なので、必要な情報や人員を集めようと連絡を取ろうとしても、一回一回、時間のかかる声紋検査をパスしなければならないという手間がかかってしまいます。
外では殺し合いが広がり、中ではやりたい事も出来ない。映画は、「細菌兵器の恐怖」を食い止める事が出来ないまま、ただ混乱が広がる様を冷徹に描いていくのみです。
細菌パニックでよく見る政府の対応として、「町に爆弾を落とす」というのがありますが、この映画の上層部の方々はそういう作戦はとってきません。
「このパニックは収拾されるのか」が不明瞭のまま、映画はエンディングを向かえる事となります。
そんな映画なので、見終わった後に感じるのは恐怖感というより、漠然とした不安感でしたね。劇中の気の毒な人々の姿を見て、「自分があの場にいなくてよかったな」と思うだけという、そんな映画です。
よく出来た映画だとは思いますが、面白い映画かと言うと、少々微妙なところではありますね。
作家性は高いものの、代わりにエンターテイメント性が低いという、本来なら私のあまり好きじゃないタイプの映画なんですけど、そこはロメロの監督した映画という事で、「好きか嫌いか」と聞かれたら「好き」と答えてしまいますねぇ。
さて、このように、ウイルスでイカれた狂人による凶行をメインに描いた映画ではないんですが、何故か以前見た時に印象に残ったのはこの点だったんですよね。もっと、主人公達にもバリバリ襲って来てたような記憶があったんですが、主人公達に襲って来てたのは防護服部隊の方でした(防護服の連中が、あまり怖い存在ではなかったというのは記憶してたんですが)。いったい、何の映画と混同してたんだろう(笑)。