監督:ロブ・コーエン
音楽:ランディ・エデルマン
出演:シルベスター・スタローン(キット・ラトゥーラ)
エイミー・ブレネマン(マデリーン・トンプソン)
スタン・ショー(ジョージ・タイレル)
ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ(グレース)
バリー・ニューマン(ノーマン・バセット)
ジェイ・O・サンダース(スティーブン・クライトン)
カレン・ヤング(サラ・クライトン)
ダニエル・アンドレア・ハリス(アシュレー・クライトン)
コリン・フォックス(ロジャー・トリリング)
クレア・ブルーム(エレノア・トリリング)
トリナ・マクギー=デイビス(ラトーニャ)
レナリー・サンティアゴ(ミッキー)
セイジ・スタローン(ビンセント)
マルセロ・セッドフォード(カディーム)
ダン・ヘダヤ(フランク・クラフト)
ヴィゴ・モーテンセン(ロイ・ノード)
(感想)
この映画が公開した頃、ハリウッドではパニック映画ブームが来ていて、他にも『ダンテズ・ピーク』『ボルケーノ』などの災害映画が作られていました。この映画もその中の一本みたいな感じですが、主演がスタローンという事で、ヒーロー・アクション物としての側面も持ってる映画ですね。
パニック映画において、派手なことが起こるシーンをあまり“アクションシーン”とは言わないですが、この映画には誰がどう見ても「アクションシーンだ」と思うものが出て来たりします。
具体的には、トンネルに入っていく為に巨大ファンをくぐって行くシーンと、水を塞き止める為に天井に爆薬をしかけるシーンです。特に、巨大ファンのシーンはもう完全にスタローンの一人舞台となっています。こんなシーンが出て来るパニック映画なんて他に無いですよね。
ただ、災害映画ではあるものの、CGを使った大迫力自然災害シーンは出てこないので、どちらかと言うとパニック映画の中でも地味な部類ではありますけどね。
内容は『ポセイドン・アドベンチャー』と似たような感じになってますが(と言うか、ほとんどリメイクと言ってもいいぐらい似てる)、舞台が“ひっくり返った船”みたいな凝った場所ではなく、ただのトンネルというのも地味さに拍車をかけています。
ですが、この映画はただのパニック映画ではありません。“パニック・アクション映画”です。『ポセイドン〜』的なパニック描写の他、アクション映画的な要素が入っているんです。個人的には『ダイハード』のような、舞台が限定されたタイプのアクション映画の流れを汲んでるんじゃないかと思えるんですよね。
ただ、『ダイハード』系の映画とは、ヒーローの目的が「何人の敵を殺せるか」から「何人の人を救出出来るか」に変わっているという、大きな違いがあります。アクションヒーローは本来、“敵を殺すのが仕事”みたいな感じですが、そこにこの映画は“人を救うのが仕事”という、新たなヒーロー像を打ち出した映画でもあるんですね。その後、他にこういう感じのヒーロー映画が作られなかったのが残念なところです。
この映画、ストーリーもいいですが、何と言っても、この主役のヒーローっぷりの素晴らしさが一番の魅力です。
そんな主人公のキット・ラトゥーラ、演じるのが大スター・スタローンだというのに、映画が始まってからなかなか顔を出しません。で、ようやく出て来たと思っても、まずは後ろ姿です。ここは、観客をうまく焦らせてくれるいい演出ですね。で、ついに振り向いて(しかもアップで)スタローン=キットの顔が出るわけですが、面白いことに、ここでは全然ヒーローの顔じゃないんですよね。何か、普通のタクシーの運ちゃそのままみたいな。一瞬、「これは、『クラブ・ラインストーン』の続編なのか?」と思ってしまった人もいるんじゃないでしょうか(いるわけない)。
ですが、次の登場シーン。目の前でトンネルの入り口が崩落して多数の死傷者が出るというシーンになると、途端にヒーローの顔付きになって、人々の救出に向かうんです。いやぁ、かっこいい!
このキット・ラトゥーラという男、見ていて「何事にも一生懸命に対処しようとする人物」というような感じがします。同じパニック映画『ボルケーノ』のトミー・リー・ジョーンズが演じた危機対策本部のリーダーとはかなりキャラクターが違いますね。あちらは、口で指示を出して人を動かしたりするのに長けていて、その言動にはうまく人をまとめられる説得力に満ちていました。でも、キットには“口で人をまとめる”というのは苦手みたいな感じですね。それよりも、自ら行動を示して、その姿でまとめていくというタイプのように思えます。
キットがトンネルに入る前に生存者のリーダー的立場になっていた、ヴィゴ・モーテンセン演じるロイ・ノードは『ボルケーノ』のトミー・リーのように、口で人をまとめるのが上手いタイプのようでした。その道の成功者で、その言動には自信と説得力に満ちていて、生存者達も「この人の言う通りにすれば大丈夫」と信じさせる事が出来ていました。一本の映画の中でリーダーのタイプの対比が出来るとは面白いです。
ただ、どっちの方が優れてるというわけではないですけどね。ロイにはリーダーの才能はあっても、災害時の経験が無いので、失敗してしまったわけですからね。
で、このキットの“自ら行動を示す”リーダー像が、先に言った「何事にも一生懸命に対処しようとする人物」に見えるんですよね。
このキットの姿はトンネル内の生存者にも影響を与えて行き、トンネルに入った当初、キットに一番反抗的だったオヤジも段々と協力的になって行きます。また、若い囚人の一人ミッキーも、最初は横転したバスから一人で出ることすら出来なかったのに、途中からは、自分から何か手伝おうとするほどの変化を見せました。
この二人や、他のみんなにやる気と団結力をもたらせたのは、流れ込む水をせき止める為に、天井の一部を爆破しに行ったキットの姿を見てからでしょうね。これが成功するのを見て、みんな一時的にではあるにせよ、希望を持つ事が出来たようです。
また、ここは映画的にも中盤の見せ場のアクションシーンとして描かれます。そして、私にとってこの映画中、一番“燃える”シーンでもあります。特に、天井に爆弾を仕掛けに行く場面は凄いです。「筋肉にはこんなにいい使い道があるのか!」と感動したものでした。
その後、本来なら離れた所で爆破のスイッチを押さなければならないところを、線が絡まったせいで、かなり近い位置から爆破せざるを得ない状況になります。この一連のシーンは、もう、思い出しただけでも興奮してきます。
肉体的には超人的なキットですが、精神的にはかなり等身大な感じです。巨大ファンをくぐって登場した時は、「今、死にかけてきた」という事でもうすでにヘトヘトになってましたからね。
で、この肉体的には超人な所と精神的には人間並みというあたりのバランス感覚が絶妙ですね。「完全無欠のヒーロー」ではなく、「その頑張ってる姿が、結果的にヒーローに見える」といった感じです。そして、基本的にスタローンはそういうヒーロー像の似合う人のような気がしますね(一般的には“無敵のヒーロー”というイメージの人ですが)。
ところで、この映画のスタローンの目的は「トンネルに閉じ込められた人の救助」ではありますが、どうも、「中のみんなを連れて外に出るのが目的だった」と勘違いしてる人がたまにいるみたいですね。
キットの本来の目的は、外からの救助が来る前に、トンネル内に毒ガスが充満したり酸素がなくなったりするのを防ぐ、時間稼ぎの為に入っていったんです。特に具体的な策は無いものの(詳しい中の状況も分からないし)、災害時の行動にもトンネルの内部の事も熟知しているから、「何か」は出来るかもしれない。そういう事でトンネル内に入っていったわけですね。
助かる見込みなんてほとんど無いようなもので、しかもキット自身もそれを分かっていながら、敢えて入っていった訳です。
さらに、そこに入って行くのにも危険が伴うというところも凄い。下手したら、トンネルに着く前に死に兼ねないという状況ですよ。助かるかどうかも分からない生存者達の為にそんなヤバい所を通って行く。この行動には漢気と感動を禁じ得ないです。
キットの最も凄いと思うところが、この、“キットがいかにしてこの事件に関わるようになったか”という点ですね。普通の映画なら、トンネル内に家族が閉じ込められてるとか、自分自身が事故に巻き込まれてトンネルの中にいるとかなると思うんですが、キットはそのどちらでもないんです。“見ず知らずの人達を自分の意思で救いに行ってる”んです。なんて、素晴らしいんでしょう。まさにヒーローの鑑です。
ちなみに、パッと見は、ダン・ヘダヤ演じるEMS隊員に頼まれてトンネルに行く事になったみたいですが、あの「お前、行ってくれないか」というヘダヤのセリフは、明らかにキットの“無言の誘導”で出された言葉だとしか思えないです(笑)。きっとあの時、キットの体からは「俺にまかせろビーム」が全身から出まくっていたんでしょう。頼まれた瞬間、ビックリしたような表情をしますが、きっと演技に違いない。あるいは、まさか本当に頼んで来るとは思ってなかったとか(笑)。
この映画の監督は、後に『ワイルド・スピード』『トリプルX』などのヴィン・ディーゼル映画でヒットを連発したロブ・コーエンです。
どうやらこの監督、「ヒーローの見せ方」というのに長けてるみたいですね。この人の映画に出たおかげで、ヴィン・ディーゼルも大ブレイクしたわけですから。
この『デイライト』のスタローンがやたらかっこいいのも、スタローン本人の演技力と存在感もさることながら、この人の演出力によるところも大きいのかもしれません。
そして、当時ロブ・コーエン映画のほとんどの音楽を担当していたランディ・エデルマンがこの映画でも音楽担当ですが、そのスコアがもう、鬼のように素晴らしいです。
また、上でも書きましたが、後に『ロード・オブ・ザ・リング』で大ブレイクする、ヴィゴ・モーテンセンが出てるのも今では見どころの一つと言えるかもしれません。途中退場する役ながら、最初に見た時から「存在感のある役者だな」と思っていましたが、やっぱりその後のキャリアは上り調子でしたね。
ただ、“『デイライト』二大ケツアゴズ”の片割れ、ダン・ヘダヤと同じ画面で映るシーンが無いのが残念。でも、二人とも、相変わらずの見事な割れっぷりでした。